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015 悪役令嬢がやらかした世界


 俺たち三人が転移した出張先。


 そこは、夜かと思うほどの暗雲が立ち込める薄暗い荒野であった。


 雨は降っていないものの、あちこちから遠雷の音が聞こえる。

 風もない。

 しかし不気味な怪鳥の声が空を飛び交っていた。


 なにこのホラー感あふれる世界は!?

 しくじった!

 また出張先の調査を怠ってしまったぁ!!


 ビロリン


「出張業務予定表が更新されましたよ。ついでに、この世界の情報もアップされてます」


 ミリィがタブレット端末を掲げ持って俺に見せた。

 おい、タブレットの上から目だけ出すな。

 萌えちゃうだろ。


 上目遣いのミリィはずっと見ていたいほどかわいいが、タブレットに表示されたこの地に関する情報からも目が離せない。

 今の時代、何よりも重要なのは詳細な情報だからな。


「んーと、なになに……悪役令嬢によって呼び出されてしまった邪神を滅して現地の世界を救済せよ……はぁぁ!?」


 なにこれ!?

 さっぱり意味不明なんですけど!

 そもそも悪役令嬢ってなに!?


「このヴァースランドと言う世界は、いわゆる乙女ゲームに似ています」

「はい?」


 ごめん。

 ミリィが何を言ってるのか全然理解できない。

 乙女ゲーム?


「読解力のない人ですね。簡単に言えば、女性が男性を攻略するゲームです」

「ギャルゲームの逆バージョンってことか?」

「そうなりますか?」

「なんで疑問形なの!? でも、それだけ聞くと特に危なさそうな世界とは思えないんだけどな」

「せっかちさんは女性に嫌われますよ。本題はここからです」

「余計なお世話だ! で?」


 ミリィはタブレットをポチポチ操作し、詳細な情報を読み上げた。


「特記事項に、こう記されています。ある女神によって、子羊の望み通り乙女ゲームと似た世界へ転生させた。子羊は侯爵家に生れ落ち、令嬢として順風満帆な生活を送っていたが、ある日、婚約者の貴族から婚約破棄されてしまった。それに絶望した子羊は悪役令嬢となり、このヴァースランドを滅ぼすべく邪神サーディスを召喚した。婚約者を奪った憎き伯爵令嬢へ復讐するために」


「なんのあらすじだよ!? 長編小説が一本書けそうなんだけど!?」


「……うげっ」


 なんでかフランが女神らしからぬうめき声をあげた。

 自分の両肩を抱き、カタカタと青い顔で震えている。


 あ、ピンときちゃった。

 さすが俺。


「おい、フラン……なにか知っているな?」

「ギクゥ!」


 この反応。

 やっぱりか。


「ある女神によって、って部分だが……間違いなくお前だよね?」

「ね、ねぇ、アキトさん、聞いてください……私は悪くないの! 子羊の注文を叶えただけなの!」


 注文て。


「大好きなゲームの世界にお金持ちの令嬢として生まれ変わって、イケメンどものハーレムを作りたいって言うんだもん!」

「ども……」

「まさか侯爵よりくらいの低い伯爵令嬢のほうがヒロインだなんて、思ってもみなかったのー! うわぁぁーん!」

「ヒロインとかいるんだ!?」


 泣きわめきながらすがりついてくるフラン。

 しばらく頭を撫でてやっていたのだが、何かがおかしい。


「あっ、こいつ! 俺の服で鼻水をぬぐってるだろ!?」

「ううん! そんなことしてない! ぐりぐり。 うわーん!」

「カピカピになるからやめろ! このアホ女神! 泣きかたもわざとらしいわ!」


 引き剥がそうと思ったが、やたらと力が強い。

 お前はスッポンか。


「ほっとこう。そんでミリィ、俺たちはこれからどうすればいいんだ?」

「業務進行表には、緊急度A+、ヴァースランドのルールに則り、すみやかに邪神を排除せよ。ただし、方法、手段は問わないと明記されています。つまり、我々の神力にも縛りはないようですね」

「とにかく、どんな手を使っても全力で邪神を倒せってことか」

「はい。チート全開です」

「チートって言うな!」

「アキトさん、それでですね」

「ん?」


 ペスンと指を鳴らすミリィ。

 どうやら、ペスンとは指パッチンに失敗した音のようだ。


 それでも神力は発揮され────


 ボワン


 え。

 あれっ?


