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第51話:世界を否定するもの

願いは、いつだって叶わない。

全部を守りたいと思っても。

全部を失いたくないと願っても。

世界は、それを簡単には許してくれない。

だから人は、それでも抗う。

壊れると分かっていても。

手を伸ばすことをやめない。

黒いノイズは、ゆっくりと広がっていた。

未完成の世界を侵食するように。

空を塗り潰し。

形になり始めた景色を壊していく。

リナは思わず後ずさる。

「……なに、あれ……」

視界が不安定になる。

見ているだけで、存在を削られるような感覚。

ゼルが静かに前へ出る。

「この世界を認めない側だ」

アッシュが目を細める。

「否定派ってわけか」

軽く言う。

だが、笑えてはいない。

“それ”は形を持たない。

黒いノイズの集合。

だが確かに、“意思”だけは存在していた。

『……未確定世界……排除開始……』

声が響く。

その瞬間。

空間が崩れる。

地面が裂け、構築されかけていた街並みが消えていく。

リナが息を呑む。

「世界が……!」

ゼルが低く言う。

「完成前に壊されれば終わる」

アッシュは舌打ちする。

「じゃあ守るしかねぇだろ」

一歩前へ出る。

だが――

その瞬間、体が大きく揺らぐ。

輪郭が崩れる。

右腕が一瞬、完全に消えた。

リナが叫ぶ。

「アッシュさん!!」

アッシュはすぐ腕を見る。

数秒遅れて、形が戻る。

だが不安定だ。

「……ほんとギリギリだな」

笑う。

でも、その声には疲労が滲んでいた。

ゼルが静かに言う。

「無理をすれば保たない」

アッシュは前を見る。

黒いノイズ。

世界を壊そうとしている存在。

そして後ろには、リナがいる。

「……今さら止まれねぇよ」

小さく呟く。

その時。

黒いノイズが一気に膨張する。

空間が軋む。

未完成の世界が飲み込まれていく。

夕焼けが消える。

風景が消える。

リナは思わず手を伸ばす。

「やめて……!」

だが届かない。

“それ”は感情を持たない。

ただ、“未確定”を許さない。

『……不完全……排除……』

アッシュが前へ出る。

「うるせぇよ」

低い声。

その瞬間。

世界が揺れる。

アッシュの感情に反応して。

足元に、地面が形成される。

風が吹く。

ゼルが目を細める。

「……この世界、完全に同期しているな」

つまり。

三人の意思が、この世界そのものになっている。

アッシュは拳を握る。

「だったら――」

黒いノイズを睨む。

「壊させねぇ」

踏み込む。

その瞬間。

空間が爆発的に脈動する。

未完成の世界に、“色”が走る。

空。

光。

音。

世界が、一瞬だけ完成に近づく。

だが同時に――

アッシュの輪郭が崩れる。

リナが息を呑む。

「……消えてる……」

肩から先が透けている。

存在を削って、この世界を支えている。

ゼルが低く言う。

「やめろ」

アッシュは止まらない。

「無理だな」

笑う。

「ここで止めたら、全部終わる」

リナが叫ぶ。

「そんなのダメです!!」

涙が溢れる。

「また一人で決めないでください!!」

アッシュは振り返る。

その顔は、少しだけ驚いていた。

リナは震えながら続ける。

「私は……!」

息が苦しい。

でも止まらない。

「消えてほしくないって、何回も言ってるじゃないですか……!」

世界が揺れる。

感情に反応して。

黒いノイズがわずかに後退する。

ゼルが目を見開く。

「……押し返した?」

アッシュも驚く。

リナは涙を流したまま、前へ出る。

怖い。

でも。

逃げたくなかった。

「私は、普通の未来が欲しいです……!」

空間が脈打つ。

「ご飯食べて……!」

景色が広がる。

「笑って……!」

風が吹く。

「誰も消えない未来がいいんです……!!」

その瞬間――

世界が、大きく色づく。

未完成だった景色が、一気に形を持ち始める。

黒いノイズが揺らぐ。

初めて。

“否定”が押されている。

ゼルが静かに呟く。

「希望で……上書きしているのか……」

アッシュはリナを見る。

涙でぐしゃぐしゃなのに。

必死に立っている。

その姿を見て――

少しだけ笑った。

「……強くなったな」

リナは泣きながら首を振る。

「なってません……!」

アッシュは前を見る。

黒いノイズはまだ消えていない。

でも。

確かに、世界は形になり始めている。

その時だった。

黒いノイズの中心から、“声”が響く。

『……理解不能……』

空間が揺れる。

そして――

『……なぜ、失うことを拒む……』

初めてだった。

“それ”が問いを投げたのは。

アッシュは静かに笑う。

「決まってんだろ」

拳を握る。

「失いたくねぇからだ」

その言葉と同時に。

世界に、光が走った。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回は“未確定の未来”を否定する存在との対峙を通して、三人が本当に望んでいるものを描く回となりました。

次回は三人それぞれの覚悟が試される展開へ進んでいきます。

引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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