023 かわいい部下には手料理を振舞いましょう
散々遊んだ休日の夜。
どうせなら手料理でも振舞ってやろうかと、ミリィを俺の部屋へ招待した。
転属して来てから、ずっと支えてもらってるしな。
帰宅の道中で食材やら、フランご所望の酒やらを買い込む。
「ただいまー! あー疲れたー、あー楽しかったー!」
「お邪魔いたします。ここがアキトさんのお部屋ですか……すっかりフランさんの家みたいになってますね」
「そうなんだよ。困ったもんだ」
「全然困っているように見えませんが」
「ぐっ」
的確なミリィの指摘にぐうの音も出ない。
出てるけど。
早速買い物袋を広げているフランとミリィをよそに、俺はキッチンへ食材を降ろした。
今日使う食材と、保存用の食材を仕分けする。
「きゃー、この服かわいいー!」
「これは私もお気に入りです」
「こっちも見て! これ、なんと1980円なの!」
「本当ですか!? しまった、私も買えばよかったですね」
楽し気な二人の少女。
冷蔵庫へ食材を黙々としまう俺。
いやぁ、女の子が増えると華やかでいいね。
会話に加わっていなくとも、俺まで楽しくなってくるよ。
「ねぇ、ミリィ。これ、どこに飾ったらいいかな? このへん?」
「もうちょっと右のほうがいいのではないでしょうか。ええ、そのあたりですね」
「あれ? これなにかしら?」
「エロ本ですか?」
ぶっ!
そんなもんないよ!
フランが住み込むようになってから全部捨てたわっ!
「ねぇねぇ、アキトー。これはなに?」
フランが掲げているのは小さな額縁だった。
ああ、それか。
「免状だよ」
「ふーん? なんの?」
「示現流免許皆伝の証ですね?」
「そうそう、俺は師範代なのさ、って、んなわけあるかっ! それは調理師免許だ」
「「はい!?」」
目を丸くする二人。
言いたいことはわかる。
似合わないってな。
「なんでアキトがそんなの持ってるのよ?」
「あー、まぁ、簡単に言えば母親の趣味だな」
「アキトさんにもお母さまがいらしたんですね。そこらのドブから生まれたのかと思ってました」
「そりゃいるよ! 単細胞生物じゃないんだぞ俺は」
「アキトのお母さま……はっ!? ご挨拶しないと! ねぇ、ミリィ、私、髪形変じゃないかな!? 顔にご飯粒とかついてないよね!? わー、なんてご挨拶しようかしら! えーと、不束者ですがよろしくお願いします、だっけ?」
「それは結婚する時のご挨拶ですよ。大丈夫です、フラン先輩は今日も綺麗ですから。黙ってニコニコしていれば、きっとお母さまも許してくれます」
「お前ら飛躍しすぎだっ!!」
何気にミリィもひどいこと言ってるし。
言い換えれば、黙ってりゃフランはアホに見えないってことだろ。
そこは激しく同意するけども。
「落ち着けフラン。その免許はお袋のレストランを手伝ってた時に、洒落で試験を受けたらなんでか合格しちまってな。マジでなんちゃって免許だから料理の腕に期待はするなよ?」
「え? でもアキトの料理、私は大好きだもん」
「そ、そうか。そう言ってもらえると嬉しいけどさ」
「私もそれが楽しみでここまで来たんです。さぁ、はよ、お作りになってください。お腹ぺこりんちょですから」
「わかったわかった、テーブルをバンバン叩くな」
なんだか上手く乗せられたような気もするが、まぁいい。
こんなことで張り切っちゃうのも、モテない男の悲しい性だよな。
つっても、凝った料理なんて俺にもできやしない。
基本的にはコンビニやスーパーの総菜で済ませてるからな。
ま、野菜炒めや揚げ物くらいはなんとかなるだろ。
ザッと野菜を洗い、水気を切ってから一口大に切り分けた。
油鍋を火にかける。
野菜類はだな、炒める前に軽ーく油通ししておくとシャッキリして美味いんだぜ。
さて、次はと。
そうだ、ご飯を炊こう。
俺が米を研いでいるとミリィが顔を出した。
対面型カウンターから顔の上半分だけをな。
「男の人が料理をしてるのって、なんだかいいですね……私もなにかお手伝いしましょうか?」
