第2-35話 大部と一部
白崎糊塗「榎宮愷!?どうしてここに?」
本来、bの会場でオーナーや伊美と交戦しているはずの榎宮愷がなぜかaにいる。この事実に驚愕を示しながらもなんとか今起きている事態を受け入れ武召喚を行う。
白崎糊塗「くっ、、セカンド!!」
白崎糊塗(とりあえずどうでもいい。いるもんはいる。)
しかし、白崎の両手にそれぞれ剣が投影されるよりも早く榎宮愷は彼女に近づき軽く腹部を蹴り飛ばす。白崎の全身は地面との摩擦を起こしながら後退り、榎宮はさらに攻撃を仕掛ける。ようやく白崎の両手に剣が握られ反撃に出ようとするも彼女の剣の動きと榎宮愷の剣の動きとではなぜか雲泥の差であり、白崎は榎宮の攻撃を受け流すのに必死になっていた。
柳原敬太「お兄ちゃーん、僕とも遊んでよー。」
榎宮が相手したものとは別の少年、柳原もまた攻撃を再開させる。挨拶がてらサッカーボールを二つ投影し、それを榎宮に狙いを定めて当てようとする。
桐生亜衣「愷くん!!後ろ!!」
桐生は村重を榎宮たちの戦いに巻き込まれないところへ避難させようと村重の身体をかついでおり、危険を呼ぶかけることしかできなかった。柳原のキックで二つのサッカーボールが連続する形で宙を移動する。
白崎糊塗(こいつを抑えれば…)
そう考え榎宮の身動きを封じ込もうとするもそれはかなわない。
パート「触んな、気色悪い。」
突然人が代わり、白崎を蹴り飛ばす。そして飛来してきたサッカーボールを真っ二つに切り裂いた。
桐生亜衣「嘘でしょ、私の槍は通用しなかったのに…」
村重飯嶌「あれが、榎宮愷さん…?」
柳原敬太「うえーーー、、僕のボール…」
桐生や村重だけでなく、攻撃を仕掛けた柳原自身も使い捨てのボールとはいえ真っ二つに切り裂かれた事実にやや引いていた。
~a会場に到着する前~
カイリの人格が肉体の主導権を得ているとき、精神世界の水面下で榎宮愷とパートはこっそり話を通していたのだ。
榎宮愷(ねぇパート、カイリがこんな強いなら最初から表に出ていればよかったんじゃない?)
カイリの強さは他の二つの人格とは別格のもの。そこまで強いならわざわざ肉体の主導権を自分達に譲る必要などなかったはず。そんな当たり前の疑問をパートへ問いかけた。
パート(言ったろ。カイリはもとのお前が自らの意思で手放した記憶の象徴。いわばお前が思い出したくない、お前にとっての負の部分の寄せ集めみたいなものだ。)
榎宮愷(ネガティブなものの集まりがカイリで、その人格が一人歩きした結果、カイリはあまり目立った行動をしようとする性格じゃない存在になったていうこと?)
パート(まぁ、そんな感じだな。)
かろうじてカイリの人格が表れない理由を理解し、榎宮愷はひとつの疑問に行き着く。
榎宮愷(でもそれ、もうすぐカイリが肉体の主導権を俺たちに返すってことじゃないの?)
カイリの人格が出てきたのはオーナーという圧倒的な存在が無理やり引き出した結果によるもの。今まだこうしてカイリの人格を保っているのも伍代に消されないための自己保身によるもの。伍代から離れて一人でa会場へ行くことになったカイリの人格はもう交代を向かえようとしている。
パート(その通りだが、何か問題が?)
榎宮愷(俺やお前の人格で勝てるのか…?)
さっきのオーナーとの戦いだけではない。伍代翔地との戦闘でも榎宮愷、パートの人格では手も足も出なかった。そして伍代曰く、aの会場はbより悲惨なことになっているという。そんな状況下で果たして自分の身を守る、桐生の身を守れるのか、そんな不安を溢した。パートからは即答の断言がなされた。
パート(無理だろうな。間違いなく。)
完全な断言であり、言葉に迷いなど一切ない。開き直った口調でそう告げられ榎宮も少し戸惑った。
榎宮愷(な、なんで、そんな冷静なんだよ。お前、あと少しで消えるような状態じゃなかったか?)
