23.そうだ便乗しよう
「そうですね。まずは取り急ぎで……」
カシアが言い掛けると、イースは顔を覆う両手を膝におろして、カシアを見詰めた。
カシアははじめて上官が年相応、いや、それ以下に幼く思えた。
魔法の腕が最初から上だったことで、ともすれば年下であったことを忘れてしまうから。
なんだか新鮮な気持ちではあったが、カシアは期待に輝く青い瞳をまっすぐ見詰め返すと大真面目な顔をしてこう言った。
「シャワーを浴びて来てください。今すぐにです」
がっかりだと顔に書いてあることも珍しくて、カシアは面白く上官を眺めていると、軽快な笑い声を聞く。
「いい回答だ!私も貴殿の意見に賛同するぞ、フォッシル魔術師副団長!」
「エリスロース嬢。あなたまで……。私はカシアに本気でお尋ねしましたのに」
「私も本気で答えましたよ、イース団長。もしも彼女に会う機会を得たとして、イース団長はそのお姿で会いに行くおつもりですか?」
「そんなことはしませんよ。クロイとはきちんと綺麗にしてお会いするに決まっています」
見綺麗にして人に会うべし、という意識は持っていたのか。
カシアは変に感心していたが、すぐに思い直した。
その意識があるならば、自分に会うときもそうしてくれ、と思ったのだ。
「はっ。そんな機会を得ても、この体たらくでは、すぐに動けぬだろうよ、アバラン。そうだ、フォッシル魔術師副団長。この部屋もおおいに問題があるな?」
「エリスロース第三騎士団長の仰る通りですね。今後魔塔にお招きする機会もあるかもしれませんが。この惨状では私の部屋に案内することになります。それでよろしいのですか、イース団長?」
「よくありません!クロイは必ず私の部屋にご招待します!」
「貴様、この酷い荒地に気に入りの大人の女性を呼ぶ気か?嫌われるぞ?」
「なんですって?クロイが私を嫌う……?」
それはどうだろうか。
カシアはエリーに世話をされるクロイを思い出すと、第三騎士団長の発言には懐疑的になってしまう。
ただしそれはフライア・エリスロースが知らないことである。
「イース団長。先ほどエリスロース第三騎士団長も仰ったように、どこまで把握されているかは分からないとはいえ、かの御方々がこれで何もなく諦めるとは思えません。この先急遽彼女を保護しなければならないこともありましょう。そのときイース団長は、身綺麗にしておかなかったせいで、すぐに動けず遅れを取ってしまってもよろしいのですか?」
イース・アバランの身体が姿勢を変えずふわりと浮かんだ。
「貴様、この私の前でまた嫌味な魔法を使いおって」
「エリスロース嬢が何を仰っているのかは分かりませんが。カシア、私はシャワーを浴びてきますね。その間、この部屋を片づけてくださると有難いです」
「え゛」
諭すようなことを伝えながら何の期待もしていなかったから、カシアは驚く。
あのイース・アバランが片付けろと言うなんて。天変地異が起きそうだとカシアは思った。
そんな驚く部下と第三騎士団長を残して、空間に浮いたイースはふらふらと揺れながら、奥へと消える。
「手伝うぞ、フォッシル魔術師副団長!すべて焼き払えばいいな!」
「それはやめておきましょう。ゴミの山に見えますが、意外にこの部屋には高価な素材などが落ちているのですよ」
「はっ。いくら高価でもこの酷い場所にあった物に価値があるのか?」
確かに、とは思ったが。
カシアはなんとかフライア・エリスロースの暴走を止めて、いつも通りに部屋に何もない空間を広げていった。
片付けていいと言われても、結局イースが捨てていいと言うまでは、カシアは物を端に積み上げるだけだ。
三階すべてを占領した広い部屋であるはずなのに、部屋に対して物量が多過ぎて、物を整理整頓出来る段階にはないのである。
フライア・エリスロースも、何度も物騒な言葉を口にしながら、大人しくカシアと共に部屋を片付けていった。
そうしているうち、第三騎士団長は何をしに魔塔に来たのだったかな、とカシアはぼんやり疑問を抱いたが、とりあえず三人が座れる場所を確保したときにやっと思い出して、別に今日はこの物溜まりの中で膝を並べて話す理由がなかったことに気付く。
「このあとは、私の部屋で話しましょう。時間も時間ですし、イース団長も食べさせなければならないので。良ければご一緒に食事を取りながら、いかがでしょう?」
カシアは先に提案しておいた。
この二人の団長には、また何か勝手に思い付かれる前に、話して置くに限るのである。
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