019 神を呼ぶ究極魔法
俺はヌァリアンヌの日記と、無記銘祭祀書を開いて見せた。
どちらも侯爵から借りた物だ。
フラン、ミリィがどれどれと覗き込んでくる。
必要以上に密着する少女の香りに俺の頭がクラクラした。
なんで女の子って、こうも良い匂いがするんですかねぇ。
はっ、今は俺も女の子だった。
いや待て、俺はそんな匂いしないぞ。
幼女だからか?
「これがどうしたの? うわ、汚い字ー。あっはっは、ミリィみたい」
「んなっ!? 失礼ですよフラン先輩! 人の欠点を上げ連ねるのはやめてください!」
「なによー、叱られてベソかいてたくせにー」
「ふんぬぬぬぬぬ」
ぎゃいぎゃいやり始める二人をチョップで制する俺。
ヴァースランドそのものが崩壊寸前だってのに、のんきすぎるだろ。
「まずはこの祭祀書に描かれた挿絵をみてくれ」
「うーん、霊廟、かしらね」
「惜しいぞフラン」
「わかりました。これは神殿ですね」
「ピンポーン。正解したミリィにはご褒美として頭をなでてやろう」
「……くぅっ、少しだけ喜んでる自分が悔しいです」
肩を震わせているが、顔は上気しているミリィ。
どんだけ幼女好きなんだこいつは。
「それで? 神殿がどうしたの?」
「うむ、説明文によると、これはヴァースランドにおける古代人が崇拝していた邪神の神殿図らしい。んで、こっちの日記だ」
『王都を越えて遥か北方。その山間のどこかに邪神を祀る神殿があると突き止めた。そこでは今も邪神が眠っていると記述されていた。これで私を裏切った奴らに復讐できるわ!』
「ってことらしい」
「ほー」
「なるほど」
さも理解したとばかりにうんうん頷くフランとミリィ。
本当にわかってるんだろうか。
「「で?」」
「わかってねぇのかよ! いいか? 挿絵があるんだから、これをイメージすれば神殿まで一発で転移できるかもしれんってことだ」
「「おぉー!」」
こんな時だけ息ピッタリ。
わざとやってるんじゃあるまいな。
「ただ、太古の神殿らしいし、現在もこの姿を保っているのかは難しいところだ。でもやってみる価値はあるだろ?」
「「うんうん」」
「シンクロはもういい!」
俺は日記を荷物に戻し、祭祀書だけを掲げ持った。
目から入る視覚情報を脳内に描く。
きっと神殿からは邪悪な気配も漏れ出しているはずだ。
わかる。
禍々しい邪念を感じるぞ。
「フラン、ミリィ、つかまれ。飛ぶぞ」
「はーい」
「いつでもどうぞ」
「飛べ!」
視界が閉じ、また開く。
「ビンゴっぽいな」
風化したのか、挿絵よりは少しくたびれた神殿だが、悪意と邪気が辺りを支配していることからも、ここで正解と思えた。
小さな建物の周りを、無数の奇妙な柱が囲んでいる。
邪悪な気配に押し戻されそうになりながらも、俺たちは建物へ侵入した。
狭い部屋には、それに見合った小さな祭壇しかない。
だが、奥に人ひとりが通れそうな下り階段が見える。
「地下神殿か……」
「なんか不気味ね……」
「ですが、間違いなく下に邪神の気配があります。行くしかありませんね」
「だな。ライト!」
俺は自分で作りだした剣の先にライトの魔法をかけた。
これはヴァースランドの魔法であり、一定時間周囲を照らすものだ。
効果時間は12時間。
ま、探索するには充分だろう。
俺とミリィでフランを挟み、慎重に階段を下った。
どうやら自然の洞窟を加工した地下空間らしい。
辺りには鍾乳石などもあり、やたらと湿気っぽい。
一歩進むごとに瘴気が強く、濃くなっていく。
階段を下りきると、そこは広大な空間となっていた。
地上にもあった奇妙な柱が二列、等間隔でずっと先まで続いている。
まるで参道のようだ。
バサバサバサ
「ひいっ! アキトさん! 何かいますってば!」
「……ミリィ、女神がコウモリにビビるなよ……」
ガサゴソ
「いやぁ! 足に虫が! アキト早く取って!」
「ムカデくらいでピーピー喚くなフラン……」
これでは探検ではなく、珍道中だろうが。
俺からすれば魔物や邪神のほうがよっぽど怖いんだがなぁ。
女神とは言え、やっぱり女の子なのかねぇ。
……今度、お化け屋敷にこいつらを連れて行ってみよう。
なかなか笑えそうだぞ。
がっちりと俺にしがみつく二人を、引きずるように先へ進んだ。
ピチョンパチャンと言う滴る水音意外にも何かが聞こえてくる。
まるで念仏のようでもあり、亡者のうめき声のようでもあった。
冥府からの呼び声としか思えず、流石の俺も戦慄する。
妖気がますます濃さを増した。
息苦しさを覚える程に。
そして視界に入った物がある。
石造りの祭壇、いや、寝台か?
