020 邪神討伐業務完了
さぁ、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンするのはどんな神かな?
すっごいヒゲモジャでガチムチの強そうなおっさんかもしれんぞ。
超美人のお姉さんな女神さまでもいいなぁ。
しかし、待てど暮らせど何も起こらない。
あるぇ?
魔法の発動にミスがあったかな?
「ねぇねぇ、アキト」
「あん?」
「これじゃない?」
傍らにしゃがみ込んだフランが、なにかを指差している。
ほう、今日はピンク色か。
なんの色かは言わなくてもわかるよな。
「って、なにこれ!?」
フランが示していたのは、すっげぇ小さい人だった。
体長は5cmもなかろう。
人形にしかみえないが、角髪を左右に結った黒ヒゲのおっちゃんは、なにやらピコピコ踊っていた。
これではまるで、日本神話に出てくる少名毘古那じゃないか。
一寸法師のモデルとされる神さまだよ。
おっちゃんが必死になにかをアピールしているようなので手に乗せてみた。
すると、おっちゃんはどこからか金色の金槌のようなものを取り出し、俺の手のひらを打った。
別に痛くない。
おっちゃんは満足そうにうなずくと、光の欠片となって消えて行った。
「なにしに来たの!?」
こんなのツッコミをいれるしかないでしょうが。
「クックククク、どうやら失敗に終わったようだねェ!」
待ってましたとばかりに動き出す邪神サーディス。
やばいやばい。
どうしよう。
「さァ! 仲良く三人であの世へ逝き……なぇぇぇえええええ!?」
サーディスの目がいっぱいに見開かれる。
フランとミリィも同様だ。
「ア、アキト……大きくなってない?」
「ですね。成長期ですか?」
「んなわけあるかっ! ってマジか!? うわマジだ!!」
ズオオオと大きさを増していく、今は幼女な俺の肉体。
あっと言う間にサーディスと遜色のないくらいの高さになった。
つまり10メートルほどだ。
あのおっちゃん、ガチで打ち出の小槌を使ったんじゃねぇだろうな!?
あああ、だったらついでに小判でも出してくれればよかったのに!
フランの食費が大変なんですよ!
「な、何なのだお前は!? 一体全体何者なんだい!?」
「救済の女神代理執行! 秋津吐比売命よ!!」
「フラン! その名前はやめろって言っただろぉ!!」
驚愕する邪神にビシッと宣言するフラン。
そもそも、なぜお前がドヤ顔になる。
あと、俺のセリフも無視するな。
恥ずかしすぎる名前なんだからよ。
「もしかして、アンタたちは異界の神なのかい!? 噂には聞いていたが実在してたなんてねェ!!」
そりゃそうだ。
神がおいそれと色んな世界に干渉してちゃ、そこの住人達も困るだろう。
なんでもかんでも神頼みになって、人々の主体性もなくなっちまう。
やはり神はいちいち出しゃばらないのが不文律ってもんだわな。
でもなぁ。
世界を滅ぼそうとするような度が過ぎるアホどもを、人知れず討伐するのも俺たちの仕事なんだよ。
「どこの神か知らないが、構いやしないねェ! まとめて地獄へ送ってやるだけさァ!!」
膨大な魔力が邪神おばさんの周囲に集まっていく。
あんなものをブッ放したらそれこそ世界が消えちまう。
「このヴァースランドを破壊してどうする気なんだ!?」
「はァ? アタシは全てを破壊するために存在してるんだ、破壊したあとのことなんざ知ったこっちゃないねェ!」
「ふざけてんのかこのババア!」
「バ、ババアだってェ!!? ちょっと若くてかわいいからって舐めるんじゃないよ小娘が!! もう許さないよ!!!」
やべ、火に油だった。
それと、かわいくて若い幼女なのは今だけです。
普段はむさい兄ちゃんです。
ともかく、あいつの魔力をなんとかしないとな。
邪神を牽制するため、俺と共に巨大化した剣を掲げる。
