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014 出張前夜はまったりと


 特殊出張業務出発前夜。


 出発を明日に控え、割と早い時間から自室のベッドに入った俺だった。

 しかし、気がたかぶっているのか、なかなか寝付くことができない。


 遠足前日の子供みたいで、なんだか恥ずかしくなる。

 こう言った場合、早く寝なきゃと思えば思うほど目が冴えるものだ。


「はぁっ……!」


 大きな溜息を一発かまし、俺は無理に寝るのを諦めた。

 もぞもぞと起き上がって出張用にまとめた荷物を探り、神界から支給されたタブレット端末を取り出す。


 さっきからこの端末がポコピンペコポンと音が鳴っているからでもある。

 このアホみたいな音は、【カミン】とか言う、ライ〇を丸々パクったようなアプリから放たれている。

 〇インと同じように、チャットをしたり、スタンプを送ったりできる代物だ。

 神ッターもそうだが、このクソみたいなネーミングセンスはどうにかならないのか。


 まぁ、どうせグループ登録してあるミリィがメッセージを送ってきているのだろう。

 さっさと寝ろと言っておいたのだが、どうも夜型体質らしい。


「うわー……いらねぇ~」


 画面にはミリィから送られてきたスタンプがびっしりと並んでいる。

 キモいとしか思えない謎のキャラクターが、寝ろよ! とか、歯ァ磨いたか!? とか、わけのわからないポーズで、どうでもいいことを叫んでいた。


 あいつは相当ヒマなのか?

 それとも構ってほしいのかな。


 もし後者なら、いやつとしか言いようがない。

 ないとは思うけどな。


「あれー? まだ起きてたのアキト?」


 バスルームから現れたのは、濡れた金髪をタオルで拭いているフランだ。

 今日は、ピンクのパジャマを着ていた。


 おっと、誤解してもらっちゃ困る。

 べ、別に俺たちはそういうみだらな関係じゃないからな。


 単に日本の飯が食いたいって言うからフランを連れてきただけなんだ。

 出張に出たらしばらく戻ってこれないのもあり快諾したってわけ。

 それに、かなりの頻度でフランはここへ泊まることがあるし、今更って気もするな。


 ミリィも誘ったんだが、他の女神と先約があるとかで、泣く泣くそちらへ行ったようだ。

 本当は俺たちと来たかったのだろう。

 さっきから恨みのこもったメッセージとスタンプの乱打で憂さ晴らししている。 


 えっ?

 フランが寝るところですか?

 ……一応、俺のベッドはセミダブルですんで二人くらいなら……

 はい、一緒に寝てます。

 でもでも、弁解しておきますけど、よこしまな気持ちはないんですよ!

 一心同体みたいなもんだからでしょうか、何と言うか、姉妹と寝ているような、そんな感覚なんです。

 俺に兄弟や姉妹はいませんけど。

 それに、多少はやっぱり悶々としますね。


 はっ!?

 俺はいったい誰に弁明しているのだ!?


「? アキトー、なんで変な顔してるの?」


 いつの間に持ち込んだのか、俺の机に据えられた大きい鏡の前で、顔に化粧液のようなものを塗っているフラン。

 女神なのに肌のお手入れなんてするんだね。

 フランはいつまでもかわいいままでいて欲しいけどさ。

 そこまで気を遣わんでも、充分綺麗だと思うよ。


カミンしてるの? ミリィはああ見えて構ってちゃんだからねー」

「あー、やっぱりそうなんだ?」


 髪を乾かし終えたフランがベッドに潜り込んでくる。

 俺はフランのスペースを作るために端のほうへ身体を移動させた。


「さっきからすげぇ勢いでメッセージ送ってきてるからなぁ」

「あはは、あの子ね、返信が遅かったり既読スルーしたりすると、メソメソ泣くのよ」

「はっははは、マジかー。なんだよ、かわいいところもあるんじゃねぇか」

「でしょ? アキトも返信してないみたいだし、きっと今ごろベソかいてるわね」


 ミリィがプルプル震えながら大粒の涙をこぼしている姿を想像し、なんだか微笑ましくなる。


「ははは、泣かしとくのも面白そうだけど、一応返信してやるか。は、や、く、寝、な、さ、い、っと」

「ふふふ、私もスタンプ送っておこうかな。ぽちっ」


 こんな他愛もない会話をしながら眠りにつくのが当たり前となっていた。

 傍目だけは仲睦まじい恋人同士に見えるんだろうよ。

 傍目だけは、な。


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 そして特殊出張業務出発当日。


 俺とフランは朝食を済ませ、事務室へ飛んだ。

 出張用の書類を提出するためである。


「おはようございます」


 銀髪ツインテゴスロリ女神のミリィは、既にいつもの毅然とした態度で俺たちを待っていた。

 だが少し、瞼が腫れぼったく、目も赤く充血していた。


 こいつ、マジで泣いてたんじゃあるまいな。

 それとも夜更かしのしすぎか?


「済まなかったなミリィ。寝る努力をしててミリィからの神ンに気付くのが遅れちまったんだ。寂しかったか?」

「なっ!? ぜ、ぜ、全然寂しくなんてなかったです! フラン先輩とアキトさんは今ごろ楽しく過ごしてるのかなーって思ってただけです!」


 おお、ミリィが珍しく激昂している。

 人が本気で怒る時は、図星を突かれた時だけだって誰かが言ってたな。

 つまりはそう言うことなのだろう。


「そうか。じゃあさ、次からは強引にでもミリィを誘うよ。覚悟しておくんだぞ」


 ポム、とミリィの小さい頭に手を置く。


「い、いりません! フラン先輩と二人で行きますんで! それと、子ども扱いしないでください! 私は女神なんですから! …………まぁ、どうしてもって言うなら一緒に行ってあげてもいいですけど……」


 デレた!

 最後デレたよね!?


「ところで、準備はいいの? そろそろ時間だよー?」


 そんなことを言いながら、お茶うけの大福をもっしゃもっしゃと頬張るフラン。

 朝メシすっごい食ってたよね!?


「よし、出張届提出完了~。ミリィ、戸締りはしたか?」

「抜かりありません」

「了解。フラン、忘れ物チェック」

「はーい……チェックリストクリアよ」


「おっしゃ、んじゃ行きますか!」

「はぁーい」

「はい」


「飛べ!」


 三人で手を繋ぎ、まだ見ぬ世界へ旅立つ俺たちなのであった。


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