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残念な天才魔術師団長の初恋  作者: 春風由実


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37/74

37.その目的は


 結界に守られたこの場所で、エリーたちはいつまでも幸せに暮らせたのではなかろうか。

 カシアの疑問はそこから始まった。


 確かにエリーや子どもたちが、街で暮らす人々に一切関わらず生きていくことは難しいだろう。

 生きるために必要な食糧や物資を調達しなければならないし、それを得るためには稼ぎもいる。

 これはクロイの魔法を犯罪利用しない前提の話だが、それに関しては考えている間にカシアは一度も悪い方には疑わなかった。


 では街の人々と関わり生きていくとして、子どもたちがこの場所を去る理由があろうだろうか?

 

 カシアはこれがどうしても心から納得出来ずにいた。

 ここを居住地としたままに、その暮らしは実現出来たからである。


 そしてそれは、すでに今、実行されているではないか。

 今もクロイが作ったポーションを街で売り、ここで暮らす全員の生計を立てているものと思われた。

 上級のポーションは少量が高額で売れるからだ。


 そして先日クロイがカシアの部屋で話したこと。

 エリーの夢と語ったそれは、やはりここを拠点にしたままでも実行出来る。


 ここでエリーがパンを焼いて、クロイが魔道具を作り、子どもたちは薬草を育て収穫し乾燥させて茶として売り物となるよう準備する。

 それを街のどこかの店に卸せばいい。


 自分の店を持つことがどうしても夢だとすれば、街のどこかに店舗を借りて、昼間はエリー自身が店に出てもいいし、成長した子どもたちをその店で働かせてもいいのではないか。


 もちろん外を知り、夢を持ち、ここを去って一人で生きていこうとする子も現れるだろう。

 それを引き留めるエリーたちではないと思われた。


 結局カシアが会って貰えなかった、通りに隠れ住む成長した子どもたちへの対応も、カシアには疑問が残る。

 成長し街へと送り出した者たちが、やはりここで暮らしたいと願い帰って来たときに、エリーがそこまで拒絶する理由は何だ?


 そして──どうして記憶まで消した?


 そうして考えていけば、カシアにはもっと別の推測が見えてきた。


「私とそちらのイース団長がこちらに来ることまでは、エリーさんも考えていなかったと思います。けれどエリーさんは、最初からこちらのエリスロース第三騎士団長を確実に巻き込もうとしておりましたね?」


 子どもを人質に取られたとして、騎士を通りに招き入れる必要はなかったのではないか。

 クロイの魔法があれば、騎士だけをどこかに運ぶことが可能だったはずだ。

 あの魔道具も見せる必要はどこにもなかった。


 そして──イースとカシアをこの場所に招く理由はもっとない。


 想定外に現れた魔術師をどうしてエリーはこの場所に招き入れたのだろう。

 クロイが勝手にそうしたわけではないと、カシアは予測した。


「何か逼迫する事情がおありだったのではありませんか、エリーさん」


 カシアが問う間に、エリーの視線はテーブルより下に落ちていた。

 自分の膝を見ている。


「エリーさんには、子どもたちの幸せとは別の、何かの目的があって、それも急がなければならない事情がおありだったから、あの通りに騎士を招き入れるよう、クロイさんに指示したのではないかと思ったのです。そしてわざわざその騎士にあの魔道具を見せるようなことをして、最終的に第三騎士団長が出て来るよう願った。私の推測は間違っているでしょうか、エリーさん?」


 エリーが顔を上げるまで、しばらく沈黙が流れた。

 イースもフライアもただ黙ってエリーを見詰めていた。


「クロイが……一人にならないようにしたかったわ」



読んでくださいまして、ありがとうございます♡

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