第2-37話 不死鳥
我殺たち五人がオーナーに立ち向かうことを決意し、やがてオーナーのいる場には彼含めて六人しかいない。そんな状況だった。他の参加者は皆、桐生や坂縞たちが戦っている方へ走り逃げその数は十六夜らが開始した戦闘前の六割ほどだった。
オーナー「残りが二千六百と少し。立ち向かうのはお前ら五人か。」
我殺狂助、伍代翔地、木崎印、依東光木、馬銜何桺の五名が一列にオーナーの目の前に立っている。この場に満田地衣と十六夜を倒す際に考えた我殺の計画から我殺を崇拝し始めた神居類という男も残ろうとしたが依東と馬銜何が二人の身を案じて半ば強制的に逃がした。無論、満田も神居も依東や馬銜何と同じ神楽に拾われアジトで初めて力をつけてきたものたち。しかし、どうしても才能やセンスという概念は戦いにおいては存在し、その二つが特に輝いていたのは依東と馬銜何だった。才能とセンスを持ち合わせ努力を積み重ねてようやく相見える権利を持つ。それほどに目の前のオーナーという男は規格外の強さをしていた。
オーナー「ただ少しテストしておきたいのは、、お前だな。」
オーナーの目線は馬銜何桺へと向き始めた。その刹那、オーナーは瞬時にして馬銜何の目の前へ到達する。他の四人はその事象だけ何とか捉えることができたため、すぐに馬銜何の援助に回ろうとするがオーナー自身の左足を地面に叩きつけそれの衝撃の圧によって制止させる。
オーナー「手を出すな。俺に対して五人でかかってくるべきか、それとも四人の方がマシなのか確かめたいだけだ。」
そんな言葉をいわれてもなお依東だけは恐怖を兼ねながらも馬銜何を助けようと動こうとする。だが、それすらも止められた。今度は別のものによって。伍代翔地「依東さん、今は絶対にダメだ。【絶対に勝ち目がなくなる。】」
伍代の確信めいた言葉に押され、依東の動きはその不思議な効力により止められる。四人はいざというときのためにわずかにオーナーに近づき様子を伺っていた。
オーナー「おい、金髪。名前は?」
馬銜何桺「…馬銜何桺…」
オーナー「はみかか。馬銜何、他の四人と比べてお前は俺に対する敵意や戦闘に対する覚悟というものが欠けているように見える。お前はなぜ今、俺の前に立っている?」
伍代のときと同じように始まったその圧迫面接は馬銜何だけでなく初めてその光景を見た我殺たちや一度経験した伍代にまで形容しがたい恐怖を感じる。馬銜何はその恐怖に抗うように必死に言葉を綴らせた。
馬銜何桺「お前のせいで多くの仲間が消えた…それだけだ。」
オーナー「消えてはない。失格になっただけだ。」
馬銜何桺「変わんねぇよ。まず、人を傷つけていい理由はねぇ。」
オーナー「お前がいうのか?」
食い気味に馬銜何の言葉に質問を投げ返す。現界で人を傷つけ、地獄へ堕ちたものがそんな正論を言っていいのかと。その質問に馬銜何もさっきより言葉の詰まりが激しくなった。
馬銜何桺「…確かにな。だが、、それでも俺は意見を変えない。」
オーナー「そこまでする理由は?」
馬銜何桺「俺は復讐でここに来たからだ。」
オーナー「…へぇ。」
馬銜何桺「!?」
オーナーは一言だけ相槌をこぼした瞬間、馬銜何の胸ぐらを掴み投げ飛ばす。投げ飛ばされた方向は我殺たちがいる方だった。
オーナー「なんとなくわかった。まぁお前が俺の視界に入ることにはギり許容範囲だ。待たせたな。全力でこい。」
馬銜何も戦いに加わることを許可され、五人は一斉に武召喚を行う。
伍代翔地「エイスデバイド」
我殺狂助「ツインサモン」
木崎印「テンスデバイド」
依東光木「シクスサモン」
馬銜何桺「…ソイーブル」
全員が武召喚を終える。伍代翔地は二つの武器の生成に二つの数値を。その強化に六の数値を割り当てる。我殺は右手に剣を投影させ数値一つ分その剣を強化させる。木崎は刀の生成に一つ、強化に五つ。身体強化に四つの数値を使う。依東は六つの数値全てを身体強化に割り当て、馬銜何は一か八か幸奪戦争参加者における切り札を使用した。
オーナー「こい。」