パートは榎宮のロストイーブンの種性で欠け落ちた記憶の象徴。それがアナリストの種性によって8割方還元されパートの人格はもう消える寸前のような状態だった。
パート(だからだよ。どうせすぐ消えるからもうどうでもいい。)
死にかけの状態からの復帰は望めないからもうどうでもいい。そんなパートの主張に榎宮は明らかな違和感と確信を持っていた。
榎宮愷(嘘だろ、それ。)
パート(……え?)
榎宮の言葉にパートはキョトンとめを丸くする。榎宮は続けて語る。
榎宮愷(手を貸せ。お前とおれの力を合わせるしか戦い抜く道はない。)
パート(いや、だから俺は…)
榎宮愷(お前はカイリとは違う。カイリは過去の俺の一部でお前は今の俺の一部だったものの象徴。俺はカイリの考えは分からなくてもお前の考えならわかるんだよ。本人だから。)
パート(……)
パートは榎宮の言葉が一応正論であったため、反論できずに困ったように目を逸らしながら話を聞いているしかなかった。
榎宮愷(俺が桐生を好きなようにお前も桐生を好きなはず。そしてなんとしても残りたいって思っているはずなんだ。)
自分の欲望と意志を確認するかのようにパートに伝える。パートの目線は少しだけ榎宮の目へと戻って行く。
榎宮愷(俺やお前だけの人格で戦っては勝てない。でもどっちの人格であったとしても消えたくない思いは同じ。利害は一致するし、手段はこれしかない。)
遠くをみていたパートの目は次第に榎宮の目を見つめていた。
榎宮愷(手を貸すのが嫌ならこうしよう。俺の手を返せ。お前の力だけはもともと俺のものだったはずだ。)
榎宮はパートに向け右手を差し出す。パートはその言葉に言い返すことができなくなり、ため息をひとつ吐いたのち、榎宮の右手を掴んだ。
パート(失敗は許さねえ。どうせなら桐生も坂縞も我殺もだ。)
そんな2人の協力関係の締結が今の榎宮愷の異質の強さたらしめている理由だった。
パート(榎宮、お前は攪乱のためのスピードは実は俺より早い。隠密性や速度、機動力がお前の強みだ。だから俺が合図するまで代わらずに戦い続けろ。状況判断能力と力が求められる状況になれば俺が代わる。)
それぞれの強みを分析した状態のなかで榎宮とパートは常に互いの人格をいつでも交代できる状態にし、敵の攻撃を未然に防ぐ、攻撃が来た場合でも回避、防御ができるように二つの人格が協力し合ったのだ。その結果、白崎糊塗と柳原敬太は榎宮愷という存在に一度も攻撃を当たることはまだできていない。次第に村重の身体の修復も治まりつつあった。
榎宮愷という個体が援軍にきて五分、榎宮愷は白崎と柳原の相手を同時に務め、桐生は村重の身体の回復が全快したことを確認し、2人はどこのサポートに回ろうか考え辺りを見渡していた。
桐生亜衣「愷くんは大丈夫そうだし、樹くんは、」
そう思い、視界がギリギリ届く範囲に坂縞と他の多数の参加者が集まっているのを目撃し、粗方状況を確認できた。
坂縞樹「お前らただ闇雲に追ってきて攻撃しているだけなら永遠に勝てないぞ?」
坂縞樹自身、そこまで戦闘に慣れているわけではないのに、敵に戦いのアドバイスをするほど余裕の様子を見せておりわざわざ援軍に向かう心配はないように見えた。
村重飯嶌「となると、あとは…」
そういって坂縞や榎宮たちとはさらに遠くの扉を見つめ覚悟を決める。
桐生亜衣「我殺くんが向かったであろう場所だね。」
~一方その頃~
十六夜鳳至「どいつもこいつもちょこまかと。」
現在、我殺狂助と依東らエスケープ五人は影で作戦会議を裏で行っており、十六夜の相手は三十人のさまざまな種性核を持った参加者が務めていた。
我殺狂助「おい、依東。この場にエスケープはお前らだけか?」
依東光木「そうです。残ったエスケープは俺たち五人で、この場にはクラッシャーとロストイーブンが多めにいますね。」
我殺狂助「十六夜の相手はお前らだけでやれ。そしてアナリストとクラッシャーを一人ずつ呼んでこい。」
依東光木「ふえ?」
我殺狂助「早く!!」
依東光木「は、はい!!」
