010 特殊業務部門発足!
「ここが俺たちの新しい職場になるのかぁー」
「わー、広いねー! 見てアキト! 給湯室とトイレもあるよ!」
「マジかよ! コンロと冷蔵庫が揃ってるじゃねぇか! ちょっとした自炊くらいならできそうだな!」
「アキトの料理、楽しみだなぁー! 意外と上手だもんね!」
「こいつめぇ、そんなに褒めても何もでないぞぉ~」
「てへっ」
手を取り合ってはしゃぐ俺とフラン。
ここは新設された特殊業務部門、救済課のためにあてがわれた新たな事務室である。
二十畳ほどの事務室スペース、給湯室にトイレ、そして仮眠室とシャワールームまで併設されている。
ここで暮らすことすらできそうだ。
さすがにそれはしないけど。
社内に住むなんて、社畜もいいところだろう?
今まで使っていた六畳ほどの小さな事務室にはトイレがなく、わざわざ共用のトイレまで転移しなければならなかった。
共用トイレを使うような連中は、基本的に日陰な部門や部署に所属しているらしい。
言わば、下っ端とかヒラの巣窟だ。
故に偏屈で根暗なヤツが多い、とはフランの談である。
そんな場所へ行かずに済むだけでも、ある意味では大出世と言えるだろう。
「よーし、パパ張り切って荷物の整理しちゃうぞー」
「ママも張り切って手伝うねー」
俺とフランはウキウキしながら、前の事務室から運び込んだいくつかの段ボール箱を開封し始める。
これには資料や事務用品などが収められているのだ。
ま、大した量はないんだがね。
向こうの部屋は狭かったし。
俺は資料を壁際に並んだ木製の書棚に収めていく。
書棚もかなりデカいので、どうしてもスペースが余ってしまった。
これも後々埋まっていくことになるのだろう。
更に、この事務室には机が三卓、椅子が四脚ある。
そこそこ立派な木製の机が二卓。
これは部屋の中央に並んで置かれていた。
結構座り心地の良さそうな椅子が二脚付属されている。
少し離れた場所に、もう一卓の机と椅子のセット。
こちらはよく見かける安っぽいスチール製だ。
もう一脚の椅子は、たぶん迷える子羊や来客用だろう。
俺とフランは、並んで椅子に座ってみた。
思った通り、尻が痛くならない。
うむ、これはいい椅子だ。
前のは硬かったからなぁ。
「アキト、はいこれ」
「おお、サンキュ」
フランが俺に手渡したのは、白文字で課長と書かれた黒いプレートだ。
三角柱に横書きされたそれを、机に置いてみる。
なんだか、大企業のお偉いさんになった気分。
いいじゃないか。
それっぽくなってきたぞ。
「アキト」
「ん?」
「ありがとう」
「? いきなりどうした」
「私、まさか出世できるなんて思ってなかったから、すっごく嬉しいの。きっと、アキトのおかげよ」
「いや、なぁに、ははは。このくらい軽いもんよ」
「こう見えて、ちゃんと感謝してるんだからね」
「そ、そうか。まぁ、お前の力が俺に移されちまった責任も感じてるし、フランに力が戻るまでいくらでも付き合ってやるよ」
「うん、嬉しい。ひどいこともたくさん言うけど、アキトはやっぱり優しいね……」
フランの大きな青い瞳が、俺を見つめながら揺れている。
あれっ!?
妙な雰囲気出しちゃってるけど、いいの!?
手を握り合い、見つめ合う俺とフラン。
据え膳食わぬは男の恥、とか言う格言が脳裏を巡る。
行くしかねぇ!
「オッホン。お邪魔してしまったでしょうか?」
何者かの声に、ビクッと飛び上がる俺とフラン。
椅子から40cmは浮いたはずだ。
俺たちの机の前に立っているのは、小柄で銀髪ツインテ、それに真紅の瞳を持つゴスロリ美少女であった。
贔屓目に見ても12歳くらいとしか思えない。
その彼女の横には、いくつかの段ボール箱が積み上げられている。
いつの間に入って来たんだ!?
