50.真実への道
カシアの思索の歩みは止まらない。
「魔石自体が……クロイさんの魔法に近い存在にも思えます。私たちが魔力を吸収する物体と思ってきたそれが、干渉体として注がれたものの振幅を抑える効果を保有しているならば……仮定が過ぎるでしょうか?けれどこの推測が正しいとなれば、私が猫の魔道具から一切の人間の魔力を感じなかったことは当然ですし、イース団長が見えているものも、実は魔石そのものの輝きだったという推測まで出てきますね?」
カシアがすらすら語る間に、イースが顎に手を添えるようにして考え込んでいた。
「カシアの言う通りです。何故気が付かなかったのでしょう?魔石についてもこれまでの認識を固定せず検証を行うべきですね」
「もうひとつ確認したいのですが。イース団長はポーションからもクロイさんの魔力を感知していますか?」
「微かにはありましたが、カシアはどうです?」
「イース団長に使うようにといただいた分は、手に持っても他者の魔力は感じず、本当にポーションなのかと疑うものでした」
「クロイはすでにポーションを街の店に卸しているようですが。問題にはならないでしょうか、カシア?」
急に心配になった世間知らずの天才魔術師を安心させるように、カシアは穏やかな声で言った。
「魔力が少ない方が作成した場合には、出来上がるポーションに残る魔力は極微量なのですよ。それに薬草の保有魔力は感じましたからね。我々のように普段からポーションを作成している者ならば気にするかもしれませんが、市井では気にならない方が大半でしょう」
庶民にも魔法使いは存在しても、ポーションを自作出来る者となると、探すことに苦労するだろう。
薬草学の深い知識と、高額な薬草を用いての訓練が必要となれば、庶民が趣味でポーション作成を始めることは叶わないし、投資目的で手を出すにしても売れる製品が出来る保証は少なく、商売としては現状市場に出回るポーションを売買する方がずっと確実な利が得られると言える。
よって市井でポーション作りに手を出す者は少ない。
処分されたあの騎士たちの上役だった班長も、実家の商売の利にしようと企み、クロイのポーションを狙っていたのは、そういう背景があった。
今後も利益を奪おうとして誰かに狙われる可能性はあるものの、クロイならば心配はないだろう。
クロイ自身、問題ないと判断しているから、市井でポーションを売り始めたのだと思われた。
「しかしイース団長。二度目に拝見したクロイさんのポーションに関しては、飲んだことにより私の感想は変わります」
研究に関してカシアは、他者と話す際に饒舌になる性質を持っていた。
上官と真逆のそれは、まさに今のように。
「口に含んでもやはり他者の魔力は感じませんでしたが、薬草の保有魔力がやけに強化されているなという実感がありました。私はそれを単純に、見えないクロイさんの魔力の効果であり、普段からとてもいい薬草を育てていらっしゃるとも考えたのですが。今は先ほど作成いただいた分が、この推測を否定します」
昼間にクロイは何度も首を傾げていた。
普段と同じように作ったのに、カシアの魔力を使用して作ったポーションはいつもとは出来が違ったようだ。
カシアが作ったポーションよりは劣るが、クロイがいつも作るものよりはずっと美味しいとも言っていた。
それはカシアが美味しくなるよう事前に薬草を選定した影響が大きく効いていて、しかし魔力そのものの違いや、魔力を混入しながら煮る手順の不一致が出来上がりの味を変えたのだろうと、つい先ほどまでのカシアは単純にもそのように考えていたのだが……。
「薬草の保有魔力だけでなく、薬草全体の特性にクロイさんの魔法が干渉していると仮定すれば、影響は薬草の効能に限定されず、薬草の味までも特徴が際立ち、結果としてより美味しくないものが出来上がってしまう。これもあり得る仮定だと思いませんか、イース団長?」
「クロイの魔力が味に関する特性の振幅も拡大する……面白い考察です」
「元々私たちも、鍋で薬草を煮る際には、薬草の効果を増して、味はまろやかになるようによく調整しながら、魔力を注入していきますよね?クロイさんが味の改良を求めてこれをしないということは、同時には、あるいは常に、一方向にしか干渉出来ないという制約があるのかもしれません」
「何でもないことのように言いましたけれどね、カシア。カシアは適した魔力だけを抽出し、繊細な魔力操作を行っているから、ポーションの効能高く、美味しいものを作成出来るのですよ。ですからクロイが一方向にしか干渉出来ないという仮説を断定するには、材料が足りないと言えるでしょう」
「材料が足りない点は認めますよ。あくまでひとつの仮定として話しています。ですが、イース団長。何より大事なので、もう一度言いますが。ポーションは美味しいものでありません。しかし、今はそれを置いておきましょう」
カシアにはまだクロイの魔法で気になる点があった。
それもこれもイース・アバランが検証した結果を提示してくれたから、気に出来るようになった部分である。
「私が今とても気になっている点は、本日クロイさんがいつも通りに作ったと仰っていたことです」
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