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魔術師団の副団長は見た!残念な魔術師団長の初恋  作者: 春風由実


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9.取り調べ


「クロイ!少しは話してくれよ!どうしてこいつらはここにいるんだ?」


 少年が少女の腕を掴んで揺らせば、少女は頷いていたが。


「転移。想定外」


「あぁもう!いつも通り分からねぇな!てんいってなんだ?」


「魔法」


「その魔法であいつらが来たのか?」


「赤いの。入れた」


「あぁ、駄目だ。俺じゃあ、いつまで聞いたって何も分からねぇ!」


 少年の方が頭を抱えていた。

 この少女は緊張して言葉が出ないわけでもなく、初対面の大人に人見知りしているわけでもなく、いつもこうなのだろう。


 出身は異国だろうかと、カシアは想像してみる。


 確かにあれだけ真っ黒い髪色を持つ人間は、この国では珍しい。

 黒髪の人間は貴族にも庶民にも存在するが、実際は茶色掛かっていて、あのような黒さはないのだ。

 それにカシアは市井の人々を多く知るわけではないが、少女の瞳と同じ淡い紫色を持つ人間も見たことはなかった。


 しかしそれがどこかの国に多い色だという情報をカシアは持ち得ていなかった。


 もしもあの容姿が、闇魔法使い特有のものであるならば。

 それを魔術師団の副団長をするカシアが知らないというのはあまりに不自然。

 

 王家は余程闇魔法使いを怖れているのだろうか──それは根絶やしにするほどに。

 ならばこの少女の未来は──。


 カシアのその最悪な想像は、上官の変わらず呑気な声に遮られた。


「私が代わりに説明してもよろしいでしょうか?あなた様からお話を聞きたいとお願いしたのは私なのです」


 少女よりもっと幼い子ども相手でも、上官の口調が普段と変わらないことにはカシアは感心した。

 自分ならばそう出来るかと考えれば、カシアには自信がない。


 奇しくもそれは、少年も同じように思っていたようで。


「あなた様だぁ?俺に言ってんのか?」


「そうですが。いけなかったでしょうか?」


「兄さん、綺麗な顔をして気持ち悪いな。俺をそんな風に呼ぶ奴は街にだっていないぜ?」


 青い瞳を見開いたあとに視線を落とす上官を見やり、カシアは失礼にもイース・アバランでも落ち込むのかと驚いてしまった。


 しかしこの少年は、なかなかに怖いもの知らずな子どもである。

 魔塔に籠り出歩かない魔術師の制服を知らずとも、その作りから高貴な身分にあることは分かりそうなものであるが。


「悪かったよ、兄さん。慣れなくてさ。そんなには気持ち悪くなかったから、落ち込むなって」


 子どもらしく言葉選びに容赦がない。

 イースが「そんなにはですか」と呟いているのを、軽く笑って少年は尋ねた。


「あんたが俺を呼んだのは分かったよ。で、兄さんは俺に何を聞きたいんだ?」


 元々の少年の性格もあるだろう。

 それでも少年がここまで怖れや警戒心を持たない理由が、カシアには見当がついている。


 カシアは改めて黒髪の少女に視線を向けた。


 内からまったく魔力を感じない人間を、31年生きてきたカシアは初めて目にする。


 魔法を使えない者も、体内に少しの魔力を保有しているものだ。

 それは赤子でも変わらない。

 人間は生まれた瞬間、いや、もっと前、母親のお腹にいるときから魔力を持っている。


 少女にはそれがなかった。


 少女は魔力がないのか、隠しているのか、感知出来ない特殊な魔力を持つか、カシアはそのどれが正しいかも選定出来ない。


 読めないというだけで、これほどに怖ろしいとは。

 かつて闇魔法使いをこの国から排除した王家の人間も同じ気持ちだったのだろうか。


 カシアは目のまえの少女を消して、その存在を無かったことにしたいとは思わないし、少女は理由なく他者を攻撃しないだろうことは、この短時間に見ているだけで理解出来た。

 攻撃する意思があれば、最初からしていただろう。

 それにあの魔道具──。


 それでもカシアは警戒を解けないでいる。

 全身の感覚を研ぎ澄ませ、周囲には分からぬ程度にこの場の風を制御して、何を考えているのか分からないいつもと言動の異なる上官を見守った。


「先ほどは、そちらの彼に捕まったと言っておりましたね?その話を詳しく教えていただきたいのです」


「何のために?」


「もちろん本当にそのような酷い行いをする悪人がいるならば、正当に罰するためです。そうですよね、()()()()()()()()()()()()?」


「なっ──」


 急に呼び方を変えられて、フライア・エリスロースは絶句したが、しばらくすると自力で回復した。


「当然だ。本当に我が部下が問題を起こしていたのであれば、私が正しく裁いてやる」


「フライア団長!貧民街のガキ共の話など聞く価値はありません!尊いお耳が汚れるだけです!」


「それだよ、オリバー・コックス」


「ディラン隊長まで、貧民街のガキ共の言葉を信じるというのですか!」


「だからそれなのだよ、オリバー・コックス」


 指摘したのは、第五区隊長ディラン・ハワード。

 オリバー・コックスと呼ばれた騎士は、彼の直属の部下と思われた。


「どうしてお前は、そこの子どもが現れる前から、貧民街の複数の子どもを知っているような言葉を使う?」


「は?」


「説明せねば、分からないか?お前は最初から『貧民街のガキ共』と言っていた。それを俺は、お前が貧民街の子どもを複数知っているものと捉えたが。しかしそれはおかしい」


「ディラン隊長、それは……」


「貧民街の住人と接触したら、必ず報告を上げることになっていることを知らないとは言わないな、オリバー・コックス?」


 急激に周囲の気温が下がり、少年がぶるりと震えたのは一瞬。

 並ぶ騎士たちも一段と緊張しているように見えた。

 一方で魔力の風で身を守っていたカシアは、周囲に溢れ出た魔力を感じ取るだけだった。




読んでくださいまして、ありがとうございます♡


お星さまをくださった素敵な御方、ありがとうございます♡

作者は飛び上がって喜び、この喜びを分かち合おうとして、眠そうな猫たちにうるさいと言われました♡

ブックマークしてくださった皆様もありがとうございます♡更新の励みになります♡♡♡

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