第40話 「英雄様と、ぼっち様」
最近のユリアンは、忙しい。
廊下を歩けば「聖女様」。
授業に出れば最前列。
食堂に行けば囲まれる。
……私は?
安定の端っこ。
慣れてるけどね。
前世でも今世でも、壁側族のポジション。
でも。
ちら、と視線を感じる。
ユリアンが、何度もこっちを見る。
目が合うと、にこっと笑う。
そして、また貴族令嬢たちに囲まれる。
(あー……気使ってるなぁ)
私はわざと距離を取っていた。
今のユリアンは“英雄”。
その隣に加護なし無能がいると、面倒が増える。
私は慣れてるけど、ユリアンは慣れてない。
だから、少しだけ距離を置いた。
――それが、いけなかったらしい。
夜になって、
コンコン。
部屋の扉が叩かれる。
「はい?」
開けると。
そこにいたのは――
ユリアン。
部屋着姿。
頬が少し赤い。
「入っても、よろしいですか?」
「え、うん、どうぞ」
部屋に入ったユリアンは、少し落ち着かない様子で立っている。
沈黙。
そして。
「……この間は、ありがとうございました」
「この間?」
「魔族の時です」
ああ、あれ。
「ユリアンが倒したんだよ」
「いいえ」
きっぱり。
「セイラ様が、私を信じてくださったからです」
真っ直ぐな瞳。
「いつも……セイラ様に、もらってばかりです」
「え?」
次の瞬間。
背中に、柔らかい感触。
ぎゅ。
「……え?」
後ろから、抱きしめられていた。
「ユ、ユリアン?」
細い腕。
でも、離さない強さ。
「いつも助けてくださって、ありがとうございます」
耳元で囁かれる声。
心臓が、跳ねる。
「べ、別に……」
「別に、ではありません」
ぎゅう。
抱きしめる力が強くなる。
「私は……セイラ様に、何度も救われました」
静かな声。
でも、震えている。
「だから、今度は私が支えます」
「え?」
「最近、距離を置いていらっしゃいましたよね?」
う。
「英雄扱い、気にしてました?」
図星。
「……ちょっとだけ」
「私は嫌です」
即答。
「セイラ様が離れていくのは、嫌です」
ぎゅう。
さらに強く。
「……あと」
少し間。
「王子殿下と、二人きりでしたよね」
声色が、ほんの少しだけ変わる。
あ、これ。
嫉妬だ。
「え、見てたの?」
「見ていません」
即答。
「ですが、知っています」
怖い。
聖女様怖い。
「何をお話されていたのですか?」
「昔の話だよ」
「どんな?」
「裸見られた話」
「……は?」
背中越しでも分かる。
空気が凍った。
「どういうことですか?」
「いや、5歳の頃に――」
「詳しく」
「ちょ、近い近い」
ユリアンの腕が、私の腰に回る。
逃げ場なし。
「……セイラ様」
耳元で、甘く。
でも少しだけ低い声。
「私、負けませんから」
「何に?」
「全部にです」
宣言。
そして。
くすっと笑う。
「セイラ様は、私の恩人ですから」
「いや所有物じゃないからね?」
「……まだ、です」
「まだ!?」
私は真っ赤。
ユリアンは、頬を染めながらも離れない。
「これからは、もっと甘えてください」
「え」
「今まで、私ばかり甘えていましたから」
少しだけ顔を覗き込まれる。
距離、近い。
近い近い近い。
「セイラ様」
小さく。
「……大好きです」
心臓が、爆発した




