第42話 「魔族再び」
今日の実習は、魔物狩り。
この前も言ったけど、嫌な予感しかしない。
なので私は、例の鎧――**“レンポウの白い悪魔”**を着て行くことにした。
万が一に備えて、というやつだ。
ところが、それを見た教官にすぐ注意された。
「アシュラ令嬢。その鎧は反則だ。普段の格好で対応するように」
「わかりました」
素直に返事。
結局、鎧のままではダメらしい。
まあいい。
私には「武装!!」という、鎧を切り替える技がある。
少し面倒だけど、必要になったら着替えればいいだけだ。
「今日は先日の件もあるので、指定したポイントまでの実習とする。それでは――出発!!」
教官の号令で、学生たちが一斉に森へ向かって歩き出した。
さてと。
今回の私の役割は、前回と同じくポーター。
え?
なんでかって?
魔族を倒したのは、あくまで聖女候補のユリアンちゃんということになっているから。
私はというと、教官からの評価はまったく上がっていない。
その結果が、このポジション。
まあ、仕方ない。
一応、皇太子殿下たちとユリアンちゃんは、私の実力や立ち位置を知っている。
だから、あえて何も言わないでいてくれているみたいなんだけど——
その事情を知らない他の学生たちは、
「当然だろ?」みたいな顔をしている。
特にプーチンチンに至っては、班が違うにもかかわらずわざわざ近寄ってきて、
「いいざまだなぁ〜。加護なしの貴様にはちょうどいい。あっ、いや、むしろもったいないくらいだ」
と、そこまで言ったところで――
「イチビリッチ令息」
低い声が割り込んだ。
振り向くと、殿下。
「ここで何をしている? 君の班はあっちだろう」
「あっ……い、いえ」
言葉を濁しながら、プーチンチンはそそくさと逃げていった。
そして殿下がこちらを見て、
「アシュラ令嬢」
殿下は少し声を落として話しかけてきた。
周囲には他の学生もいる。
それでも、その声音はどこか柔らかくて、昔を思い出しているようだった。
「先日の件だが——」
と言いかけた、その瞬間。
「セイラ様」
すっと横から影が入る。
ユリアン。
いつもの聖女スマイル。
完璧な微笑み。
……だけど。
目だけ笑っていない。
しかも、なぜか殿下とのちょうど真ん中の位置に立っている。
偶然?
いや、絶対違う。
「殿下、セイラ様に何かご用でしょうか?」
にこやか。
とてもにこやか。
でも、なぜか空気がピリッとしている。
殿下も一歩も引かない。
「少し話をしていただけだ」
「そうですか」
微笑み。
「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
……笑顔で睨み合ってる。
え、なにこれ。
周囲の空気が、ほんのり凍っている。
私はというと——
ちょっと引き気味。
いやだって。
なんか今、すごく怖いんだけど。
そんな微妙な空気の中——
「まぁまぁまぁ」
軽い声が割り込んだ。
振り向くと。
イザベル様とエリザベート様。
優雅に歩いてくる。
そのままユリアンの隣に立ち、ふっと息をついた。
「ユリアン」
イザベル様が静かに言う。
「警告しておくわ」
ユリアンの眉が、わずかに動いた。
「感情を表に出しすぎよ」
「……出していません」
「出てるわ」
即答。
エリザベート様も腕を組む。
「聖女候補がそんな顔をするものではないわ」
ユリアンは少し視線を落とした。
「……気をつけます」
一方。
殿下はその様子を見て、小さく息を吐いた。
「今日は実習だ」
それだけ言って、踵を返す。
少しだけ肩が重そうだった。
……うん。
大人の撤退ってやつだね。
殿下はそのまま離れていった。
その背中を見送ってから。
イザベル様がゆっくり私を見る。
そして言った。
「セイラ」
低い声。
「あなた、本当にわかっているの?」
「え?」
何を?
本気でわからない。
イザベル様は一瞬だけ天を仰いだ。
「……駄目ね、この子」
エリザベート様も小さくため息。
「鈍感というより、別次元ね」
え、私なんかした?
⸻
その頃。
少し離れた場所。
ブーチンチン。
さっきまで前の方にいたはずなのに、
いつの間にか一番後ろに移動している。
理由?
簡単。
この後、何が起こるか知っているから。
顔には余裕の笑み。
「くくく……」
⸻
そして。
実習が始まる。
森の中。
班ごとに移動し、魔物を探す。
しばらく進んだ、その時。
ガサッ!!
藪が揺れた。
「魔物だ!」
数体の魔物が飛び出してくる。
牙を剥き、唸り声を上げる。
「来るぞ!」
「迎撃!」
一瞬で現場は混乱した。
剣が抜かれ、魔法詠唱が始まり、
森の静けさは完全に吹き飛ぶ。
……ほらね。
やっぱり。
私は心の中でつぶやいた。
嫌な予感、的中。
やっぱり森の実習って、
ろくなことにならない。
読んで下さりありがとうございます。
・面白かった、楽しかったは
・続きが気になる
と少しでも思ってくださった方は、
画面下部の☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援して下さると嬉しいです。




