第2-34話 サッカードッジ
村重飯嶌「…ここは?」
白崎糊塗「あんたも起きたんだ。何でこいつも消しちゃいけないんだろ。」
村重の目の前にはボロボロと化した服を身につけた白崎糊塗の姿があった。身体に傷はないように見えるため、身体と服の違和感がどうしても印象に残った。
村重飯嶌「何で、、そんなボロボロなんだ?」
白崎糊塗「十六夜さんにボコボコにされたからね。数値で回復はできたけど。服もわざわざ直してちゃもったいないからさ。」
白崎の服がボロボロなのは任務に失敗したゆえの罰らしい。我殺狂助や自分を始末できなかったことにたいしての。
村重飯嶌(でもなら何で俺は今残されているんだ?)
そんな疑問を浮かべながらも村重は白崎に対しての疑問を先に口にする。
村重飯嶌「お前は一体何なんだ?」
白崎糊塗「ん?監視者志望の参加者って思っとけばいいよ。」
村重飯嶌「監視者になって何がしたい?」
白崎糊塗「私がそれを教えられる立場にあるわけないじゃん。常識で考えなよ。」
挑発口調で語るその少女に近しい女性は何やらずっと右の方角を気にしていた。
村重飯嶌「そっちに何かあるのか?」
白崎糊塗「神楽士郎と我殺狂助があっちで話しているのよ。」
村重飯嶌「神楽って監視者のことか?」
ここで村重はようやく今の置かれている状況に気付き始める。なぜここにいるのかまではわからない。しかし、ここが敵のアジトであり、監視者の命令によって生かされている状態だと。
白崎糊塗「当たり前でしょ。そいつの命令で私たちは【まだ】あんたらに危害を加えることはできない。」
坂縞樹「まだっていうのはいつまでの話だ?」
そこから会話に参加し始めたのは村重の向かいの柱にくくられていた坂縞樹だった。
白崎糊塗「神楽が失格になってから。」
坂縞樹「理解に苦しむな。お前らは神楽の手下じゃないのか?」
十六夜鳳至「俺があんなやつに従う気は一切ない。ただ俺が暴れるにはあいつに従うしかなかっただけだ。」
村重飯嶌「どういうこと?」
白崎糊塗「ずっと疑問に思わなかった?不可抹のものが武召喚できる理由。」
十六夜鳳至「俺たちは擬似的な武召喚システムを神楽からもらった。まぁ、作ったのは他の監視者だろうが。」
坂縞はその作ったものに心当たりをほのかに感じていたがなぜか思い出すことはできなかった。
坂縞樹(確か、いたよな。時計のシステムをいじくっていたやつが…)
そんな過去にいた何かのことに靄を感じていると十六夜は突然立ち上がった。
十六夜鳳至「神楽が失格になった。」
独り言のように呟いたのち、彼は我殺たちがいるもとへ向かい出した。
白崎糊塗「じゃあ私も始めよっかな。」
そういって彼女は武召喚を行い、村重と坂縞のもとへ近づいてゆく。
桐生亜衣「そんなことできると思う?」
白崎糊塗「!?」
いつの間にか白崎の背後には捕らわれていたはずの桐生が立っていた。慌てて桐生から距離を離し視線を村重たちから桐生へ移動させる。
白崎糊塗「どうやって拘束をほどいた?」
桐生亜衣「武召喚で槍を投影して切っただけだよ。ね、2人とも。」
村重・坂縞「ファースト」
その瞬間2人もまたそれぞれ剣と斧を生成し、縄を断ち切る。
村重飯嶌「あんたが俺や坂縞との会話に気をとられている間に桐生さんは縄を切っていたんだよ。」
坂縞樹「十六夜も俺たちの近くにいたから気付かなかったみたいだしな。」
白崎糊塗「あっそ。でも勝てるの?この数相手に。」
彼女がそう言った瞬間、白崎の周りには柳原だけでなく何百人もの参加者が集まり敵意を顕にした。
坂縞樹「桐生、俺はもう残ることにそこまでの執着はない。だから誰かが犠牲になるときは…」
桐生亜衣「ならないから!おだまり!!」
坂縞の自己犠牲の提案を途中で遮り、桐生は人差し指を坂縞の唇に当て黙らせる。坂縞は観念したかのように笑い、それぞれ視線を白崎たちに向け武器を構えた。
白崎糊塗「桐生と坂縞は半殺し、あとの一人は好きにしろ。」
そうしておよそ五百人の参加者が桐生、坂縞、村重のもとへ走り出す。
桐生たちはその参加者の持つ武器に注目しながら五百人の参加者の攻撃をいなしていく。
桐生亜衣(武器のサイズが大きい。つまり、クラッシャー。数値は10。クラインドの心配はない。)
武器の特徴や数値の大きさを観察し、そのものの脅威の度合いを分析し続ける。坂縞や村重も似たようなことを行っており、開始から五分、三人は十五人の参加者を失格にすることに成功した。
柳原敬太「お姉ちゃん、どうするの?このままいくとジリ貧で負けちゃうかもだよ。」
五百人の参加者の後ろで大将ぶっている白崎の隣にいた柳原が無邪気に忠告した。
白崎糊塗「そこであんたの出番だよ。不可抹のガキ。」
柳原敬太「味方巻きこんじゃうかもだよ?」
