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022 たまに過ごすならこんな日を


「わーい! オフだー!」

「久々のオフだなー!」

「オフはいいものです」


 休日、完全休養日、ホリデイ。

 なんでもいい。

 つまりはオフだ。


 上から提供された部長室の整理も終わり、新たな課長となったミリィへの引継ぎも済んだ。

 ここ最近、まともな休日もなかったし、業務も一段落ついたと言うことで総務部の御小言を受け流しつつ休みを獲得したわけよ。


 長い道のりだったぜぇ。


 そしてここは渋谷のハチ公前。

 電車に乗ってやってきました。

 流石に人前で転移なんかしたら大変なことになるからな。


 この国は人の目がありすぎる。


「フラン先輩はなにを買うんですか?」

「うーん、そうねー。まずは服かな。あとは、アキトの部屋って殺風景だから雑貨とかー」

「あっ、私も服は欲しいですね」

「だよねー、それと下着も欲しいわね」

「ですねー」


 俺の部屋はお前んかよ。

 フランめ、完全に住み着きやがって。


 どうでもいいけど、下着の話はやめてくれたまえ。

 俺が恥ずかしい。


 つーことで、今日はフランとミリィの買い物の付き合い、及び、ミリィの歓迎会を兼ねて食事でもしようって計画なのだ。

 バタバタしてて歓迎会どころじゃなかったしな。

 それにミリィと交わした約束を果たすためでもある。


 フランが言うには、買い物中の護衛役が俺なんだってよ。

 人並みになってしまったフランはともかく、ミリィもいるのに護衛なんて必要なのかははなはだ疑問ではある。

 だが、下手に日本で神力を行使されても困るからその監視役は俺がせねばなるまい。

 部下の面倒を見るのも上司の役目ってね。


 さて、俺は渋谷にうとい。

 なので、フランが自分で調べた場所へ向かって歩いている。

 多分、洋服の店だろう。


 今日のフランはピンクのワンピースと長い金髪をポニーテールにしていた。

 普段あんまり見ない髪形だけに、ちょっとドキドキする。

 特にうなじとか。


 そしてミリィは、銀髪を一本の三つ編みにし、森ガールみたいな服装で来ていた。

 なんだか純朴少女っぽくて、とてもかわいらしい。

 無表情だけど。


 それにしても、通行人が全員振り返るのはすごい。

 勿論、フランとミリィのせいなのだが、老若男女問わずってのがとんでもない。

 ほとんどの連中が羨望の眼差しを向けている。

 二人とも女神なだけに、なんらかのオーラでも発しているのだろうか。


 それはいいとして、女神たちを見たあと、俺に向けられる目の痛いこと痛いこと。

 これほどの美少女が、なんでこんな冴えないヤツと一緒にいるんだって思考と視線が刺さりまくる。


 俺にもわかんねぇよ。

 成り行きとしか言いようがないわ。

 ま、なんだかんだ言っても、ちょっとだけ鼻は高いんだけどね。


 でもな、色々と弊害もあるんだよ。

 例えば────


「ヒュゥー! 君たちかわいいねぇー! 芸能人?」

「ねぇねぇ、俺たちとご飯しようよ。俺、おごっちゃうよ?」


 これだ。

 これなんだよ。


 いかにもチャラそうな二人組に早速声をかけられちゃってるフランとミリィ。

 これがあるから、結局俺は護衛役にもなるってわけさ。


「いえ、間に合ってます」

「つれないこと言うなよ~、な? いい店知ってんだ」


 毅然と断るミリィ。

 そのミリィの背後へ隠れるフラン。

 どっちが先輩やら……


「いいだろぉ? ちょっとだけだからさ、な? な?」

「キモいので近寄らないでください。顔面を叩き潰しますよ」

「おーこわ、でも怒った顔もかわいいねぇ、さ、行こう」

「離してください。本気で去勢しますよ」


 こりゃいかん。

 カスみたいな連中だが、去勢はいくらなんでも可哀想だ。

 そろそろ介入せんとヤバい。

 ミリィならガチでやりかねないぞ。


「あー、ゴホン。俺の彼女がなにか?」

「はぁ? バカか? お前みたいな冴えねぇヤツがこの子たちの彼氏なわけねぇだろ? 鏡見てこいや」


 ひどっ!

 強く否定できないのがとってもひどい! 


