011 俺が女になっちゃった!?
「では、いきます。アキトさん、覚悟をしてください」
「覚悟!? やっぱり死ぬの俺!?」
不敵な笑みを浮かべながら、パチンと指を鳴らすミリィ。
ボワワンと俺の全身が煙に包まれる。
「なになに!? なにがどうなった!?」
視界が奪われ、慌てふためく俺。
むせりながら煙を振り払う。
あれ?
フランとミリィがやけに大きく見えるんだけど……
あっ、パンツ見えた!
白と青!
ラッキー!
って言ってる場合か!
なんだこれ!?
「やーーーん! アキト、か~わ~い~い~~~!!」
「我ながら素晴らしい出来栄えです。お似合いですよ、アキトさん」
「ミリィ! 俺に何をしたんだ!?」
おかしい。
俺の声がやたらと甲高く響く。
まるで小さな女の子みたいな……
「アキトちゃん、フランお姉ちゃんが抱っこしてあげますからねー」
「はい!?」
フランにひょいと抱え上げられる。
嘘ぉ!?
フランにこんな筋力が!?
いやそれより、俺の服がブカブカじゃないか!
マジでどうなってんだ!?
「ぷっくくく……アキトさん、この鏡を見てください。ぷぷぷぷ……」
肩を震わせるように笑いをこらえながらミリィが手鏡を出した。
そこに映っているのは、とろけるような笑顔のフランに抱きかかえられた幼い少女の姿。
年齢は十歳前後だろうか。
長い黒髪にパッチリお目めの美少女だ。
誰!?
試しに手を振ってみると、鏡の中の幼女も手を振った。
俺!?
俺が女の子に変えられたの!?
「なんてことしたのミリィ! 早く元に戻してくれ!」
「声もかわいい~!」
「褒められても全然嬉しくねぇ! ……うぐぐ……フラ……ン……絞まってる、首、絞まってるぅ~……ぐるちぃ」
フランが俺を全力で俺を抱きしめているのだ。
「そうですね。そのままじゃ可哀想ですから、服も相応しい物に変えましょうか」
パチン
ボワン
俺の服が消え、ピンクのフリフリワンピースへと変貌した。
わぁい、サイズぴったりー!
って、おい。
ふざけんな!
「あぁ~……アキトさん、とってもかわいらしいですよ。フラン先輩、早く私にも抱っこさせてください」
「だめだめ! まだ堪能してる最中なの!」
「ズルいですよ先輩!」
フランとミリィが壮絶な俺の取り合いを始める。
まるで人形扱いだが、ぽよんぽよんと二人の胸が俺の顔に当たりまくるのは幸せな状況だ。
これぞ天国。
ちっとも喜んでる場合じゃないんだけどな。
まだ上手く女神の力を扱えない俺に、己の姿を取り戻す術はない。
だが、どうにかしないことには今後も二人のオモチャにされてしまうぞ。
「あぁ~ん! ほっぺも、もっちもちー!」
「これは……! 不覚にも触るのをやめられませんね、気持ちよすぎです」
「ふひゃりひょもひゃめてふりぇ~」
二人ともやめてくれと言ったつもりだが、まるっきり伝わっちゃいないようだ。
俺の頬で遊んでやがる。
言ったそばから既にオモチャやん!
ジリリリリリリリ
助かった!
始業ベルだ!
「アキト、いい? 今は女の子なんだから言葉遣いに注意してよ? 女の子らしく、ね」
「ご無体な!」
「さ、アキトさん。席についてください。お仕事の時間です」
席って言われても。
普通に椅子へ座ったら、机の上には目までしか出ないよ!?
「フラン、俺のパソコンをどけてくれ。これじゃ子羊の顔も見えないぞ」
「アキトちゃん、めっ、よ。言葉遣い言葉遣い。それと、私のことはお姉ちゃんと呼ぶこと!」
「え~、マジかよ……どんな羞恥プレイなんだ…………フ、フランお姉ちゃん、パソコンをどけて欲しいの……」
「あぁ~~~~ん! いい子ね~~! はい、どけましたよ~!」
超メロメロな顔のフラン。
逆に怖いよ。
「わ、私のこともミリィお姉ちゃんと是非呼んでくださいハァハァ早くハァハァ」
「ミリィお姉ちゃん、元の姿に戻して……お願い」
少し瞳を潤ませてミリィに訴えかける俺。
「ズキューーーーン! ハァハァハァハァ、むしろダメです。ずっとそのままでいてください」
「えーーー! やって損した!」
鼻息が荒すぎるミリィ。
目は血走り、形相もかなりヤバい。
ってか最初のおすましツンデレキャラはどこいった!
これじゃただの変態だろ!
「そろそろ、最初のかたを入室させますよ」
「待ってミリィ! アキトちゃんにリボン付けてるから」
「いらねぇ~!」
「はい、できた! うん、かわいい!!」
俺の両耳あたりに赤いリボンを嬉々としてつけるフラン。
お?
長い髪もこれならあんまり邪魔にならなくていいね。
……いかん!