我殺の指示に困惑しながらも一応従い、五人は十六夜のもとへ向かい、先に相手をしていた三十人は我殺の命令により撤退させられた。
我殺狂助「お前らか、アナリストとクラッシャーは。」
我殺のもとへ来た二人は満田地衣と馬銜何桺と言った。
馬銜何桺「んで、何の用だよ?」
満田地衣「呼ばれてきましたが一体どんなご用で?」
クラッシャーの種性核を持つ馬銜何桺は威圧的な性核を持った男性で、満田地衣はおしとやかな性格の女性だった。我殺は二人に自分の考えている作戦を伝え、彼らに指示を出す。
馬銜何桺「それ、本当にできるのか?」
我殺の考えに馬銜何はわずかな疑いを持ちながらも
その考えに否定的な意見はもたなかった。満田も協力の意思は示していた。そのため、疑問を口にすることはあれど二人はすぐさま作戦を行動に移した。まず、最初に馬銜何は自分と同じクラッシャーの種性核を持つ参加者をできる限りかき集める。一分ほどして二十人が集まった。
我殺狂助「よし、じゃあ始めてくれ。」
我殺の指示により馬銜何と満田、集められた二十人は五分ほど時間を有して十六夜と戦うための準備を整えた。
依東光木「はぁ、はぁ、くっ…」
十六夜鳳至(やけにすばしっこいな。たった五人だが消去にやや手間がかかりそうだ。)
エスケープの鍛えられた俊敏さを身を持って実感し、わずかに感心した。その直後、十六夜に向かって何百人かの参加者が一斉に戦闘に乱入してきた。
依東光木「え!?な、何だ何だ??」
突然の現象にエスケープ五人は目を広げて驚きながらも十六夜の攻撃に注意する。十六夜は新たに武召喚を行い乱入してきた数百人を歓迎するつもりでいた。
馬銜桺「お前らいけーー!!」
馬銜が雄叫びをあげ数百人の参加者はそれに呼応するかのように十六夜に向かって走り出す。
十六夜鳳至「セカンド」
両手に新たに刀を持ちそれを迫り来る参加者に斬りつける。それは一撃でたった十秒ほどで五十人もの参加者が失格となるほどだった。
依東光木(やっぱ数の暴力じゃ勝てない…)
依東もわかっていた。十六夜という男の手強さを。
敵の攻撃を避ける、防ぐことに特化した鍛練を短時間とはいえ必死に積み上げてきたエスケープ五人のうち依東と佐塚以外の三人は失格となった。十分にも満たない時間でだ。彼の攻撃の正確さと他者の分析力はとても優れている。どこを斬ればいいのか、相手の何が弱点なのか、それの把握に長けている十六夜にとって闇雲に乱入してきた数百人を相手にとることは容易いどころか数値を与えて塩を送るようなものだった。依東も佐塚もそれを理解し、残った参加者に撤退を命じようとしたが、その必要はなぜかなくなってしまった。
満田地衣「依東くん、佐塚ちゃん。退くよ。」
依東光木「え、あ、あ、あ、あぁ…」
佐塚詩音「う、うん。もちろん…」
急に全員が撤退を始め走り出す。依東も佐塚も撤退の意義を理解しているためそれには応じる。しかし疑問は残った。
依東・佐塚(撤退することを考えられるなら、数で勝とうとする戦法は悪手であると気付けたはず。【なぜ突っ込んだ?】」
二人の疑問はすぐに明かされることとなった。
十六夜鳳至「おい、逃がすと思うのか?」
撤退し始めた参加者を追おうとするがまばらにいた何人かの参加者がそれを必死で食い止める。
依東光木「え、あの人らは?」
八人ほどの参加者がまだ十六夜の相手をしており、彼らの助けに向かおうとするもそれは満田によって制止させられる。
満田地衣「大丈夫ですよ。失格にはなりません。」
佐塚詩音「いやいや、このままだと消えちゃう。」
そんな二人の不安はすぐさま塵と化した。八人の参加者のうちシャーレという男が突如こんな言葉を告げる。
シャーレ「ワープ」
その瞬間、シャーレの近くにいたもの含め八人が全員姿を消した。十六夜はそれに困惑し、辺りを見渡す。
我殺狂助「上だよ。馬鹿が。」
十六夜は気付かなかった。上空に我殺狂助が潜んでいることに。
我殺狂助「ロストブレイク!!」
その瞬間、一つの真っ白な光線が一直線に進み、その光線はやがて衝撃とともに爆発し、十六夜の身体は吹き飛ばされた。
ゲーム開始から23時間
残り参加者 3490人