その瞬間、五人は一斉にオーナーに襲いかかる。正面には我殺と伍代の二人。背後に木崎と馬銜何、依東の三人が回り込む。オーナーの正面にいるふたりは真っ向からオーナーに襲いかかり我殺の攻撃と伍代の攻撃が連続されるよう阿吽の呼吸で連撃を作り上げる。オーナーはその場から一歩も動くことなく素手でその剣の攻撃を受け止めたり、頭や身体を軽くずらし攻撃を回避し続ける。背後にいる三人も伍代と我殺の連撃にできたわずかな隙を埋めるように攻撃するもオーナーはその背後からの攻撃でさえ一切当たることがなかった。五人で完璧な連携をした攻撃であるためオーナーはその場から動かぬ限りその攻撃を回避できる方法や手段というものはない。しかし、攻撃は一切当たっていない。それはオーナーが剣の軌道をずらしていたからだ。我殺と伍代の正面の攻撃。背後からの依東、木崎、馬銜何の攻撃。オーナーは五人の攻撃でなく、正面と背後の二つの攻撃と捉え、正面の攻撃と背後の攻撃を相殺されるよう手を施したのだ。我殺と伍代の正面の攻撃は武召喚の関係上、スピードはなくパワーに特化した攻撃となる。背後からの攻撃はスピードとパワー二つを兼ね備えた理想の攻撃だ。この正面と背後の攻撃は戦い方に大きな幅が広がる。例えば正面からの攻撃を囮とし、背後からの攻撃を本命とすることやそう見せかけて背後からの攻撃で攪乱し、正面のパワー攻撃で戦うこともできる。そのうえ戦法の切り替えも容易にできる。攻撃を回避できる手段がないのはこのためだ。だからこそオーナーは相殺を決意した。木崎や馬銜何の剣を掴みその剣を身体ごと移動させ正面にいた我殺や伍代の前に置く。それをさせられれば当然攻撃の手は止まる。オーナーは本来詰みであるその戦法を無数に繰り出される攻撃から一つの攻撃を掴みとりその攻撃者を無理やり動かすという一つの離れ業を駆使することで攻撃を回避していたのだ。
我殺狂助(言葉だけ並べれば単純だが、それをできるかといわれたら恐らく花城でも難しい。それを何回も完璧に行うとは…)
戦法を考案した張本人である我殺もオーナーのその戦法の対策に度肝を抜かれ、感心と危機を感じていた。回避され続け五分、ついにオーナーも飽きたのか彼は反撃を始め出した。右手にあった巨剣を背後から攻撃していた依東に切りつける。その威力に押され依東の身体は地面との摩擦を大きく起こしながら全身を大きく後退させられる。五人から四人の攻撃となったしまったためオーナーにとっては攻撃の回避の難易度は飛躍的に易しくなる。今度は剣を自ら手放し正面にいた伍代、背後の木崎の胸をそれぞれ片手で当てて、当てた瞬間にその手に大きく衝撃を加える。その衝撃で伍代と木崎の身体は吹き飛ばされ四人から二人の攻撃へとさらに攻撃は簡略化されてしまう。
馬銜何桺「だぁぁぁぁ!!!」
やけくそ気味に叫び出した馬銜何はオーナーに単身でかかり自身にできる最多の攻撃の威力とスピードを繰り出し続ける。オーナーはいとも容易くそれをかわし続け馬銜何に対して問いを投げる。
オーナー「おい、学習しろよ。五人の連携でも俺に届かなかった。それでも一人で戦う選択をしたなら、五人以上の何かを見せてみろ!」
馬銜何桺「だまれ!!!」
馬銜何の攻撃はまだ当たらない。馬銜何はそれに対する悔しさを募らせ自身の限界を鑑みずに更に攻撃を繰り出し、パワーもスピードも自分の身体に耐えられないほどの勢いで増幅させる。その増幅はやがて最高潮に達し、馬銜何の一つの拳がオーナーの胸に大きく当たる。ドン!!という音が鳴り響く。そして馬銜何の右手をオーナーは掴んだ。
オーナー「努力賞」
それと同時にオーナーは馬銜何を投げ飛ばし、木崎のところへとぶつけようとする。馬銜何の身体は宙を舞い凄まじいスピードで木崎へ近づく。その馬銜何の身体を空中でキャッチし、木崎との激突をあるものが避けさせた。
オーナー「やはり、お前は邪魔者と認定されるだけあるな。」
無論、それは我殺だった。五人の中でまだ無事である唯一の存在。他の四人はオーナーが与えたダメージにより戦闘復帰に少し時間を要する状態となっていた。
我殺狂助(なぜかこいつは本気を出していない。本当に神楽の言うことが正しかったとでもいうのか?)
