第二十三話 愛された黒百合
◆
市中では、新しい歌が日ごとに広まっていた。
――黒き花は冬に咲き、異国の姫は朝を待つ。
――二振りの剣は姫のそば、近くも遠くも離れずに。
酒場では吟遊詩人が歌い、市場では店先で働く者たちが節を口ずさんでいる。
「黒百合の姫が、ヤシャラへ戻られたのか」
「異国から来たのなら、帰還とは違うだろう」
「姫を守っているのは、異国の騎士だというぞ」
「それなら、祀院がそばに置いて守るべきではないのか」
歌を歓迎する声もあれば、異国の騎士を疑う声もあった。
歌に姫の名は出てこない。
それでも、皇宮に黒百合の巫女がいると知る者は、自然とリリアを思い浮かべた。
◆
「歌の出どころを探ってほしいの」
サフィーヤは、ジャリールとラフィークに告げた。
「最初に歌った者だけでなく、誰が歌詞を渡し、どこで広めているのかも調べて」
「承知しました」
ジャリールが答える。
「市中で目立たないよう、こちらも動きます」
ラフィークが続けた。
調査には、シリルとヴィクトルも加わることになった。
ジャリールは宮廷側の記録を調べ、ラフィークは市中の動きをまとめる。
シリルとヴィクトルは身分を悟られにくい装いで、歌が広まっている店や市場を見て回ることになった。
「吟遊詩人を見つけても、すぐには捕らえないでください」
ジャリールが念を押す。
「歌った者を追うより、誰から歌詞を受け取ったのかを確かめたいのです」
「分かりました」
ヴィクトルが答えた。
「歌っているだけの者を捕らえるつもりはない」
シリルも頷いた。
◆
その日、リリアはメフリナの招きで、再び書庫を訪れていた。
「今日は、法律ではありません」
書庫へ入るなり、メフリナが言った。
リリアは少し安心する。
「よかったです」
「そんなに嫌だったの?」
「嫌ではありません」
「では?」
「難しかったです」
素直に答えると、メフリナが笑った。
「今日は、もう少し読みやすいものにしましょう」
「本当ですか?」
「たぶん」
「たぶん?」
「内容によるわね」
少し不安になった。
ファリダが後ろで小さく笑っている。
机の上には、昨日のような分厚い法典はなかった。
代わりに、薄い冊子、古びた日記、手紙の束、家系図らしいものが並んでいる。
「これは?」
「過去の黒百合の巫女たちに関する記録よ」
リリアは机へ近づいた。
「古文書ですか?」
「一部はね。でも、全部が難しい記録というわけではないわ」
メフリナが一冊を開いた。
「これは百二十年ほど前の巫女の日記」
「日記?」
「ええ」
リリアは身を乗り出した。
「何が書いてあるんですか?」
「読む?」
「読めるでしょうか」
「現代語に直した写しもあるわ」
「それなら」
リリアは差し出された紙を受け取った。
最初の一行を、ゆっくり読む。
「……今日は、夫と喧嘩した」
リリアは読み止め、もう一度確かめた。
「夫と……喧嘩?」
「ええ」
次の行には、こうあった。
「娘が、勝手に髪を切った」
その次は、
「雨で洗濯物が乾かない」
さらに、
「庭の梨が今年は甘い」
リリアは紙から顔を上げた。
「……黒百合の記録ですよね?」
「そうよ」
「梨?」
「黒百合の巫女も、梨くらい食べるでしょう」
「それは、そうですけど……」
もっと大きなことが書かれていると思っていた。
戦争。祀院。皇帝。黒百合の力。
誰かを守った話や、誰かに狙われた話。
けれど、そこにあったのは夫婦喧嘩と、子どもの髪と、梨の味だった。
「変ですか?」
メフリナが尋ねた。
「……少し」
「どうして?」
「黒百合の巫女の記録なので、もっと特別なことが書いてあると思っていました」
メフリナが静かに笑った。
「特別な日ばかりを生きていたわけではないもの」
リリアはもう一度、日記を見た。
当たり前のことなのに、考えたことがなかった。
◆
「この人は、結婚していたんですね」
「ええ」
「娘さんも?」
「二人いたわ」
「二人……」
リリアは驚いた。
