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017 乙女の日記は恐ろしい


 それからも侯爵、トロントン王子の両名と会話をした。


 もうヌァリアンヌ令嬢がなぜこんな騒動を起こしたのかはわかっている。

 即刻会談を切り上げてもいいはずだ。


 しかし、他人の恋バナが好きなのか、ミリィがグイグイと立ち入ったことを王子に聞いていた。

 フランもノリノリで王子を責めている。


 それにしても、王子はしゃべりすぎじゃないか?


 ヌァリアンヌとチョリエッタを二股かけていたってのはともかく、恋人だけでも20人いるとか。

 更に囲っている女は数知れず。

 王に即位した暁には巨大な後宮を作るつもりだとか。

 よくもまぁペラペラと。


 黙って聞いている侯爵の驚きようをみるに、彼も初耳なのは間違いあるまい。

 額に青筋が浮かんでいることから、相当おかんむりの御様子。

 そら怒るわなぁ。

 蝶よ花よと手塩にかけて育てた令嬢がもてあそばれていたわけだし。


 ……まさかミリィのやつ、王子に自白させるような神力を行使しているんじゃあるまいな。

 いくらなんでも王子が自分の秘密をこんなに軽々しく語るはずはないだろう。

 ミリィなら容赦なくやりそうで怖い。


 なんにしても実情はだいたい掴めた。

 あとはヌァリアンヌと連れ去られたチョリエッタを見つけ出して邪神を倒せばいい。


 トロントン王子を言葉責めにするのはミリィとフランに任せよう。

 俺は侯爵に、ちと尋ねたいことがあるんでな。


「侯爵さま。少しお聞きしてもよろしいかしら?」

「はい、姫。なんでございましょう」


 歯ぎしりしていた侯爵の髭面が、少しだけ柔和になる。

 美少女ってのはホントに得だなぁ。

 かわいいってだけで誰もが甘くなるんだからよ。


「ヌァリアンヌさまはどのような方法で邪神を召喚したのかご存じありませんこと?」

「……それが、このクソ王子……いえトロントン王子に婚約破棄されてからというもの、娘は部屋に引き篭もり、狂ったように魔法学にのめり込みましてな……」


 とうとうクソ王子呼ばわりしちゃったよ。

 新たな火種にならなきゃいいけど。


「そしてある日、禁呪、邪神、北へ、などとと呟きながら失踪してしまったのです。すぐに捜索したのですが、一向に見つからず数か月が過ぎたころ、突然空が暗雲に包まれました。そして同時に魔物が活性化しはじめたのです。これは神話に残る邪神降臨と全く同じ状況なのです」

「なるほど、そのようなことがあったのですね……」


 断片的ではあるが、なんとなく見えてきたな。

 振られた腹いせに仕返ししようとした令嬢が、偶然にも邪神召喚の禁魔法を見つけた。

 その邪神を召喚するには北へ向かう必要があったので、お供も連れずに旅立ったってとこか。


 ん?

 ひとつ解せないことがあるな。


「では、チョリエッタさまが行方不明になったのはいつでしょう?」

「暗雲が立ち込めたのと同時期くらいでした」

「そうですか、ありがとうございます」

「ただ」

「ただ?」

「伯爵が言うには、チョリエッタ嬢の置手紙が見つかったと。私がヌァリアンヌを連れ戻すとだけ記されていたようです」


 さすがヒロイン。

 正義感と無鉄砲さがすさまじいな。

 自爆して捕まったんだろうけど、その意気や良し。


「侯爵さま、ひとつお願いがあるんですけれど」

「なんでございましょう」

「ヌァリアンヌさまのお部屋を拝見してもよろしくて?」

「ええ、それは構いません。では案内いたしましょう」

「ありがとうございます」


 俺と侯爵は三人を応接間に残し、二階へと上がった。

 そして奥まった一室へ通される。


 ふむ、侯爵令嬢に相応しい部屋ではある。


 やたらと広い空間。

 無駄に豪華なシャンデリア。

 天蓋付きのクィーンサイズベッド。

 かわいらしい壁紙。

 大きな窓とベランダ。


 だが、部屋中に書物が散らばっていた。

 何冊か手に取ってみる。


 上級魔法の基礎解析。

 世界の超秘術。

 本当にあった危ない神話。

 決定版! 魔物図鑑。


 タイトルからして胡散臭い本ばかりだ。

 俺は部屋を歩きまわりながらベッドへ近づいた。

 別に令嬢の臭いを嗅ぎたいわけじゃないぞ。


 枕の下からはみ出ている書物が視界に入ったからだ。

 書物は数冊あった。


 ひとつはボロボロの革表紙の本。

 表題はかすれていて判読が難しい。

 無銘祭祀書、かな?


 今にも崩れ散ってしまいそうなページを何枚かめくる。

 内容も判然としないが、どうやら邪神に関する書物のようだ。


 もうひとつは、本とすら言っていいのかわからない代物だ。

 紙束を麻紐で綴じただけに思える。

 こちらもかなり痛んでいた。

 タイトルは……ネク……コン……?

 ダメだ、読めん。

 だが、内容は魔導書らしい。


 最後の一冊は見た瞬間わかる。

 日記だ。

 だってタイトルがさぁ。


 【ヌァリアンヌのラブラブイケメン攻略日記 ぱーと13】


 だぜ?


 それだけで見るに堪えないが、一応目を通す。


『〇月×日 うふふっ、彼ったら今日も一日私とベッタリしていったのよ。王子様なのに困った人ね。でも愛してるわ』

『△月〇日 最近彼は忙しそうで全然会えないの。お休みの日には会えるといいなぁ』

『×月×日 彼が伯爵令嬢と浮気をしているって聞いた。あの泥棒猫、絶対許さない』

『彼から正式に婚約破棄された! ふざけるなクソ王子! こっちはどれだけ苦労して近付いたと思ってるんだ!』

『許さない許さない許さない 復讐してやる! こんな世界もういらない! 私もみんなも死んでしまえばいい!!』


 …………こ、怖ぇ~~。

 復讐心はこんなにも人を豹変させるのか……


「侯爵さま。この本を少々お借りしてもよろしいかしら?」

「ええ、勿論ですとも」

「ありがとうございます」


 その後、俺たち三人は侯爵と王子に謝辞を述べ、城から出た。

 再三に渡って泊まって行けと言う申し出を断るほうが大変だった。


 王子に至っては王城でもてなしたいとか言い出したが、誰が行くかっての。

 あの手この手で手籠めにする気満々だろ。

 アホ王子め。


「それで? なにかわかったのアキト」


 侯爵から貰ってきた菓子をモリモリ食ってるフラン。

 菓子まみれの口元を拭ってあげたい。


「ああ、だいぶ見えてきたよ」

「へぇー、さすがアキトね」

「それより聞いてくださいよアキトさ、いえ、アキ姫さま!」


 ガクンガクンと俺の肩を揺さぶるミリィ。

 だから頸椎痛めるって。


「あのバカ王子! こともあろうに私のお尻を……っ!」

「触られたのか!?」

「いえ、触ろうとしたので、指を一本ヘシ折ってあげました」

「ひどい!!」


 王子が涙目だったのはそのせいか。

 女神ってより鬼だな。


 ドドドドドドドド


 その時であった。

 耳に痛いほどの地鳴りと烈震が、俺たちだけでなく、この世界を襲ったのは。


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