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残念な天才魔術師団長の初恋  作者: 春風由実


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45/74

45.魔術師としてどうしても


 魔塔のカシアの部屋にはキッチンも併設しており、今日カシアはここでポーションを作成する予定だった。

 広くはないが整ったキッチンには、すでに下準備を済ませた薬草の香りが満ちていて、いつでも作業を開始出来る状態にある。


 キッチンに立ったカシアは、先ほどからずっと、後方から注ぐちりちりと尖った魔力に悩まされていた。


「カシアもすごい」


 称賛されて素直に喜ぶべきところなのに、カシアは今、隣の女性の声にも悩んでいた。





 あの日──。


 クロイ抜きでのエリーとの二度目の話し合いを終え、帰宅間際のことである。


 カシアは願い事を口にした。

 ほんの少しでいいから、ポーション作成の指導をして欲しい。

 カシアは躊躇なくクロイに頭を下げて教えを乞うたのだ。


 これをクロイは快諾してくれた。

 うるさくなるかと思われた上官も、魔塔に戻ってからは自室に引き籠もり、カシアには何も言って来なかった。


 クロイが声だけで連絡をしてくれたから、今日は予定を空けて、カシアは有難くポーション作りの教えを頂戴する手筈となっていたのである。

 いつもの如く、クロイは事前に声掛けもなく、魔塔のカシアの部屋に立っていて、キッチンに入るなり興味深そうにカシアが準備した薬草を手に取り確認するようなことをしていた。


 そうしていざポーション作りをはじめようというときだ。

 何故分かったのだろう?


 クロイはあらゆる反応を読めないようにしているのに。

 突然カシアのキッチンに強い魔力が溢れて、カシアの上官が転移してきた。


 そこからカシアは針の筵にいる気分だ。

 相手は一人であるのに、刺々しい魔力がカシアの全身を刺激してくるのである。


 カシアは全力でこの魔力を読まないように徹していた。

 カシアの隣、台の上に立つおかげでいつもより顔が近く感じるクロイに、カシアは問い掛けた。


「と言っても、クロイさんの魔力は私には見えないのですよね。どう教えていただきましょうか」


「カシアの魔力、使う。平気か?」


「私の魔力はこの場所に認知されているので、そのまま使って頂けるなら、弾かれることはないでしょう」


 カシアの目にはクロイの魔力が見えないため、ポーションの材料となる薬草に魔力を注ぎながら煮る様子を詳しく知ることが出来ない問題は、クロイからあっさりと解決策を提示されてしまった。


 魔塔全体に掛かる魔法も、カシアの魔力をそのまま使うようにすれば、問題は起きないだろう。

 変質や抜き取りはしないように改めてお願いして、カシアは差し出されたクロイの手に向けて自身の手も伸ばそうとしたのだが──。


「イース団長。私の学びの場にしたいので、今日だけは控えて頂けると有難いのですが」


「私の魔力でいいですよね、クロイ?」


 カシアの言葉は聞く気がないようで、イースは後ろからカシアとクロイの間に入るようにして、クロイの手を取ってしまった。


「カシア、教える」


「カシアには私が教えますので、ポーション作りの秘訣は、私に教えていただけないでしょうか?」


「イース、めっ!カシア、先」


 しょんぼりと肩を落とした上官は、名残惜しそうに手を離すと、後ろに下がって、またカシアに刺々しい魔力をぶつけて来る。

 

 カシアも悪いことをしたなとは思っていた。

 だがどうしても、魔術師として学びを得ずには終われなかった。


 それだけクロイのポーションの効果は素晴らしかったのだ。

 以前こっそり上着のポケットに潜ませてあったあのポーションで、カシアの溜め込んで来た疲れはたちまち吹き飛んでしまった。


 クロイがあのとき告げた『かけ』という言葉もカシアは気になっている。

 いつもより多くの魔力を使い続けるうち、カシアも知らず魔力の一部に欠損が発生しており、それがカシアの作る通常のポーションでは回復出来なかったのではないか、カシアはそう予測した。

 その辺りも今日は詳しく解説を願いたいところであるが──。


 上官が邪魔である。

 いちいち間に入って来ようとするために、遅々として作業が進まない。


「カシア、手」


「はい。よろしくお願いします」


 カシアからは握らず、クロイに掴ませるようにして、女性に対する配慮はいつでもカシアは忘れていない。

 それでもイースからの鬱陶しい視線と魔力は一向にやまず、カシアは自室なのに、とても居心地悪い想いをしなければならなかった。


 異性と密室に二人きりというのは貴族としては良くないので、イースがいる分には有難いとも言えるが。

 カシアはクロイ相手に対しては、そこまでは気を配っていなかった。

 貴族でないことを見下しているのではない。クロイに不要な配慮と判断したからである。


 それにカシアは今日のことをきちんと──。


「カシアのポーション、飲む」


 飲んで実力を見てから、教えてくれるということだろう。

 そうだと信じて、小瓶に分けたポーションを一本手渡してからだ。


 カシアの広くないこのキッチンにおける事態が、より悪化してしまったのは──。




読んでくださいまして、ありがとうございます♡

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