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016 おかしな名前の登場人物


 某国の姫、侍女、メイドに扮装した俺たちは、悪役令嬢の生まれ故郷である侯爵領へ足を踏み入れた。


 勿論、侯爵家の領土である以上、その広さはとてつもなく、その中に都市や村々が点在している格好だ。

 この世界ヴァースランドに城塞都市はないらしく、大型都市の近郊に、城とも思えるほどの館がデデンと建っていた。

 侯爵家ともなると、大貴族なだけあって財力も権力もすさまじい。

 素人目の俺から見ても金をかけまくった素材と、手をかけまくった装飾が侯爵城を彩っているのがわかる。


 超ド派手なシン〇レラ城を想像してもらえば伝わるだろうか。

 爵位があることや、この城を見れば、ヴァースランドが欧風世界であることが一目瞭然である。 

 ま、昔は日本にも爵位があったがね。


 いつまでも肩書ではわかりにくいか。

 ここからは端末にアップロードされた情報をもとにしよう。


 この地はトロメア王国南部に位置する、カーストロ侯爵領。

 そのカーストロ侯爵の娘がヌァリアンヌ。


 いいか、これは冗談ではない。

 今回の発端となった悪役令嬢の名は、ヌァリアンヌだ。


 読みづれぇ!!

 しかも発音しづれぇ!!


 そして、ヌァリアンヌの婚約者だったトロメア王国第一王子トロントンを奪った……いや、敢えて言おう、王子を寝取ったクソビッチヒロインの伯爵令嬢こそがチョリエッタである。


 ……この世界におけるネーミングセンスにはもう何も言うまい。


 取り敢えず、このアホみたいな名前の連中が主だった人物なのは間違いなかろう。

 むしろ肩書のまま呼んだほうがいいかもしれんな。


 そんなわけで俺は端末とにらめっこをしながら、領主城へ向かって都市の中を歩いているのだ。

 当然現地調査も兼ねている。

 名前を覚えるのに手間取って、ちっともはかどらないけどな。


「なぁにアキト……いえアキ姫。そんなに難しい顔しちゃって。かわいい顔が台無しよ?」


 幼女姫となった俺の顔を覗き込む侍女役のフラン。

 金の髪を侍女らしくアップにしているせいか、いつもより大人っぽく見えてドキっとする。


 俺のぺったんこな胸が少し高鳴った。

 ツルペタって言うな!

 幼女なんだから仕方ないだろ!


「邪魔をしてはいけませんよフラン先輩。アキ姫さまは少ない脳みそで必死に不可思議な名前を覚えようとなさっているのですから」


 辛辣ぅ!

 ミリィめ、言いたい放題だな。


 メイド姿のミリィも、いつものツインテから一本のおさげに髪形を変更していた。

 ストレートの銀髪が綺麗に後ろでまとまり、普段よりもおしとやかに見える。


 く、こいつも黙ってりゃすっげぇ俺好みなのに……


「少ない脳みそは否定しないが、ここの名付けかたがイカレすぎなんだよ。ヌァリアンヌって……」

「あっ、アキ姫さま。あれをご覧になってください」


 ゴキリと俺の首を強引にひねるミリィ。

 頸椎損傷で死ぬよ!?


「うわっ! なんだあれ!?」


 俺が見た物は、通りを歩く通行人。

 なんてことはない光景のはずなんだが、そいつの顔!


「あやふやだ! 目鼻立ちがはっきりしねぇ! ボヤけすぎだろ! キモッ!」

「私が先程申しあげた通りでしょう? それと、人様をキモ呼ばわりしてはいけませんよアキ姫さま」

「お前は俺のことを時々キモいって言うよね!?」

「はて? 全く存じ上げません。それと、人目もありますので言葉遣いをもっとお姫さま風に」


 マジで言ってんのかこいつ……

 お姫さま風ってどんなのだ?

 ええい、ままよ!


「そ、そなたはわたくしのことを時々、おキモいとおっしゃりますわよね?」

「やーん! アキ姫さまかわいいーー!!」

「くっ! 不覚にもこのミリィ、萌えてしまいました。ご褒美に抱きしめてあげましょう」


 俺の顔を潰さんばかりに抱きしめるフランとミリィ。

 せめて男の時にやってくれ!


 それにしても、普通の男たちは本当にあやふやなモブ顔になっちまうなんてな。

 イケメン以外に人権のない世界とか怖すぎるだろ。


 …………あれ?

 よく考えたら地球もそんな感じじゃね……?