女の子になった自分を受け入れちゃいかん!
「くっ、とってもかわいいです……フラン先輩グッジョブ……では最初の子羊、どうぞ」
俺は仕方なく椅子の上で正座をする。
それでも俺の身体は、首から上しか机の上に出ることはなかった。
ガチャリとドアがひとりでに開き、リュックを背負った細身の男がふらりと入ってくる。
チェック柄のシャツとよれよれのジーパン、そして指紋だらけの眼鏡。
リュックからはビームサーベルのように紙の筒が二本飛び出している。
もはや絶滅危惧種とも言える、典型的なアキバオタのファッションだった。
「そちらの椅子へおかけください」
「ファッ!? は、はい」
フランの優しい声に、いきなり奇声を発する彼。
人のことは言えんが、コイツも女性とは無縁の人生だったのだろう。
偏見かも知れんがな。
「彼は銀河系オリオン腕、太陽系第三惑星地球の日本国出身。太田邦夫氏。38歳、独身です。趣味は見ての通り、ゲーム、アニメ、漫画です」
パソコンの画面すら見えない俺に、ミリィが説明してくれた。
見ての通りとは辛辣な言い草だがね。
「あのぉぅ……この小さい女子も女神様なんですかぁ?」
やたらと、ねちっこい声で太田氏が尋ねた。
ジロジロと俺の顔を見つめている。
あと、女子って言うな。
「そうですよ。それがなにか?」
「ウホゥ! 幼女女神たん! 声も顔も好みであ~~る!!」
「ひぃ!」
思わず悲鳴を上げる俺。
ヤツの細い眼が眼鏡の奥でイッちゃっている。
俺の身体が女の子になっているせいだからか、異様にキモく感じた。
世の女性たちは、こんな目線で男どもを見ているのかねぇ。
「あなたは、ア〇メイトで買い物をした帰りに、何もせずとも轢かれることはなかった子供をかばってトラックに跳ねられ、そのままポックリとお亡くなりになったことを覚えておりますか?」
「ファッ!? ふぁい! な、なんとなくですが……ところで、あなたもかわいいですのう! 好み! 好みですぞぉ!」
フランにも食いつく太田氏。
無節操にもほどがある。
しかしコイツの死にかた、すごく切ないな!
でも、見てくれや喋りかたはともかく、意外といい奴なのかもしれん。
誰かをかばって死ぬなんて、なかなかできることじゃないぞ。
「アキトちゃん、ここからは任せるわよ」
小声でフランに仕事を振られる。
ちゃん付けはやめておくれ。
俺の仕事は裁定だ。
この男の成したことに対する正当な評価をせねばならない。
それによって、天国や地獄、もしくはその他へ送る。
一介の人間たる俺が他人を裁定するなんて、本当にいいのだろうかと毎度悩む。
裁判官ならともかく、まだまだ若輩の学生だ。
責任的に重すぎる。
いくら救済の女神フランシアの力を得たと言っても、こんなことが許されるとは思えない。
主神様がやれと言うのだから問題はないはずだが、俺の心が納得していないのも確かである。
取り敢えず俺にできることは、せいぜい甘めに裁定してやることくらいだ。
明らかな悪人には容赦しないけどな。
ちなみに、本人が望むなら、ではあるが、子羊を転生や転移させる権限も俺たちは持っている。
天国地獄以外の、その他送りがそれだ。
「太田邦夫、あなたの功績を鑑み、二つの選択肢を与えます。ひとつはこのまま天国へ行くこと。もうひとつは輪廻転生をすること、です」
「幼女女神たんに、その声で罵ってほしいなぁー! あぁ~、胸がキュンキュンするんじゃあ~! ……ところで、その転生と言うのは?」
「ひっ!」
いちいちゾクゾクさせるようなこと言うなよ……
「こほん、地球か、もしくは別の世界で生まれ変わり新たな人生を歩める、と言うことです。望むならば、生前の記憶を保ったまま転生することもできますが」
「オッフゥ、そうでしたか。まるでアニメのようなお話ですなぁ! ならば、ロールプレイングゲームみたいな世界はございますかな!?」
「は、はぁ、なくもないですけど」
「オッホォー! ならば是非ともそこでおながいします! ぽっくん、長年の夢でしてな! いやぁ、これは死んでよかった!」
おながいします?
ぽっくん?
ま、まぁいい。
それに、彼が望んだ通りの世界も存在しているしな。
「それでは、太田邦夫。あなたをミドガルズへ送ります。あなたの新たな人生に祝福があらんことを!」
光に包まれる太田くん。
さよーならー。
やれやれ。
「あああぁぁ! 幼女女神たん! チートはもらえないんでしゅかぁ~~!?」
「そんなもんあるかっ!」
俺のツッコミを聞くこともなく、彼は消え去った。
彼の魂は、いったん転生課へ回され、浄化と禊を済ませたのちに俺の指定した世界で生まれ変わるのだ。
せいぜい、優しいご両親の元へ生まれるんだぞー。
一人目から強烈なの来ちゃったなー。
あー、疲れた。