「黒百合の巫女でも、家族を持てたんですか?」
言ったあと、メフリナの表情が少し変わった。
「その質問、昨日も似たことを聞いたわね」
婚姻を強制することを禁じた古法。
昨日の学びがよみがえり、リリアは小さく頷いた。
「どうして、そんなに不思議なの?」
リリアは答えに詰まった。
自分でも、うまく説明できない。
「母が……」
最初に浮かんだのは、ミレナだった。
「私を産んで、間もなく亡くなっています」
「ええ」
「それから」
リリアは右腕を見た。
「黒百合のことで、良いことより、怖いことの方が多かったので」
地下。薬。痣。疑い。隔離。アンの誘拐。祀院。
だから、どこかで思っていたのかもしれない。
「黒百合の巫女は、普通には生きられないのかと」
メフリナは、すぐには否定しなかった。
「それで?」
「……幸せになるのも、難しいのかなと」
口にすると、少し恥ずかしくなった。
けれど、メフリナは笑わなかった。
「では、これを見て」
メフリナが別の紙を出した。家系図だった。
名前。生年。没年。
「この人も黒百合の巫女よ」
リリアは記された数字を見る。
「七十八歳……?」
「そう」
「七十八歳まで生きたんですか?」
「ええ」
「病気で?」
「老衰よ」
リリアは目を見開いた。
「老衰?」
「そんなに驚かなくても」
「だって……」
黒百合の巫女なのに、普通に年を重ね、老いて亡くなった。
「こちらは六十九歳」
メフリナが次の名前を示す。
「こちらは八十一歳」
「八十一……」
「この人は結婚しなかった」
「では、一人で?」
「いいえ。妹一家と暮らしていた」
次の記録を指す。
「この人は祀院を離れて、町で薬師をしていた」
「薬師?」
「ええ」
リリアの目がわずかに動いた。
薬草。香草室。
昔の自分に、少し近い気がした。
「この人は?」
「夫と三人の子ども」
「三人……」
「そのうち一人が、巫女を継いだ」
リリアは黙って家系図を見た。
黒百合の巫女の人生は、一つではなかった。
◆
「ミレナの人生は、黒百合の巫女の人生そのものではないわ」
メフリナの言葉に、リリアは顔を上げた。
「どういう意味ですか?」
「あなたは黒百合について知ろうとすると、いつもミレナへ戻るでしょう?」
図星だった。
「母だからです」
「もちろん。それは自然なことよ」
メフリナは頷いた。
「ミレナがそう生きたからといって、すべての黒百合が同じ人生を歩んだわけではない」
リリアは黙っていた。
「そして、あなたもミレナと同じ人生を歩く必要はない」
胸の奥に、その言葉が落ちた。
「……母と違っても?」
「当たり前でしょう」
「でも、私は母の娘です」
「娘だから、同じ人生を生きるの?」
「……」
「同じ黒百合だから?」
リリアは答えられない。
「似ているところはあるでしょう。違うところもある。それでいいのよ」
次に渡されたのは、一通の手紙だった。
「これは?」
「ある巫女の夫が残したもの」
「夫……」
リリアは少し緊張しながら、現代語の写しを受け取った。
長い手紙だった。
リリアはゆっくりと文を追う。
その人は黒百合の巫女で、夫は織物職人だった。
「皇族でも、騎士でもないんですね」
「ええ」
「普通の人?」
「普通、という言い方が正しいかは分からないけれど、少なくとも皇族ではないわ」
リリアは続きを読む。
妻は怒ると三日口をきかない。
甘い菓子を隠れて食べる。
花を育てるのが下手で、雨の日は機嫌が悪い。
それでも、困っている人を見ると放っておけなかった。
夫は、黒百合の力で知られた妻を、黒百合だから愛したのではない。
一人の女性として、その人だから一緒に生きた。
そういう意味の言葉が、何度も書かれていた。
リリアの指が止まる。
「この方は……」
「何?」
「黒百合だから、一緒にいたわけではないんですね」
「そう書いてあるでしょう?」
「はい」
それでも、何度も確かめたくなった。
「どうしたの?」
メフリナが尋ねる。