 シクシク……それでも俺は強く生きるよ。


 なんとか令嬢たちの名前を覚えた俺は、端末に表示された特記事項の中で気になる一文を見つけた。

 ヴァースランドは魔法に特化した世界である、と。


 文の下にあるリンクをタップすると、使用可能魔法リストと言う画面に変わった。

 所狭しと並ぶ魔法名。


 ひー、これ全部使えるのかよ。

 てか、覚えらんねー。


「アキトさん、そこまでです。タブレットをしまってください。侯爵のお屋敷に到着しましたよ」


 ミリィの警告で我に返る俺。

 もう着いたのか。


 ミリィは鎧姿の門番に、東方の国から遊学にきた姫の一行だと申し出た。

 当然のようにいぶかしむ兵士。


 そりゃそうだ。

 ここで俺たちは女神です邪神を倒しにきました、なんて言ったとしても、結果は同じく怪しまれるだけだろう。


 それより気になったのは、大きな玄関脇に止めてある豪奢な馬車だ。

 四頭立てのそれは、明らかに王侯貴族が乗り回す物であろう。


 自分で言うのははばかられるが、俺は勘がいい。

 なんとなく持ち主に見当がついた。


「わかりました。ご案内いたします、お通りください」


 いつの間に言いくるめたのか、門番の兵士が俺たちを先導してくれるようだ。

 ミリィがドヤ顔で俺をチラチラ見ている。

 褒めて欲しいのだろうか。


 城の内部も贅沢な造りになっていた。

 民草から相当税をむしり取らなければここまでの贅沢はできそうにない。

 どんな悪徳侯爵だよと思ったが、善政を敷き領民から愛されている侯爵であると言うデータを思い出した。

 

 案内された応接間、いや謁見の間か?

 ともかく、広々とした豪華な部屋には、二人の人物が待っていた。


 一人は、老人と言ってもいいくらいの、だが威厳に満ちた顔つきと髭を蓄えた男。

 この人がたぶん侯爵だろう。

 城にも付いていた家紋と同じ模様のワッペンが彼の服にもあるしな。


 もう一人は若く、顔立ちも身なりも異様に整った紫髪の男。

 顔がちゃんと見える!

 つまりイケメンなんですね!


 ちくしょう!

 白髪染めを塗ったお婆ちゃんみたいな髪の色しやがって!

 俺は昔からこう言った有り得ない髪の色が嫌いなんだよ!

 いけ好かねぇ!


「東方より来たりし姫君とは貴女がたですかな。これはお美しい」


 侯爵よりも先にイケメンが口を開いた。

 声も格好いいのだろうが、男に言われても俺はちっとも嬉しくない。

 むしろ鳥肌が立つわ。


「はい。こちらにおわす御方こそ、東方王国第二王女のアキ姫さまでございます」

「よくぞ御出でくださった。私がカーストロ侯爵です。それで、早速ですが邪神サーディスを倒してくださるとか?」

「はい。お任せください」


 髭モジャ侯爵の目が期待に輝く。


 おいおいおい。

 ミリィ、いいのかそんな適当なこと言って。

 いや、最終的には倒すんだけどさ。


「我々には邪神をどうすることもできない。王都の誇る魔術兵団も全員が戦闘不能に陥るという憂き目にあった。おっと、申し遅れたね。僕はトロントン。トロメア王国第一王子トロントンです。お美しいお嬢さんがた」


 パチリとウィンクをする王子。

 全身が粟立つ俺。


 イケメンに褒められたフランとミリィはどうだろう。

 目をハートマークにしてないといいのだが。


「ふぁ……あ」


 俺に隠れて欠伸をしているフラン。

 早起きだったもんな。


「じぃー」


 俺の横顔をじっと見つめるミリィ。

 お前、自分で俺の姿を変えといて、そんなに気に入ってんの?


 だが、さすがは我が女神たち。

 イケメン程度では心動かされないか。

 ……よかったぁ~。


「それにしても三人揃って美しい……僕のお妃になりませんか?」


 なんでだろう?

 男の俺から見てもイケメンだし、清潔感もある。

 なのに嫌悪感のほうがまさってしまうのは。


「なんか女たらしっぽくて私あの人きらーい」


 小声で俺に耳打ちするフラン。

 なるほど、それか!

 女になっているからかもしれんが、俺にもなんとなくニュアンスはわかる。


 一応、王子にひとこと忠告してやろう。


「トロントン王子には伯爵令嬢チョリエッタさまがおられると聞き及んでいますわ。婚約者がおられると言うのにわたくしどもなどに……」

「おお! アキ姫さまはお声もかわいらしいですね! ……そのチョリエッタは、ヌァリアンヌの手によってさらわれてしまったのです」

「「「はい!?」」」


 想定外の話に、俺たちは仰天した。

 先行き不安……


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