012 名刺の支給と恋の予感?
ジリリリリリ
今日も今日とてベルが鳴る。
「うぇ~~……終わったぁー」
「お疲れ様、アキトちゃん。お仕事頑張りましたね~、いい子いい子~」
「ちゃんはやめろぉフラン。それと、わたし……俺の頭を撫でるのもやめろぉ~」
「アキトさんもすっかり女の子として馴染んできましたね。では、名残惜しいですが終業しましたので元に戻してあげましょう。いや、やはりこのままのほうが……」
「ミリィ!? はよ戻して!」
「仕方ありませんね」
ボフン
あ~、やっぱ男の姿は楽だー。
大股おっぴろげても怒られないしー。
女の子言葉使わなくてもいいしー。
しっかし、こうも連日少女の姿になっていると、だんだん自分が本当はどっちの性別なのかわかんなくなってくるんだよなぁ~。
頭の中で処理が追い付かないって言うか……
お陰で時々ゲシュタルト崩壊しそうになるほどだ。
しかも、うっかり少女のまま他の部署へ行こうものなら、知らない女神連中にすら猫可愛がりされまくるんだよ。
いや、あれはあれで女体を堪能できるから気持ちいいんだけどさ。
だけど、執行部関係の女神たちだけはダメだ。
とんでもないパワーで俺を抱きしめようとするもんだから、何度かアバラをへし折られそうになったぞ。
なるべく近付かないようにせねばならん。
うーむ、こんな生活がいつまで続くんだろうねぇ。
「アキトさん。総務部から試作品の名刺が届いていますよ」
小さな紙束を差し出すミリィ。
なんでか少しだけニヤニヤしているように見える。
「女神が名刺なんて使う場面ある!?」
「取引先に行った時なんかに出す場合もあるわねー」
トントンと書類をまとめながらフランは言う。
「取引先!? 神様が取引するの!? 誰となにを!?」
「一応、文言のチェックをお願いします。不備があれば作り直さねばなりませんので」
「あ、あぁ、わかったよミリィ。どれどれ」
少し高級そうなその紙片にはこう書かれていた。
救済部救済課 課長
救済の女神代行
秋津吐比売命
「舐めてんのかっっっ!!」
ペッシーーーンと名刺を床へ全力で投げつける。
「ああっ、なんてことをするんですか! ぷっくくく」
「アキトー、物は大事にしないと、もったいないお化けが出るわよー」
「お婆ちゃんの格言みたいに言うなフラン! おいこら、ミリィは意味を知ってるから笑ってんだろ!?」
「どういうことー?」
俺は名刺を拾い上げて、名前の部分をビシッと指さした。
「俺の名前はなんだ? 言ってみろフラン」
「ジャギ……じゃなくて、火神秋人でしょ?」
「小ネタを挟むな! じゃあこの名刺になんて書いてある?」
「あきつとひめのみこと……ふーん、総務部はアキトに神様っぽい名前をつけてくれたのね」
「問題はそこじゃねぇ! いや、そこも問題だけども!」
俺は証拠を示す弁護士みたいに、手の甲でペシンペシンと名刺を叩く。
「ミリィは知ってるようだがフランは知るまい。いいか、日本の神様で、比売とついてるのは、女神だけなんだよ!!」
「な、なんですってーーー!? ……あれ? 勢いで驚いちゃったけど、別に問題なくない?」
「なんでだ! 大問題だろ! 俺は男だっ!」
「だって、普段は小っちゃいアキトちゃんの姿で仕事してるじゃないの」
「がーーーん! …………た、確かにそうだ……ぐおぉ……俺のアイデンティティはどこにぃ……」
「あっははははは、しかも、よく見ればちゃんとアキトの三文字が名前に織り込まれてるのね。総務部もユーモアあるわー」
「そんな微妙な気遣いは嬉しくねぇ! 申し訳程度すぎて余計頭に来るわ! 源氏名じゃねぇんだぞ!」
ツッコミ疲れてぜぃぜぃと息が荒くなる。
「と、とにかく、ミリィ。すまないが総務部に作り直してもらえるよう取り計らってくれないか……」
「わかりました。もっとかわいい名にしてもらいましょう。わかりやすくアキト姫とか。あっ、秋姫もいいですよ!」
「目をキラキラさせてるところ悪いけど、お願いだからやめてね!?」
ピョンと総務部へ転移するミリィを見送り、ぐったりと椅子にもたれた俺。
そこへ追い打ちをかける事態がフランから告げられた。
「そうだ、アキト。来週くらいかなー、また出張業務があるみたいよ」
「えぇ~! マジかよーめんどくせー行きたくねー……そうだ、俺は来週忙しいからフランとミリィだけで行ってこいよ」
「だ~め。わがまま言わないの、いい子だから、ね?」
「お前は俺の母ちゃんか! ……せめて恋人くらいに扱ってくれよ」
「えっ!?」
フランの心臓がドクンと高鳴ったのを、女神の神力を持つ俺にはわかった。
カァッと顔が朱に染まるフラン。
俺までドキッとしちゃうだろ!
「そ、それって、私と恋人になりたいってこと?」
「へ? ……いやいや! そういう意味じゃねぇよ! ……誤解するなよ、なりたくないって意味でもないからな」
「ふ、ふーん。アキトは私と恋人になりたいんだ……そっかぁ……」
なんだか妙な方向に話が転がってる。
でも、フランが少し嬉しそうに見えるのは俺の勘違いだろうか。
うんうん。
間違いなく勘違いだよな。
女神と人間だし、有り得ないもんな!
俺がフランに好かれる理由なんてないし!
はっはっは、危ねぇー、恥をかくところだった。
俺はどう思ってんだって?
ま、まぁ、勿論フランのことは嫌いじゃないよ?
かわいいと思うし、アホだけど憎めない性格だし。
優しいところもたくさんあって……
あれ?
何だこの気持ち。
フランのことを考えるだけでこんなに。
「ただいま戻りました。アキトさんがわがままなせいで総務部の女神に怒られましたよ。経費の無駄だって……おや? フラン先輩どうかしました? ついでにアキトさんも」
「「い、いやいやいや、なんでもないから」」
怪訝な表情のミリィ。
図らずもハモる俺とフラン。
てか、俺はついでかよ!
しかも、ツン属性まだ残ってたのね!
「なんだか怪しい雰囲気ですね。まさか私が見ていないところで……」
くっ、ミリィめ。
無駄に察しがいい。
流石は正義を司る女神だ。
それとも乙女の勘だろうか。
「なにか美味しいものを二人でこっそり食べたんでしょう? 私にも出してください。さぁ、早く。お腹がぺこりんちょだと訴えていますので」
ポンコツでした!