「アキトはあんたたちなんかより何倍も素敵よ! べーっ!」

「んだとこのアマ」


 今度は言うだけ言ってササッと俺の後ろへ隠れるフラン。

 くぅー、泣けるねぇー。

 お世辞でも嬉しいよフラン。


「そのクソ女を出せやコラ」

「そうはいかんな。俺の大事な彼女なんでね」

「あぁん?」


 凄んでるんだろうけど、ちっとも威圧感がないぞチャラ男くん。

 怯まぬ俺に業を煮やしたか、突然殴りかかってきた。


 三下のチンピラ風情はこんなもんだろう。

 殴れば相手は屈すると思ってるバカな輩だ。


 俺は奴のパンチを人差し指一本でピタリと止めた。

 ほんの少し押し返してやると、もんどりうって転がり去って行く。


 おーい、どこまで行くんだー……あらら、見えなくなっちゃった。


「マジかよ……嘘だらぁ?」


 残ったチャラ男はミリィの腕を掴んだまま、呂律すら回らないほど混乱しているようだ。

 せめてちゃんとしゃべれ。


「これでわかったでしょう。その下劣な手を離しなさい。変な菌が付着しそうで非常に不愉快です」

「……このクソガキィ、舐めんじゃ」


 なにか言ってる最中のチャラ男が突如消え失せた。

 どよめく野次馬。


 あああああ!

 コイツやりやがった!

 あれほど神力を使うなって言ったのにぃぃぃ!


「イリュージョーーン! 彼ならあそこです」


 無表情で変なダンスをしながら上を指差すミリィ。

 ビルの屋上、避雷針の先端部分。


「お、降ろしてくれぇ~…………」


 チャラ男のか細い声はそこから聞こえていた。

 喝采を上げる野次馬たち。

 どうやらテレビか映画のパフォーマンスとでも思ってくれたようだ。


 これ幸いと、俺たちは逃げるようにその場を離れた。


 その後、マルキューとか言うショップを巡り、なんでか上機嫌のフランとミリィはショッピングを楽しんでいる様子。

 だけど、下着の好みを聞いてくるのはマジで勘弁してください。

 店員さんのヒソヒソ声が俺の心をえぐるんです。


 山ほどの荷物を抱え、俺たちはファミレスへ入った。

 もうちょい高い店を、と予定していたのだが、二人はここでいいと言う。


「さっきのアキト、かっこよかったよー! 私、すっごく興奮しちゃった!」


 モッシャモッシャとハンバーグを頬張りながら言うフラン。


「ですね。正直言って見直しました。普段はエロい目で私たちを見てるくせに、アキトさんもやる時はやるんですね」

「そんな目で見てないからね!?」


 なんて失礼な……

 まぁ、エロ目線で見てないかって言ったら嘘になるんですけれども。


「お待たせしましたー。特製お子様ランチセットでぇーす」


 ミリィの眼前に置かれるお子様ランチ。

 目を輝かせるミリィ。


 何度も本当にこれでいいのか尋ねたんだが、本人がいいって言うんだもん。

 見た目は小中学生っぽく見えるミリィだから、店員さんも不審に思わなかったようだ。


「んー! んまー! 美味しいです! 美味しいですよこれ!」

「よかったねーミリィ。念願の日本で食べるご飯だもんねー」

「はぁい。しあわせれすぅ……」


 ファミレスのお子様ランチでこんなに喜ぶなんて……

 普段はいったいなにを食べて生きてるんだろう。

 神界のメシってのは、それほど不味いのか?

 そういや、あっちで食事したことねぇな。


「もぐもぐもぐもぐ。ねぇアキト、ライスおかわりしてもいい?」

「ああ、いいよ」

「わーい! やったぁー! ごっはんーごっはんー」

「フラン、ほっぺにお弁当ついてるぞ」

「んー? 取ってよアキト」

「おう……よし取れたぞ。むぐむぐ」

「えへへ、ありがとー。そうだ、ハンバーグ食べる? あーんして」

「あーん……もぐもぐ、ほう、こりゃうまい」

「でしょー?」

「…………」


 なんだかミリィの強い視線が俺とフランに刺さってる。


「どうした? ミリィもおかわりか? 好きなの頼んでいいんだぞ」

「いえ。ただ、アキトさんとフラン先輩がラブラブバカップルっぽく見えたもので」

「「!?」」


 途端に顔が熱くなる。

 やめて!

 そういうこと言われるの慣れてないんだよ!


 見ればフランも真っ赤な顔だ。

 くぅー、余計に照れるし意識しちまうだろー。


 俺たちはいつもこんな感じだから気にしてなかったのに、言われてみりゃ確かにバカップルっぽい。

 いやぁぁぁ。

 恥ずかしいぃぃぃ。


「ところでアキトさん。私もお願いします」

「なにをだよ……って、うわぁ! なにやってんのミリィ!?」


 ミリィは口の周り中にハンバーグソースを塗りたくって、俺のほうへ顔を突き出していた。

 なにこれ!?

 拭いてくれってこと!?

 子供かっ!


 まさか舌で舐め取るわけにもいかず、俺はおしぼりでミリィの顔を丁寧に拭いてやった。

 目をきつく閉じてじっとしているあたりがとてもかわいらしい。


 その光景を見ていたフランが、少しジト目になっているのはなんなの。



 こんな風にして、てんやわんやの楽しい休日は過ぎていくのでありました。



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