第36話 「光のあと」
閃光が消えた。
魔族は、跡形もなく消滅している。
残ったのは、焦げた床と――
血だまり。
私は、その中心に倒れていた。
左腕はない。
腹には風が通りそうな穴。
呼吸は浅く、ひゅー……ひゅー……と情けない音を立てている。
「セイラ様!!」
ユリアンが駆け寄る。
両手を掲げる。
「エクストラヒールを――」
私は、かすかに右手を上げた。
「……ま、て」
「なぜです!? 今すぐ治療を――」
血が喉に絡む。
それでも、私は右手を持ち上げる。
Vサイン。
無言で、じっとユリアンを見る。
涙で滲んだ視界の向こう。
必死な顔。
私は、かすれた声で言う。
「……よく、やった……」
ユリアンの表情が崩れる。
「セイラ様……!」
王子が、呆然と呟く。
「なぜ……そんな状態で……」
私は、薄く笑う。
そして。
首が横に落ちる。
「セイラ様あああああああ!!」
ユリアン、絶叫。
「治療を!! 早く!!」
王子の声も震えている。
ユリアンが、再び両手をかざそうとした――
その時。
腹の傷が、じわりと光った。
「……え?」
誰も、魔法を使っていない。
なのに。
裂けた肉が、ゆっくりと盛り上がる。
血が止まり、皮膚が閉じていく。
王子の顔色が、さらに白くなる。
「な……」
続いて。
左肩の切断面。
光が集まり。
骨が、伸びる。
筋肉が形成され。
皮膚が覆う。
にょき。
ぽん。
左手、再生。
完全沈黙。
私は、むくりと起き上がった。
「……あれ? 終わった?」
ぐるぐると両腕を回す。
腹をぽんぽん叩く。
「うん、問題なし」
王子、後ずさる。
「何故だ……回復魔法は使われていない……」
私は、にこっと笑い。
両手で、Vサイン
「やったね」
私は、ぺしぺしと自分の腹を叩く。
「このくらいの怪我、日常茶飯事だから」
王子、後ずさる。
「なぜ立てる!? 片腕を失い、腹を貫かれていたのだぞ!?」
「いやぁ、ちょっと内臓見えたけど、まぁ平気平気」
教官、絶句。
クラスメイトが青ざめるていた。
王子、震える指で私を指差す。
「ば……化け物……」
ユリアン、涙と怒りが混ざった声で叫ぶ。
「セイラ様のバカーーーーーー!!」
私は首を傾げる。
「え? 自然に治っただけだけど?」
その言葉が、さらに場を凍らせた。
光属性しか使えないはずの少女。
加護なし。
魔力1。
なのに。
腕を失い、腹を貫かれ、自然再生。
教官が、ぽつりと呟く。
「……あり得ん……」
こうして。
魔族襲撃事件は終わった。
そして同時に。
セイラ・アシュラという存在が、
「危険物」認定されかけた瞬間でもあった。