「ディバインフィールド!」
俺の魔法は正しく発動し、辺りに神聖な空気が満ち溢れる。
効果範囲内の邪悪な力を無効化するフィールドだ。
「グウウッ! やるじゃないかい!」
少しだけサーディスは怯んだ。
よし、今のうちに。
「ミリィ! すまないがフランを頼む! ちょっとばかし派手な戦いになりそうだ!」
「喜んで。存分にやっちゃってください」
「アキト! 気をつけてね! 絶対無事に帰って来て!」
「任せとけ!」
フランとミリィが後方へ退避するのを確認する。
出来れば外まで出て欲しかったが、伝えるのを忘れた。
「ふぉぉぉおおおおりゃあ!!」
パリーン
敵も去るもの。
裂帛の気合と共に、俺の聖なる力場を破壊しやがった。
くそ、この世界の魔法じゃやっぱりダメか。
とにかく、ヤツに集中する時間を与えちゃいかんな。
「はぁぁっ!」
俺は一気に飛びかかり、黄金色の剣を脳天へ振り下ろした。
「むぅっ!!」
ザシッ
邪神は左腕で防いだ。
だが、その腕をスッパリと斬り裂いていた。
傷口から真っ黒な血を噴き出すサーディス。
苦悶の表情。
やはり神聖な力に弱いのだ。
そうでなくてはこちらも困る。
決定打がなくなっちまうもんな。
「くぁあああああ! ダークブラスト!!」
ズドォ
「ぐぅぅぅっ!」
油断した。
ババアが右手から強烈な魔法を放出したのだ。
それが俺の腹を直撃していた。
「ぐっは……いってぇなこんちくしょう!」
神聖な者は闇の力に弱いのだろうか。
だとするなら、綺麗な相関関係が成り立つ。
光と闇のお互いが弱点でもあり、優位でもあるわけだ。
「ごふっ……こりゃいかん」
内臓か肺でもやられたのか、鮮血が俺の口から溢れた。
俺の装備と言えば、鎧どころか白いスクール水着に白いニーソックスだもんな。
そんな姿の幼女が、でっかい剣を振り回しているのは異様にシュールな光景だろう。
今は巨人だし、余計にシュールだ。
「クククケケケケ! どうやらそこまでみたいだねェ! 覚悟しな!!」
口裂け女みたいな形相になったサーディス。
すっげぇ嬉しそうなのが、やたらムカつく。
だが、ヤツの周囲に再び集まり始める巨大な魔力は無視できない。
あれを霧散させサーディス自身にダメージを与えるには、こちらも神力を全て開放するしかない。
呼び起せ。
秘めた力を。
目覚めろ。
神より賜りし神力よ。
俺を包み込む莫大な神力の励起を感じる。
「うぉぉぉおおおおおお!!」
「ちょ、ちょっと待ちな! なんだいその力は……!? 嘘ォ!? 聞いてないよそんなの! 反則反則!!」
言ってねぇもん。
つっても、俺だって限界ギリギリだ。
無闇に腹が痛んで俺の集中力を削ぎ取ろうとしやがる。
この神々だけに与えられた神聖スキルは使うのも初めてな上に、やたらと繊細な神力の調整が必要なんだぞ。
ありがたく受け取ってくれ。
「や、や、やめておくれェ! そんなの喰らったら、アタシ死んじゃうよォ!!」
「そうかよ。じゃあ、神界で詫びな。おっかねぇ審問部の女神たちが、手ぐすね引いて待ってるからよ」
「いや、いや、いやぁぁぁぁぁぁああああ!!」
「聖なる輝き! 神なる輝き! 我に来りて闇を穿て! 神光閃壱式!!」
天使の放つ優しい光が邪神に舞い降りる。
輝きは徐々に増し、猛々しい閃光と化す。
ドォォオオオオン
そして強大な光柱が邪神の身体へ穿たれた。
柱の中で、邪神サーディスが何度も何度も弾ける。
「ぐっぎいいぃぃいいいぃいいぃぃいいい……………!!!」
地下神殿の崩落。
光に飲み込まれていく邪神の絶叫。
俺は、ヌァリアンヌとチョリエッタの遺体を手に包み込んだ。
崩壊に巻き込まれたら可哀想だからな。
俺もここから転移しなくちゃ。
ああ、神力が足りるといいが。
祈り、念じ、飛んだ。




