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残念な天才魔術師団長の初恋  作者: 春風由実


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41.おおいなる誤解


 エリーの家に戻ると、クロイはそのままエリーに連れられ家の奥へと消えていった。

 いつもの部屋でカシアたちが待っていると、珍しく黒くない服を着たクロイが現われ、しばしイースの上官がおかしな発言を繰り返していたが、そこは忘れるとして。


 姉妹のように同じく水色のワンピースを着たエリーとクロイが並び座ってから、大きなテーブルの向かい側にカシア、フライア、イースの並びで着席するまでに、多少時間が掛かったことも、忘れることにして。


 全員が揃ったということで、カシアはさっそく本題に入ることにした。

 騎士らと子どもたちの記憶の消失についてクロイに問い掛けたのである。


「おおいなる」


 おおいなる?

 カシアたちは、息を止めるようにして続くクロイの言葉を待っていた。


「ごかい」


 ゴカイ?


 はじめカシアは、その言葉の意味をすんなりとは受け止められなかった。


「では子どもたちの記憶喪失は、クロイのせいではなかったということか?」


 フライアがそう発言したことで、カシアはようやくクロイの言葉の意味を飲み込めたのである。


 しかし──おおいなる誤解とは?

 

 理解したようでまったく理解していないことに、頭を抱えたくなっていたカシアの前で、さらにクロイが首を振ってしまうからには。

 カシアはこれは苦労すると思い、エリーという援軍におおいなる期待を預けた。


 ところがエリーは、まだその体内から不安の色を強く表していて、すぐに動けそうにはない。


「んん?ではやはりクロイが記憶を消したということか?」


「消す、違う」


 クロイはずっと隣のエリーの方をちらちらと窺うように盗み見て、気にする素振りを見せている。

 それがエリーの心を次第に落ち着かせていったのではないか。


 あるところでエリーは、ふっと息を吐くように笑ってから言った。


「クロイ。私は怒らないから言っていいわよ」


「泣かないか?」


「へ、変なことを言わないでちょうだい。私がいくつになったと思っているのよ」


「エリー、ビービー泣く」


「変なことを言わないでったら!子どもの頃のことは忘れなさいと言っているでしょう」


「いや。忘れない」


 ぐっと言葉に詰まったように、エリーが押し黙ってしまった。

 カシアにはそれが涙を堪えている姿に見えてしまったが、それはクロイも同じように分かっているのではないか。


 クロイの目が穏やかに細められて、口元には笑みが浮かぶ。


「んもう、クロイは変なところで頑固なんだから」


 怒ったように絞り出したエリーの声は微かに震えていて、隣でエリーを見詰めるクロイは、カシアがまだ見たことのない笑顔を見せた。

 力の抜けたような、ふにゃふにゃと締まりのないその笑顔は、最上の喜びを語っている。


 はっとしてカシアが隣のフライアを越えてさらに隣に座る上官を眺めれば……上官はまた不貞腐れたような表情を見せていた。


 カシアは先ほど上官の恋心に気付いたときから、ある点が気になって、不安を抱きつつあった。

 今まさにそれを裏付ける態度を示されて、カシアは疑いの目で上官を見詰めてしまう。


 イースはカシアにも話を通すことなく、やけに早くから孤児院のことで自発的に動いていた。

 もしもそれが、単にクロイと子どもたちを引き離したかっただけだとしたら──。


 カシアは同時に『さすがに変人のイース・アバランでもまさかそんな』と否定する気持ちも抱いた。


 しかし仮にカシアの予測が正しく、エリーすら孤児院に押し込んで、クロイを一人占めする算段だったとしたら──。


 イースは初めから恋に落ちていたのだろう。


 そしてきっと初めての恋だから。

 抑えなければならない感情も理解しておらず、感情を制御しようという視点にも立てていないのではないか。

 そのうえ元からの常識知らずだ。


 だから魔力暴走なんかも起こした。

 本人も初めての感情に戸惑っているのかもしれない。


 ──と、そこまで考え、カシアは自身の行いを反省する。

 理由はどうあれ、イースは善行をしたわけで、それを今さら悪いように捉えるのは良くない。


 しかし……不貞腐れたその顔を見ていれば、その反省が無意味である可能性も無きにしも非ず。


 ただひとつ、カシアの予測が正しかったとすれば……。

 カシアにとってイース・アバランは一段と理解し難い人間に変わることになる。


 恋い慕う人が幸せな笑顔を見せているときに、それを素直に喜べぬ者たちをカシアは理解しないし、理解したいと願うこともないだろう。

 まだ恋を始めたばかりのイースが、これから変わっていく可能性はおおいにあるが……。


 今まで以上に振り回されることになりそうで、カシアは頭を抱えたくなるのだった。



 そんなカシアの心情は知らず、エリーとクロイが顔を近付け微笑み合っていた。

 髪も目も色は違い、顔のつくりもまったく似ていない二人だが、表情の作り方がよく似ていて、同じ色の服を着ていれば、エリーとクロイはとても仲の良い姉妹に見えた。




読んでくださいまして、ありがとうございます♡

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