「いえ」
リリアは手紙を見つめた。
「少し、不思議で」
「何が?」
「黒百合だから、怖がられることも、欲しがられることもありました。守られることも、閉じ込められることも」
右腕の痣を見る。
「全部、黒百合が理由でした」
メフリナは黙って聞いている。
「だから、大切にされる時も、黒百合だからなのかと思っていたのかもしれません」
「そう」
「でも、この人は違う」
「そうね」
「黒百合でなくても?」
「その問いに答えられるのは、本人だけでしょうけれど」
メフリナは少し考えた。
「少なくとも、残された手紙には、そう書かれているわ」
リリアは小さく頷いた。
◆
「黒百合の巫女は、時代ごとにいろいろな呼ばれ方をしている」
メフリナが別の冊子を開く。
守護者。巫女。花の娘。皇帝の友。祀院の花。民の守り手。
「でも、家族や友人の記録では、名前で呼ばれていることが多いの」
リリアは、そのことに気づいた。
黒百合様。巫女様。黒百合。
そうではなく、名前。
「この人は、サーナ」
「ええ」
「こちらはライラ」
それぞれに名前があり、人生があった。
「黒百合だったから、名前が消えたわけではないんですね」
「むしろ、名前を残そうとした人が周りにいたのかもしれないわね」
◆
書庫を出る頃、リリアは少し考え込んでいた。
ファリダが隣を歩く。
「難しかったですか?」
「昨日よりは」
「では、楽でした?」
「そういう意味でもなくて」
「では?」
リリアは少し迷った。
「ファリダさん」
「はい」
「一つ、聞いてもいいですか?」
「内容によります」
「メフリナ皇后陛下と同じことを言いますね」
「長く皇宮にいますから」
リリアは小さく笑った。
「ファリダさんは、黒百合だから私の護衛をしているんですよね」
ファリダの歩みが、ほんの少しだけ遅くなった。
「最初は」
リリアが顔を上げる。
「最初は?」
「ええ。陛下から要請を受けた時は、黒百合の巫女の随衛でした」
「では、今は?」
聞いてから、少し怖くなった。
何を期待しているのか、自分でも分からない。
ファリダがこちらを見る。
「リリアさんだから、です」
リリアは足を止めた。
「……私だから?」
「ええ」
「黒百合でなくても?」
「黒百合でなくなったら、急に髪を結うのをやめると思いました?」
「そこですか?」
「大事でしょう」
「……大事です」
「では、黒百合でなくても髪は結います」
ファリダが少し笑った。
リリアも、ようやく笑った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
◆
その日の夕方、回廊の向こうからシリルとヴィクトルが歩いてきた。
「戻ったか」
シリルが言う。
「はい」
「今日は何だった?」
「書庫です」
「また?」
「またです」
ヴィクトルが尋ねた。
「今日は、何を学んだんですか?」
リリアは少し考えた。
「昔の黒百合の巫女たちについてです」
「どんな?」
「……梨を食べたり」
シリルが足を止めた。
「梨?」
「夫と喧嘩したり」
ヴィクトルも少し困った顔になる。
「黒百合の巫女の記録ですよね?」
「はい」
「ずいぶん普通だな」
シリルが言った。
「そうなんです」
リリアは笑った。
「普通でした」
その言葉を自分で言えたことが、嬉しかった。
「それで?」
シリルが尋ねる。
「何が一番印象に残った?」
リリアは少し迷った。
「……愛された人がいたことです」
一瞬、空気が止まった。
「家族に?」
ヴィクトルが尋ねる。
「はい。夫や、子どもや、友人に」
シリルは黙った。
「黒百合だからではなく、その人だから好きだったと書いてある手紙がありました」
ヴィクトルの青灰色の瞳が、わずかに揺れた。
シリルは視線を外す。
「……そうか」
短い返事だった。
「はい」
リリアは二人を見た。
この二人は、なぜ自分のそばにいるのだろう。
シリルは守り人。
ヴィクトルは騎士。
私が黒百合だから?
