49.そこに立たねば見えぬもの
「何を言っているのですか、カシア。私は冗談を言いませんよ?」
「イース団長ほどの魔力量をお持ちの方に羨ましいと言われましてもね」
本人に嫌味のつもりはないとしても、相手には嫌味に聴こえることがある。
それを天才に知らせたくて、ついついカシアは自分から嫌味を言ってしまった。
なのに天才イース・アバランという人は──。
「まさかカシアは、そのご自身の魔力の素晴らしさを分かっていないとでも言うのですか?」
まだカシアに向けた称賛の言葉を続けようとする。
カシアは黙ってイースの顔を見詰めたが、カシアのどんな視線も気にせずイースの青い瞳はきらきらと輝いて、カシアの中でその輝きが昼間見た淡い紫色の瞳に重なった。
「カシアのその魔力の混合率は、まさに黄金比と呼べるものですよ。私にもそれがあれば、力業で魔法を使うことはなかったでしょう」
カシアの目が見開かれる。
力業だと?
カシアは聞かずにはいられなかった。
「お待ちください、イース団長。イース団長は、今まで力業で魔法を使ってきたという認識をお持ちなのですか?」
カシアがこんなにも驚いているのに、当然という顔で上官は言うのだ。
「そうですよ。私の魔力量が少なければ、得意な氷魔法を扱うことが限界でしたでしょう。それを私は量という力業で私の魔力とは相性の悪い特性魔法に利用してきただけです。その点カシアの魔力は、各種の魔法に適した魔力が見事に調和して、素晴らしいではありませんか。だからクロイのお気持ちがとてもよく分かるのですよ。私もこれまでに何度カシアの魔力が欲しいと思ったことでしょうか」
これだけ言葉数多く語られているのに、カシアはすべてが聞き間違いだと思えた。
魔術師としては致命的とも言える特質性のない平凡な質の魔力に、決して多くない魔力量を持つカシアは、せめてという気持ちで使える魔法を増やしてきたのだ。
その過程で魔法の研究もよく進み、魔術師となり魔術師団に所属して、イースの世話をするうちに副団長の座まで手に入っていた。
それらはすべてイース程の特別な魔力と魔力量を持ち、天才と称される魔法に関する博識さを持ってすれば、必要なかった努力と言えるだろう。
カシアはそのように自身を分析、評価してきたのだから──簡単には天才上官からの称賛を受け入れられない。
「魔力を抽出するカシアの腕にも憧れておりましたよ。私はほら、なんでも量を使い勢いで成し遂げてしまいますでしょう?カシアはご自身の魔力からその都度その魔法に必要な魔力を見事に分離して、繊細な魔力操作を行えているではありませんか。私にはどれも出来ないことです」
やめてくれ──もう十分だ──。
目の奥がじんわりと熱くなって、カシアは慌てて生体反応を制御した。
彼女はどこまで私たちを変えていくのだろう──。
カシアはこれ以上感情を乱さないようにと無理やり目の前の上官から意識を外して、昼間見た黒髪を揺らす女性の笑顔を思い出していた。
「ですからね、カシア。私には無いものを多くお持ちのカシアと検証したいのですよ。ここからは私と共に研究してくださいますね?」
何か溢れてしまいそうで、薄く頷いたカシアは、手元の資料を見詰めて、自分の感情を抑えるためにとさらに黒髪の女性のことを思い出していった。
途中大きな気付きを得て、おかげで溢れそうになる何かは静まっていく。
「魔石にポーション……欠け……欠損を修復したのではなく、残量の振幅の調整か?」
「どうしました、カシア?」
「イース団長は、猫の魔道具に入っていた魔石を利用し、これらの解析を行ったのですよね?クロイさんの魔力らしきものが、私たちの知るものとは別の何かであると仮定した場合に、我々と同じように魔石に魔力を注ぐことが出来るというのは、不思議ではありませんか?クロイさんは実は注入しておらず、魔石そのものの力を増減させている可能性もあるのではないでしょうか?」
資料から顔を上げたカシアは、すっかり魔術師団の副団長の顔付きに変わっていた。
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