……違う。
これは生贄を捧げる台だ。
黒く変色してはいるが、夥しい血痕の跡が雄弁にそれを物語っている
そこに横たわるは、薄い布一枚をかけられた、ピンク色の巻き毛の少女。
肌は青白く、生気はまるで感じられない。
間違いない。
端末で確認した伯爵令嬢チョリエッタの写真と同じ顔だ。
「く、一足遅かったか」
俺は少女に駆け寄り、手首を握る。
やはり脈はもうない。
身体も冷え切っている。
「アキト! こっちにも女の子が倒れてるわよ!」
贄台の裏手に回ったフランが叫ぶ。
倒れ伏す赤髪の少女。
こちらも間違いない。
侯爵令嬢ヌァリアンヌだ。
「なんてこった……」
俺が落胆で両肩を下げたとき、異変は起こった。
嫌悪感の塊のような声が聞こえたのだ。
「くっくくくく……贄によって復活せし我が力よ……」
背筋も凍るとは、まさにこのことだ。
念仏が止み、一層瘴気が濃さを増す。
ドォォォォオオン
轟音と共に黒靄の中から現れたのは、ぎらついた赤色の服を纏った化粧も顔立ちもどぎつい女だった。
ただし、デカい!
10メートルはある洞窟の天井ギリギリの身長だ。
そして蛇のような緑色の髪が、いやらしく蠢いている。
メデューサかお前は。
「てめぇが邪神サーディスか?」
臆することなく俺は尋ねた。
中身は男の子ですから。
いいところを見せませんとね。
「あぁ、そうとも。数千年に渡る封印を破り、今度こそこの世界ごと喰らってやるのさァ!」
野卑な声で大笑いする邪神サーディス。
身体がデカいと声もデカい。
耳が壊れるわ!
「ところで、アンタたちは何者だい?」
どうでもいいが、邪神てのは随分フランクな喋りかたをするんだな。
まぁ、フランたちもこんなんだし、こっちが文句を言えた義理でもないか。
「俺……ごほん。私たちは救済部救済課! 世界を救済する女神よ! 邪神討伐の業務命令を果たさせてもらうわ!」
剣を邪神に向けて、堂々と宣言する。
見栄を切るなら、やっぱりこんな場面だよな。
「やぁ~ん! アキト、かっこかわいい~~~!!」
「正直に言います、ほれぼれしました。ぷにぷに」
俺のほっぺたをこねくりまわす二人の女神。
あのさ、本来はお前らの仕事じゃないのこれ?
「救済の女神ィ? 聞いたこともないねェ。嘘をつくならもっとましな嘘をつきな!」
バカデカい足に履いたハイヒールで俺たちを踏み潰そうとする邪神サーディス。
俺はフランを抱いて後方へ飛んだ。
ミリィも俺に続く。
ドゴン
うひー、ヤツの踵が大きく地面を抉ってるじゃないか!
「あーっはっはっはっは! まるでムシケラだねェ! 数万年ため込んだアタシの魔力を受けてみなァ!」
おい!
さっきは数千年って言ってただろ!
この嘘つきババア!
「ミリィ! 防御は任せる!」
「了解です」
「フラン! 俺の手を握れ!」
「いやん、アキト……こんなところじゃ恥ずかしいよ……」
「なにに照れてんだよ!? この乙女! いいから早く!」
「はぁーい」
俺はヌァリアンヌが残した日記を思い出す。
そして、もう一冊。
ネクロ……コンとか言う魔導書。
ふたつに記されていた邪神復活の秘術。
それこそが、このヴァースランドにおいて最上級の究極魔法。
神を降ろす秘法。
ちゃんとこの世界の魔法で始末してやるぜ。
俺の中で高まる魔力。
そこに神力を注ぎ込む。
「な、なんだいその膨大な魔力は……!? まさか神呼びの秘術を触媒も無しに!?」
「察しがいいな! ただし、呼ぶのは光の神だ!」
俺とフランから立ち昇る金色の神気。
魔導書にあった通りの巨大な魔法陣が周囲に展開していく。
溢れる想いを力に変えろ!
「コール・ゴッド!!」