それとも――。
聞こうとして、やめた。
聞くのが怖かった。
◆
翌日、市中の茶屋では、別の一節が歌われていた。
――黒百合の姫を、祀院の花に。
――異国の剣より、古き祈りの手を。
シリルとヴィクトルは、店の奥の卓でその歌を聞いた。
吟遊詩人が歌い終えると、客の一人が声を上げた。
「姫を祀院へお戻しすべきだ。巫女を守る場所は、祀院のほかにない」
「皇宮に置けば、皇帝のものにされてしまう」
別の客が反論する。
「だが、異国の騎士に囲まれているという話もある。あれでは、ヤシャラの者が近づけない」
客たちの声が強まり、口論になりかけた。
店主が間に入る一方、詩人は止める様子もなく、次の卓へ移って歌を続けた。
ヴィクトルは視線を上げずに言った。
「歌詞を渡した者がいるようですね」
「そうだな」
◆
店を出たあと、二人は人通りの少ない路地でラフィークと合流した。
「歌詞は、吟遊詩人が作ったものではありません」
ヴィクトルが報告する。
「誰から受け取った?」
「本人は、仲買人から買ったと話しています」
「その仲買人は?」
「ジャリール殿が、宮廷側の記録を追っています」
ラフィークが頷いた。
「こちらでも別の経路を確認しました。祀院に近い者が、歌を使って『巫女は祀院の保護下にあるべきだ』と広めています」
「もう一方は?」
シリルが尋ねた。
「幾人かの吟遊詩人に歌詞と金を渡していた仲介人が、アルザーン公爵家に出入りする者と接触した記録があります。ただし、皇太后陛下の指示を示す証拠はありません」
ヴィクトルは黙った。
サミラの忠告と、今回の歌の広まりを無関係と決めることも、彼女の指示だと断定することもできない。
「祀院は歌を利用して、巫女を引き戻そうとしている」
ラフィークが言った。
「宮廷側にも、歌を広めることで何かを得ようとしている者がいるのかもしれません」
「それぞれ別の思惑で、同じ歌に手を伸ばしているわけか」
シリルの声に険しさが混じる。
「歌そのものを止めるのは難しいでしょう」
ヴィクトルが言った。
「止めれば、かえって注目を集めます」
「では、どうする」
「まずは、誰が何を望んでいるのかを確かめます。リリアさんを、歌の中の姫にしておきたい者がいる」
ヴィクトルは路地の先に目を向けた。
「本人の言葉を聞かせないままに」
◆
翌朝、サフィーヤはリリアを自室へ呼んだ。
そこにはナディルとジャリールもいた。
「歌について、分かったことがあるわ」
サフィーヤが言う。
リリアは椅子へ腰を下ろした。
「歌詞を作った者は、まだ見つかっていません。ただ、歌詞を渡した仲介人を通じて、市中に広めている者たちがいるようです」
「祀院に近い者たちが、歌の一節を利用しています」
ジャリールが続けた。
「黒百合の巫女は、祀院の保護下に置くべきだと訴えている者がいます」
「戻す……」
リリアは、その言葉を繰り返した。
「宮廷側にも、別の仲介人がいました。アルザーン公爵家に出入りする者と接触した形跡があります。ただし、皇太后陛下の指示を示す証拠は見つかっていません」
サミラの顔が浮かんだ。
人前では距離を置きなさい。
ヴィクトルには爵位を与える道もある。
守るための提案だと、彼女は言った。
「市中では、歌にどんな反応が出ているんですか?」
リリアは尋ねた。
「あなたを歓迎する声があるわ」
サフィーヤが答える。
「黒百合の姫がヤシャラへ戻った、とね」
「戻ったわけではないのに」
「そうね。けれど、歌を聞く人の中には、そう受け取る人もいる」