「ははっ、板前さんもシェフも大抵は男じゃないか。ミリィはお客さんなんだから座ってて、と言いたいところだけど、せっかくだしちょっと手伝ってもらおうか」
「はい。お任せを」
俺は大き目のボウルに挽き肉を入れた。
塩コショウなどで下味をつけてからミリィに渡す。
「こいつをよーくこねてくれ」
「了解です。肉塊をミンチにして差し上げます」
「もうミンチだけどな」
一心不乱に挽き肉をこねだすミリィ。
おっ、思ってたよりもいい手つきだ。
「上手だぞミリィ」
「そうですか? へへー」
褒めたらニヘっと笑顔になった。
こりゃ珍しい。
そしてかわいい。
「あーん、二人とも楽しそうー! 私もまぜてよー!」
「じゃ、こっちに来いフラン。キャベツをみじん切りにしてくれ」
「うん、やるやるー!」
ニッコニコで駆け寄ってくるフラン。
くっそ、犬っぽくてかわいいな。
全力で頭を撫でたくなるね。
フランは少しばかり危なっかしい手つきでキャベツを刻む。
これでは粗みじん切りだが、実はこのほうが食感的はよかったりするので俺は褒めた。
人を伸ばすには、まず褒めることが大事だからな。
「フランは料理しないって言ってたけど、充分うまいよ。もうちょい練習すればいいお嫁さんになれるんじゃないかなー」
「えっ、お嫁さん!? 私がお嫁さんに……」
顔を赤らめ手が止まってしまうフラン。
なんだこの反応。
そこへミリィが小声で忠告してくる。
「まずいですよアキトさん。フラン先輩の夢はかわいいお嫁さんになることなんですから」
「なにそれ乙女!」
「かわいいですよね」
「やばいほどな」
女神って結婚できるのか……
ま、神話の神々もバンバン結婚してるし、問題ないんだろう。
それにしても、フランがお嫁さんねぇ。
確かに毎日退屈しなさそうではあるな。
おかえりなさい、あなた。
とか言われた日には悶絶するぞ。
いかんいかん、新婚生活を妄想してる場合ではない。
「よ、よし、フラン。そのキャベツをミリィのボウルへ入れて更にこねるんだ」
「……え? あ、うん! エヘヘ」
照れ笑いしながら俺を見るのはやめてくれぇ。
心がキュンキュンしちゃうだろ!
「それをよく混ぜ合わせたら、ハンバーグみたいな形に小分けするんだよ」
「あっ、わかった! これ、メンチカツね!? わーい! 大好きー!」
「フラン正解ー」
「美味しいんですか?」
「もうね、揚げたては最高よ! サクッ! ジュワッ! ってなるの」
「へぇー、それは楽しみですね……いけません、私のお腹が怒りだしてきました」
二人がキャッキャしてる間に、俺は野菜炒めの仕上げだ。
中華鍋に油を敷き、野菜を投入。
鍋を煽りながら塩コショウと紹興酒、醤油、すりおろしたニンニク、オイスターソースと鶏ガラの出汁を入れる。
俺は少し辛いほうが好きなので豆板醤を少々加えた。
香りが立ったら、はい、完成。
炒めすぎには注意だぞ。
「アキトー、小判型にできたよー」
「がんばりました」
「ご苦労さん」
フランとミリィが作ったちょっと歪なタネに、片栗粉、卵、パン粉の順でつけていく。
それをサラダ油で揚げるのだ。
ポイントはラードで揚げないこと。
あれは胃もたれするんだよ。
ピーピーピー
メンチが揚がったころ、タイミングよく白米が炊き上がった。
いきなり蓋は開けずに、少し蒸らすのだ。
米がベチャっとしちゃうからね。
さてさて、テーブルに料理を並べまして、炊き立てご飯もよそうのです。
ついでにビールも注ぎましょう。
ではでは。
「「「いただきまーす!」」」
さて、二人の反応はどうかな。
「んーーーーーー! 美味しいー! 肉汁がジュワッと溢れる~! 野菜炒めもシャキシャキー!」
「!!?? !!!!!???? !!!!!!!!」
フランはともかく、ミリィが……
声にならない声を上げながら、全力でがっついてる。
食べっぷりからすると、かなり気に入ってくれたようだな。
よかったよかった。
俺はそのリアクションに満足して、ビールジョッキをキュッと傾けるのであった。