いや、それよりこの子って確かどこかで……
「ミリィ!? どうしてあなたがここにいるのよ!」
そうだそうだ。
神ッターとか言う神界内SNSで見たベソかき少女だ。
「はぁー……やっぱり辞令をきちんと読んでいなかったんですね。いかにもフラン先輩らしいです」
「へ? 辞令?」
フランが慌てて辞令を探し回る。
それを待たずに、ミリィと呼ばれた少女は、一枚の書類を俺の机へ置いた。
「本日付けで救済課に転属となりました、正義執行部所属、正義の女神ミリアリアです。以後よろしくお願いいたします」
「は、はぁ。俺は救済課、救済の女神代行の火神秋人です。よろしく……って、転属ゥ!? ここにか!?」
「はい。それも辞令に書いてあったはずですが」
辞令を発見し、貪るように読んでいたフラン。
「間違いないわ……ミリィの言ってることは本当よ」
「マジか……」
ミリアリアが俺に提出した書類を改めると、こちらにもそう記されていた。
正義の女神ミリアリアを救済課へ転属し同課の補助員と任ずる。
だとよ。
俺もフランも浮かれすぎてまともに辞令を読んでいなかったのが敗因だな。
「そうか……そりゃ災難なこった。ま、取り敢えずこれからは同僚だ。よろしくな、ミリアリア。俺もミリィって呼んでいいかな?」
「よろしくお願いします。お断りします」
あれっ!?
華麗に断られたよ!?
なにこれ!?
背筋がゾクッとしたんですけど!
美少女に冷たくあしらわれるのって快感!
じゃなくてだな。
「こら、ミリィ。アキトにも私と同じくらいの敬意を払いなさい。アキトのおかげでこんな立派な部屋をもらえたんだからね」
「……フラン先輩がそう言うのなら仕方ありませんね。どうぞ、私をミリィとお呼びください課長。チッ」
最後にチッて聞こえたよ!?
俺、もしかして嫌われてる!?
「改めて、よろしくなミリィ。俺のこともアキトって呼んでくれ。役職で呼ばれるのは慣れなくてな」
「わかりました、アキトさん、でよろしいですか?」
「ああ、助かるよ」
「私に与えられた机はあちらですね」
ミリィは大きな段ボール箱をヨタヨタとスチール机に運んだ。
資料でも入っているのか、やたらと重そうである。
俺は残ったミリィの荷物を机まで運んでやった。
「これで全部か?」
「よ、余計なことをしないでください。私ならこんなものは余裕なんですから……まぁ、一応感謝してあげなくもないですけど」
プイッとそっぽを向くミリィ。
ほっぺがちょっと赤くなってるように見えた。
んん!?
これはもしかして、ツンデレってやつでござるか!?
やばい!
キタコレ!
萌える!!
「む~……アキト! 鼻の下伸ばしてないで仕事の準備してよ!」
「なっ! の、伸ばしてねぇし!」
「いいから早く!」
「……なんなんだよ……」
急にプンスカするフラン。
俺、何か悪いこと言っちゃいました?
なーんてお約束をこの俺がするはずはない。
俺にはわかってるんだ、全てを。
フランのヤツは、きっと腹が空いてる。
人間は空腹だと怒りっぽくなるからな。
メシでも作ってやれば機嫌も良くなるだろう。
待て、そういやフランは人間じゃなかった。
おっと、確かに遊んでいる暇はない。
もうすぐ迷える子羊たちがやってくる時間だ。
三人で黙々と準備を進める。
うむ、なんとか体裁は整っただろう。
細かい部分は追々整理していくしかないか。
「さ、アキト。着替えて」
フランが差し出したのは、例によってヒランヒランのドレスと黒髪ロングのカツラ。
「えぇ~! またそれ着るのかよ……勘弁してくれ……」
「ダメよ。女神代行が男なんて、そっちのほうが恥ずかしいんだから!」
「フラン先輩。私にお任せください」
微かな笑みを浮かべるミリィに、俺は何故か恐怖を感じるのであった。




