013 小さな花の髪飾り
ここは救済課事務室。
時刻はお昼休み。
絶賛昼食中の俺である。
今日の仕事は書類整理がメインだ。
なので、幼女にならなくていいのさ!
嗚呼、男のままでいられる幸せよ。
毎日こうだといいのになぁ。
「ねぇ、アキト。お願いがあるんだけど」
「ふが?」
唐突に切り出すフラン。
ハンバーガーにかぶりついたままの俺。
さすが大食いのフランだ。
もう食い終わってやがる。
よく噛んで食べないと消化に悪いよ?
「もごもご、ごくん。どうしたフラン。お前にしては珍しく深刻な顔じゃないか」
「珍しくとは失礼ね! 私はいつも真面目ですー!」
「わかったわかった、そんでどうした」
「うん……えーと……ううーん……」
おや。
本当に珍しい。
逡巡するフランなんて初めて見たかも。
「あのね……運命課の子にちょっと忠告されちゃって」
「運命課なんてあるんだ!? ますます謎組織っぽいな……ん? 忠告?」
「うん。でさ、ちょっと、とある場所に付き合って欲しいの」
「? ま、いいけど。これ食べ終わるまで待ってくれ」
よくわからんが、迷えるフランを救いましょう。
口いっぱいにハンバーガーを押し込む。
ぐはっ、ソースが垂れる!
顎も外れそうだ。
噛め!
噛むのだ!
「なんかね、私とアキトの将来に関わってるんだって」
「ブーーーーーーーーーーッッ!!」
「キャーー!! なにしてんのよバカアキト!!」
「げっほ、げほっ、えーっほえほ! い、いきなりなに言ってんだ……このアホフラン……!」
そりゃ、吹き出しもするだろ。
突然、しょ、しょ、将来って言われてもさ。
時々妄想してんのがバレたのかと思ったわ。
「もー、アキトったらしょうがない人ねー、はいお水」
「おう、サンキュー。ごっふごっふ」
フランが俺の背中をさすってくれている。
なんだかんだ言いつつも優しい。
惚れてまうやろ!
慣れてない男は、女の子にちょっと優しくされただけで簡単に惚れちゃうんだぞ。
そんな勘違い野郎が現れたらどうすんだ。
フランには、ちゃんと言って聞かせないとな。
……待てよ、なんて言えばいいんだ?
俺以外の男に優しくするなって?
言えるかっ!
俺が勘違い野郎になっちまう!
むしろ、もうなりかかってる!?
助けて女神様!
「どうしたのアキト? どこか痛むの?」
「い、いや、違うんだ……その、フランは誰にでも優しくするのかなーってな、ははは」
「そりゃあ救済の女神としてはねー。責務がありますから」
そこそこある胸をそびやかしている。
ですよねー。
やっぱ言わなくてよかった。
「でも、アキトは特別だけど」
「えっ、それって……」
「あ、お昼休み終わっちゃうから早く行かないと!」
「……ああ」
「座標と時間軸は私のほうで調整するわ」
「了解……」
俺はフランの手を握る。
今はこの手の温かさが、俺の心を絞めつけた。
「オッケー、調整完了よ」
「……飛べ!」
飛んだ先は、別段なんの変哲もなさそうな森であった。
木々が生い茂り、穏やかな風と共に葉を揺らせている。
だが空気は冷たい。
冬に差し掛かっているのだろうか。
「ここでいいのか?」
「うん。えーと」
フランはチョロチョロと、何かを確認するかのようにその辺を歩く。
なにやってんだろ。
しかし、自然あふれる場所だなぁ。
森林浴には最適だー。
ん?
なんか空、おかしくね?
霞んでるって言うか、煙ってるって言うか。
なんだ?
空全体が黒っぽい靄で覆われてるように見える。
わけのわからん世界だな。
「このあたりでいいかなー。アキトーちょっと手を貸して」
「おう」
「イメージは私がするから、花よと言ってね」
「わかった……花よ!」
ポン
フランが指定した一帯に、ピンク色の可憐な花が咲き誇った。
独特の良い香りがあたりに立ち込める。
ほー、こりゃ綺麗だ。
「うん、いい出来だわ。任務完了よ」
「もう終わったの!? これがどうしたってんだ?」
「いいからいいから」
全く釈然としないが、女神が言うんだしこれでいいんだろう。
俺はふと思いつき、花を少しだけ摘んだ。
そしてちょっと細工をする。
「? 何してるのアキト」
「んー……ほらこれ。髪飾りだよ」
小さなブーケをフランの輝くような金髪の耳元へ飾る。
うむ、良く似合ってる。
「あ、ありがとう……どう? 似合うかな?」
「おう、とってもかわいいぞフラン。昔、婆ちゃんに教わったんだが、作りかたとか結構覚えてるもんだな」
「エヘヘ、うれしいよアキトー」
はっ!?
やってから気付いたけど、これって物凄くキザじゃね!?
うわー!
俺キモい!
俺キモい!
こっぱずかしい~~!!
非モテ民のくせになにやってんだ俺~~!
「アキト、早く隠れて!」
「な、なんだ!?」
「シッ!」
フランに頭を抑え込まれた。
繁みの中で息を潜める俺たち。
そこへ、二人の男女が現れた。
黒髪の少年は、黒く輝く鎧を身に着けている。
金髪碧眼の少女は彼に寄り添うように歩いていた。
「アキト、このまま帰るわよ」
フランが小声で言う。
でも、あいつらは……
花を摘み始める二人。
ああ、彼も俺と同じく髪飾りを作って少女に……
「ほら、早く!」
「わかったよ」
俺は女神の力を体内で励起させる。
転移する寸前、幸せそうに笑う二人の顔が目に入った。
あれはまさか。
「ふー、ただいまっと」
「おや、お帰りなさい。フラン先輩……あとアキトさんも。むぐむぐ」
「おう」
事務室へ戻ると、昼食へ出かけていたミリィも既に戻っていた。
無表情な顔で、まだ固形食のようなものをハムスターみたいにかじっている。
くっ……かわいいなこいつ。
これで中身が変でなければ好みなんだが。
あー、でも、俺はミリィに嫌われてるっぽいからなぁ。
「あれあれ? フラン先輩。そのかわいい髪飾りはどうしたんですか?」
「えへへー、かわいいでしょー? これはちょっとねー。ねー、アキト」
「ああ、ちょっとなー」
「なんですか。私に言えないようなことをお二人でしてきたとでも言うんですか」
「ふふーん、いくらミリィにでも言えないかなー」
「えー! ズルいですよ。不公平ですから私にもそれを用意するべきです。今すぐ。もぐもぐ」
色々思うところはあるが、ま、いいか。
フランが笑ってくれるなら、俺はそれだけで満足さ。
じゃれあうフランとミリィを眺めながら、俺は仕事の準備を始めるのであった。




