025 メシマズ食堂を救え!
「ユエル、取り敢えずその食堂を見せてもらってもいいかな?」
「モチのロンですぅ~!」
言い回しが古い!
おっさんか!
確かにユエルは三角巾に割烹着の古風な姿だけどさ。
あれぇ!?
よく見たら割烹着の下は着物かよ!
実は日本人とかじゃないだろうな。
髪形も栗毛を前髪ぱっつんにしたおかっぱだぞ?
まぁ、似合ってるし、かわいいから文句はないんだが。
しかし、色んな女神がいるもんだねぇ。
「そうだ、行くついでに昼飯も食っとくか?」
「「…………」」
「?」
俺はフランとミリィにそう声をかけた。
しかし、二人から返事は帰ってこない。
それどころか目配せし合ってるのはどう言うことだ?
「そういや俺、食堂には行ったことないや。ユエル、悪いけど転移させてくれないか」
「お任せくださ~い。飛べぇ~」
のんびり口調とともに飛んだ先は、それなりの広さを持った部屋である。
テーブルも十卓以上あるだろう。
白い壁に、高い天井はなかなかの解放感だ。
それに観葉植物なんかもあって、不潔なイメージは一切ない。
有線放送なんてものが神界にあるのかは知らんが、BGMがうるさすぎない音量でしっとりと流れていた。
うん、食堂の雰囲気としては悪くないね。
昔、お袋が言ってたけど、オーナーの世界観が店に表れるんだってさ。
嘘か真かわからないがね。
「厨房も見せてもらうよ」
「あ、はい~。こっちですぅ~」
トテトテと先導するユエル。
なんだかなにもないところで転びそうな歩きかただ。
「ふむふむ、綺麗なもんじゃないか」
厨房も結構広い。
しかも、ステンレス製のシンクや調理台も磨き上げられている。
これだけでもユエルは丁寧な仕事をする子だとわかるもんさ。
器具もきちんと整理整頓してあるしな。
フランも見習えばいいのに。
あいつの机の中はいつもゴチャゴチャだ。
厨房の奥にはドアがあり、その上に事務室と書かれたプレートがついていた。
なるほど、ここだけで食堂部として完結してるわけか。
しかし、この食堂は一見すると何の問題もなさそうにしか見えない。
となると、考えられることはひとつだ。
俺はそれを確かめるべくユエルに告げた。
「じゃあさ、なにか料理を作ってくれないかな」
「えっ、は、はぁ~い。かしこまりました~」
パタパタと去って行くユエル。
俺たちはテーブルについて待つことにした。
「アキト、本気なの? 死ぬ気? 考え直すならまだ生き残れる望みはあると思うの」
「アキトさん、あなたは今、死の宣告を受けたのです。ほらほら、頭上にカウントダウンの数字が見えますよ」
ズイッと俺に顔を寄せて不穏なことを言い出すフランとミリィ。
「死が前提なの!?」
「それがね、ここの料理って一品しかないのよ。すっごいのが出てくるから覚悟してね」
「へ?」
「きっと仰天しますよ。様々な意味で」
「やめてくれよ、おっかねぇな」
「お待たせしましたぁ~」
ユエルは運んできた器をドカッと俺の前に置いた。
ほう、これは丼物…………でいいんですよね?
「なにこれ!?」
どこかの牛丼チェーン店みたいな丼に盛られた謎の物体。
それは、やたらと黒いドロリとした粘液だった。
熱々なのか、それとも腐っているのか、表面では泡がブツブツと弾けている。
食欲をそそる要素は全くない。
「スペシャル女神丼ですぅ~」
「女神丼!? 女神乗ってないよ!?」
「うわ……今日のはまた強烈ね……」
「うぅうぅ……目にきますね」
快活に笑うユエル。
青ざめた顔のフランとミリィ、そして俺。
実に対照的だ。
「さぁ、熱いうちに召し上がれ~」
ユエルに促され、手渡された箸を構える。
これはかなりの覚悟が必要だぞ。
だって、明らかに変なオーラが出てるんだもん。
俺は怪しげな粘液をすくい上げ、意を決して口へ放り込んだ。
「ぶほぁ!! マズッッッ!!!」
ダメだった。
0.1秒も持たなかった。
得も言われぬ謎の味と食感。
これはひどい!
「……女神ってのはいつもこんなもん食ってんのかよ……なんの拷問だこれ」
「でしょ? 私が日本へ逃げたがる理由はこれよ」
「これが嫌で女神たちは普段、カロリー〇イトのような固形状の栄養食を食べています。あれはあれでやっぱり美味しくはないんですけどね」
「固有名詞を出すなミリィ!」
そうか。
基本的に女神は世界に干渉しちゃいけないことになってるからな。
軽々に下界へ降りてメシを食うなんて、本来なら有り得ないはずだ。
フランが脱走……もとい、勝手に日本へ来てることのほうが例外なんだよ。
たぶん、俺が特殊なケースで女神になったからフランとミリィは見逃されてるだけなんだろう。
一応俺も部長だし、多少なりと権限を持ったから黙認されているのかもしれないがな。
「でもね、これがまた不思議なんだけど。もぐもぐ、まずっ!」
「そうなんですよね。むぐむぐ、まっずっ!」
「うーむ、マジでどうなってんだろうな。もぐもぐ、クソまずっ!」
そうなのだ。
摩訶不思議とはまさしくこのことだろう。
この物体、食おうと思えば、なぜか食えないこともないのである。
当然だがひどく不味いし、ちっとも食の喜びを感じないのだが、それでも食べられるのだ。
なんて言えばいいのかわからんな、この感覚。
取り敢えず、味はともかく空腹だけはなんとか満たされた。
これほど満足感のない食事ってのも、ある意味ではすごいよな。
「なぁユエル。この、食材……? の出所はどこなんだ」
「わかりません~。上から支給されたものを指示通りにあたためて、お出ししているだけなので~」
「支給なの!? 今すぐ全部捨てちまえこんなもん! でもまぁ、これじゃ流行らないのは仕方ないだろうなぁ」
「はい~。ですのでアキトさん~、なにかいい考えはありませんかぁ~?」
「うーん……なくはないと思う」
「本当ですかぁ~!? すごいです~! かっこいいですぅ~!」
「いやいや、それほどでも。ははは」
考えはあっても実行できるかは別ですよユエルさん。
まずはクリアすべきいくつかの条件を調べないとね。
だから嬉しそうにピョンピョン跳ねないでおくれ。
食堂部を救済できるかはまだ未知数だし、不安要素もかなりあるんだからさ。
「じゃあ、まずは食堂部の予算表を確認するところから始めようか」
それでも俺は不敵に笑うのであった。