「なんで俺を幼女にしたの!? しかもこの真っ白なドレスはなに!?」

「まぁまぁ、ハァハァ、お聞きください。ジュルリ……このヴァースランドの年若い男性は、イケメン以外の全員がモブ化してしまうんです」

「舌なめずりすんな! ……モブ?」

「そうです。目鼻立ちがボヤけて、輪郭すら曖昧になるのです」

「嘘こけぇ!」


 どんな世界だよ。

 イケメン以外はその他大勢扱いとか、いくらなんでもひどすぎるだろ。


「本当です。ちゃんと特記事項に記載されてますから。ハァハァ、なのでアキトさんには某国の姫となっていただきます。まさか、女神でござい、と言いふらすわけにも参りませんので。あぁぁ、とってもかわいらしいですよアキトさん……ハァハァ」

「えぇぇ!? そんな役、フランかミリィがやればいいだろ! お前らのほうがかわいいんだからさ!」


「ほ、褒められても全然うれしくないです。私、かわいいですか……? そうですか……アキトさんは私をかわいいと思ってるんですね………………にへへ」

「やーん! アキトったら、私がかわいいだなんてぇ~、そんなホントのことを~、やんやん」


 身悶えしながらモジモジと照れる二人の女神。

 ちょれぇ!

 じゃなくて、大丈夫かこいつら?

 状況わかってんの?


「ですが、役職では課長であるアキトさんのほうが上ですからね。課長補佐の私は大人しくメイド役でもいたしましょう」


 ぺちん


 ボワワン


 ミリィは自らに神力を行使し、メイド服へ着替えた。

 ゴスロリ服からメイド服になってもあんまり違和感がない。

 いや、とても似合ってるとは思うがね。


「私は、私は? 私もお姫さまがいいんですけど!」

「これは遊びじゃないんですよフラン先輩。そんなに目をキラキラさせてもダメです」

「えぇ~」

「そもそも、フラン先輩が子羊の転生先をもっと吟味していればこんなことにはならなかったのです。これは言わば、フラン先輩の後始末、もしくは尻ぬぐいなのですから贅沢を言うべきではありませんよ」

「ひぃ~ん、アキトー、ミリィが私を言葉責めにするよー」


 俺の小さな身体に泣きつくフラン。

 これではどっちが先輩なんだかわかったもんじゃない。

 色んな意味でフランヘ憐憫の目を向ける。


「はぁ~、仕方ありませんね。わかりました、これで我慢してください」


 肩をすくめたミリィがやれやれと言った風に指を鳴らす、

 瞬時にフランの黒いスーツは、清楚ではあるものの簡素な水色のドレスへと変わった。


 うむ、なにを着てもさまになるなフランは。

 そのうち着ぐるみでも着させてみよう。


「これでフラン先輩はアキ姫さまの侍女です」

「「えぇー!?」」


 思わず俺まで叫んだ。

 アキ姫はやめろぉ!


「ぼやぼやしている暇はありません。なんせ緊急度A+なんですから。このヴァースランドはかなりの末期だと思ってください」

「「はぁ~い」」

「邪神にはジャミングがかかっており、神力をもってしてもその正確な位置を把握できません。なので、まずは侯爵領へ向かいます」

「「はぁ~~い……」」


 幼女姫にされた俺と侍女にされたフランは、ミリィの後を追ってトボトボと歩き出すのであった。


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