48.共同研究者
「それは……嫌味で聞いているわけではありませんよね?」
イースに元から悪気がないことはよく分かっているけれど、それでも飲み込めないものがあって、カシアは聞いた。
目の前で上官の眉が分かりやすく下がっていく。
「まさか。カシアには見えないからこそ気付くものを教えていただきたいのですよ」
「団長はクロイさんの魔力が見えているのですよね?」
「極一部だと思います。私はそれを質は違えど私たちと同じ魔力であると思い込んでおりましたが──あれほどに美しいものが同じであるはずがありません。見えるが故に、そこを見落としていたのですよ。カシアが見えないと言ったとき、それはあまりにおかしいのではと思いましてね。根本から考え直すきっかけを頂きました。そして先日の魔道具です。カシアも気になっていたのではありませんか?」
「そうですね──あの猫型の魔道具は除外しますが。先日イース団長が魔道具を弄っている間に、擬態用は別として、何故クロイさんはご自身の魔力だけを使わないのかとは思いました。クロイさんの作成されたすべての魔道具から通常の魔力を感知しましたし、使用されている魔石もよくあるものに思えましたので。イース団長から見ても、あれらの魔道具にクロイさんの魔力は感じ取れなかったということでしょうか?」
「そうなのですよ、カシア。私にも一部しか見えていない可能性がありますから、絶対に使用していないとは言い切れませんが。そもそもクロイの魔力なく動く仕様になっておりましたからね。魔道具の動作内容の問題は多々ありましたが、使われていたすべての魔石は通常のものであり、その中身はすべて違っておりましたが、私たちがよく知る魔力そのものでした。おそらくは今までクロイが集めてきた魔力を使用したのでしょう」
「魔力ある子どもたちをあの場所に残したのは──いえ、これはあまりに仮定が過ぎました。撤回します」
短い期間の交流しかなくも、カシアはクロイが使える人間だけを側に置く女性ではないと信じられた。
それに魔力を多く持つ子どもは利用されやすく、側で守るため孤児院には出さずあの場所に残したと考える方が自然だ。
魔力持ちが無事成人する頃には、自身を守る力を持つ者が多いことも考えれば、魔力少なく将来も魔法が使えない予定の子どもたちを孤児院に送る意味も理解出来た。あの子たちは早くに街に溶け込んでおいた方がいい。
そしてクロイは、カシアの前で以前泣いたあの少年のように、魔力を多く持たぬ子どもだって側に残している。
カシアが見る限り、あの場所に残る子どもたち全員が、魔法使いの素質を持ってはいなかった。
エリーとクロイは個々の子どもたちの意思を尊重し、対応を決めたのではないか。
「撤回するようなことでしょうか?私はあの子たちが羨ましくてなりませんよ。魔力ならば私が毎日いくらでもクロイにお渡ししますのに」
上官がまたおかしなことを言い出したとは思ったが、カシアはふと思い付いたことを口にした。
魔力暴走があったから、クロイはイースの魔力を大量に保持しているはず。
それを魔道具に一切使わないでいる理由は──。
「干渉するには、イース団長の魔力が強過ぎるということはありませんか?魔力量と振幅に相関があると仮定すれば、クロイさんでも微細な調整が難しいのかもしれませんよ」
ぱっと見開かれた青い瞳は、見る間に閉じていった。
「私はあなたも羨ましいですよ、カシア。あなたはとても素晴らしい魔力をお持ちですからね」
カシアも今回ばかりは、恨めしい視線を上官に向けてしまう。
「今度こそ嫌味で言いましたね、イース団長?」
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