「異国の騎士を連れていると、反発する声もあります」
ジャリールが言った。
「祀院へ戻すべきだという者も」
リリアは自分の手を見た。
知らないところで、自分のことが歌われている。
姫と呼ばれ、誰かの庇護を求める存在として語られている。
そこにいるのは、リリア自身ではなかった。
「歌を止めることはできるか?」
ナディルが尋ねた。
「歌っている者を一人ずつ捕らえるのは、得策ではありません。かえって歌に注目が集まるでしょう」
サフィーヤが答える。
「そうだな。歌そのものを追うより、誰が何を求めているのかを先に掴め」
ナディルはジャリールへ視線を向けた。
「引き続き調べろ」
「承知しました」
それから、ナディルはリリアを見た。
「リリア。おまえの考えを聞かせてくれ」
すぐには答えが出なかった。
逃げる。
隠れる。
人前で二人と距離を取る。
そうすれば、歌の勢いは弱まるかもしれない。
けれど、誰かが自分を語るたび、黙って姿を消すのだろうか。
メフリナの言葉がよみがえった。
知らなかったから拒めなかったことを、知ったあとまで受け入れる必要はない。
リリアは顔を上げた。
「年始めの祭りに出たいです」
サフィーヤが目を見開く。
「リリア……」
「歌の中で、私は姫と呼ばれています。でも、歌っている人たちは私のことを知りません」
ナディルは黙って聞いていた。
「異国の剣に守られているとか、祀院へ戻すべきだとか。私のいないところで、私のことが決められていく」
言葉にするほど、胸の中で気持ちが固まっていく。
「隠れるのではなく、自分の姿を見せたいです。私が何を考えているのか、自分の言葉で伝えたい」
「祭りには大勢が集まる。危険もある。姿を見せれば、歌がさらに広まる可能性も高い」
「分かっています」
「それでも、出たいのか」
「はい」
ナディルは、しばらくリリアを見つめた。
「分かった。祭りへの参加を認める」
その場の空気が、わずかに引き締まった。
「ただし、安全の手立ては整える。警護の配置と動線は宮廷で検討する」
「ありがとうございます」
「礼は、まだ早い」
ナディルはジャリールへ向き直った。
「祀院の動きと、歌詞を渡した仲介人を引き続き調べろ。分かったことは私に報告し、祭りの警備にも反映させろ」
「承知しました」
「サフィーヤ。祭りでリリアが何を伝えるか、本人と相談してくれ。必要な支度も進めておけ」
「分かったわ」
サフィーヤが答えた。
◆
会談のあと、リリアは窓辺に立った。
外では、祭りの準備が進んでいる。
通りには灯りが掲げられ、広場には屋台の骨組みが並び始めていた。
年始めの祭りに出れば、さらに多くの人が自分を見る。
黒百合の巫女として。
異国から来た娘として。
二振りの剣に守られる姫として。
けれど、誰かが作った歌に、自分の姿を決めさせたくはなかった。
リリアは右腕の袖を押さえた。
黒百合である自分も、黒百合だけではない自分も、隠さずにそこへ立ちたい。
そして、誰の隣に立つのかも、自分で選びたかった。
◆
その夜、リリアはメフリナから借りた手紙の写しを開いた。
黒百合だったから愛したのではない。
その人だったから、一緒に生きた。
何度読んでも、そこに書かれた言葉は変わらない。
黒百合だから大切にされるのではなく、自分だから大切にされる。
そんなことが本当にあるのなら、どんな感じなのだろう。
リリアは窓の外を見た。
皇宮の庭では、年始めの祭りへ向けた灯りが、また少し増えていた。