我殺は悩んでいた。オーナーの対処方ではなく、消えていった彼の目的について。神楽曰く不可抹のものを雇った理由は才原祐一ならぬ、石井泰和を欺くための攪乱の役割を担っているらしい。あくまで契約上の関係のため不可抹のものは状況次第では敵となる。しかし、オーナーは本気を出していない。それは神楽がそれを見越してある程度力を制限させる制約でも交わしたから、という考えが一応できるため我殺は悩んでいた。そして同時に我殺はオーナーの言葉に疑問を浮かべる。
我殺狂助「邪魔者?俺のことか?」
オーナー「お前や花城のことに決まってんだろ。お前らが強者側の人間なんだから。」
我殺狂助(どういうことだ?)
我殺が疑問を深めた瞬間、オーナーは瞬時にして我殺の目の前に降臨する。
オーナー「考え事してる暇があるのか?」
我殺狂助「くっ、、」
オーナーは我殺を蹴飛ばし、蹴飛ばされた方向に先回りして飛ばされた我殺をまた逆方向に飛ばす。我殺の全身は壁に激突し、静寂な爆音が鳴り響いた。
オーナー「極楽の方向かった方がよかったのかもな。さすがに張り合いがなさすぎる。」
五人はオーナーに対してなす術なく打ち倒され五人の勝機はもうほとんど残されていなかった。そんな絶望的な状況下にさらに追い討ちがかけられる。
十六夜鳳至「にしても、やってくれたな。我殺狂助。」
柱にくくりつけられた十六夜が目を覚ます。
オーナー「よぉ、十六夜。お前は負けたのか。まぁこいつらは知恵を絞る力はあるからな。戦略で倒されるのも頷ける。」
十六夜鳳至「…そうだな。俺は負けた。だから連敗はしない。」
そう言い十六夜は突如力み出す。くくりつけられている武召喚で生成された縄はミシミシと崩壊の音を徐々に響かせやがてその縄は粒子となって消える。十六夜鳳至の身体は再び自由の身となった。
十六夜鳳至「オーナー、一人でやるとは言わない。だが、我殺狂助だけは俺にやらせろ。」
オーナー「フッ、いいだろう。」
ふたりは動き出す。我殺たちはまだ動けない。立つこと程度なら可能だが戦闘まで行える状態にはまだ回復していないのだ。我殺や伍代はここから逃げる、撒く方法を必死に思案するもどうしてもオーナーから逃げる方法が浮かばない。もう彼らにはある行動しか選択肢が残されていなかった。その行動を五人全員が行い、二人は少し感心したかのように足を止める。
オーナー「ほぉ、まだ立つとは。」
五人が行ったのはただ立ち上がること。ただそれだけだ。それはまだ戦うことを示すサインと捉えられる。戦える状態ではないのに。だが我殺たちにはそれでも抗うという選択しか残っていなかったのだ。
オーナー「だが、【一人それができないものがいるな。】」
オーナーの目線に誘導されるように全員がその一人に向けられる。それはある金髪の男だった。彼の身体には粒子がパラパラと纏わりつくように降っている。
伍代翔地「木崎…さん。」
こうなることは分かっていたこと。気づいていて恐れていたことを。
ゲーム開始から一日
残り参加者2641人