白崎糊塗「別に最初から味方じゃないしね。」
柳原敬太「はーーい。セカンド」
柳原がそう言った瞬間彼の足元に二つのサッカーボールが投影される。
柳原敬太「おにいちゃーん、おねぇちゃーん。サッカーしよー。」
そうして柳原はひとつのボールを蹴りあげた。
桐生たちも他の参加者もそのことには気付く余裕はなく、地上での戦闘に集中し、空中を漂っている凶器には目もくれなかった。ボールは落下を始め、やがてそれが地上へ近づく。このときにそのサッカーボールの近くにいたものはようやく存在に気付き始める。そしてそのサッカーボールによって消えた。
荒田夕 失格
益田蘭 失格
杏次百々葉 失格
村重飯嶌「…は?」
柳原敬太「やったーー!3ヒットー!!」
村重が戦っていた荒田、益田、杏次というもの。まず、荒田の頭上にサッカーボールが当たった。そのボールはバウンドし、今度は益田の胸に当たった。そしてまたバウンドし今度は杏次の腹部に当たった。やがてボールは床につき、消滅した。その瞬間、三人の身体のボールが当たったところに突如穴が空き始め大量出血による致命傷で失格となった。
その事実に村重は理解はできたが納得はできず、数秒間膠着していた。その膠着を隙とみて他の参加者の狙いが村重へと向けられる。
坂縞樹「村重!!」
村重に向けられた複数の斧や剣をいなし、彼の名前を叫んで正気を戻させる。
村重飯嶌「はっ!す、すみません。」
坂縞樹「最注意事項はあの少年だが、目の前に敵がいることを忘れるな。」
柳原敬太「今のは練習だから、次は低めにやるよー。」
そうして残りのボールが蹴られる。今度は低く蹴りあげれ、そのボールは参加者の胸の辺りへ近づいて行く。
一木網「お、おい!お前押すなって!!」
白川節「違う、当たるんだって!!」
山下目卯「ちょっと!!やめて!!」
数百人もの参加者が揉め出す中、逃げ場の確保など不可能であり、サッカーボールは無慈悲に身体を貫いた。
一木網 失格
白川節 失格
山下目卯 失格
耶麻京司「おい!!白川!!てめぇもっと人数少なくなってからやれよ!!」
白川糊塗「えー、そうすると避けられるの確定じゃん。こっちの方が断然倒せる確率上がるよ。桐生と坂縞の近くには当てないからさ。」
その瞬間、多くの参加者が桐生と坂縞のもとへ近づき出す。桐生と坂縞は生け捕りという命令を遂行する以上、この2人にボールは当てられない。我が身かわいさに多くの参加者が群がり、桐生や坂縞はその参加者の物理的な圧に押されこの2人もまた逃げるしかなかった。
桐生亜衣「なになになになに、きもいきもいきもいきもい!!」
坂縞樹「桐生、お前は村重のとこへいけ。鬼ごっこは俺が引き受ける。」
桐生亜衣「う、うん!!」
桐生と坂縞はそれぞれ別のところへ行ったため群がる参加者も二つに別れる。しかし、柳原の狙いが村重である以上、村重の近くに向かった桐生を追うものはかなりすくなかった。
柳原敬太「ねぇお姉ちゃん。このまま蹴っていいんだよね?」
白崎糊塗「まぁよくはないけど、やむ無しってところかな。」
柳原敬太「じゃあやっちゃうね。」
そうして柳原は今度は四つのボールを投影し始める。
桐生亜衣「村重くん、とにかく避けることだけに集中して。どんなに強い攻撃でも当たらなかったら意味ないから。」
村重飯嶌「もちろんです。」
柳原の攻撃から逃れるためにほとんどの参加者は坂縞の生け捕りの方へ向かった。今さら戻ることはできない。つまり、桐生と村重だけで柳原と白崎を倒すほかないのだ。
柳原からまたボールが蹴り出される。今度は連続で四つの丸い凶器が桐生と村重を襲う。
柳原敬太「まだまだいくよーー。」
今度は十個のボールを投影し、またもそれらを蹴り出す。桐生と村重は辛くもそれをかわし、徐々に白崎と柳原に近づいて行く。白崎と柳原は一歩も動くことなく、柳原に関しては完全に楽しんでいる様子だった。存在をかけているいう事実と殺傷能力がなければこれはただの子どもの遊びなのだから。
柳原敬太「すごいすごいーー。お姉ちゃんたち、いっぱいよけてくれるー!!!」
無邪気、天真爛漫、純粋な歓喜、そんな子どもらしい反応を見せ、柳原はさらにボールを増やそうとする。
桐生亜衣「セカンド!!」
柳原がボールを投影する前に桐生は柳原の足めがけて槍を投げる。その槍を足に突き刺し固定することでボールを蹴られなくするためだった。
桐生亜衣(動けなくなった隙を狙えばまだ勝ち目がある。)
そう考えながら槍は柳原の足めがけて接近する。
白崎糊塗「やらせるわけないじゃーん。」
そう言いながら白崎は桐生の二つの槍を剣で弾き返す。
村重飯嶌「お前、俺たちをなめすぎな。」
自信満々に弾き返し、優越に浸っていた白崎の背後には村重の姿があった。
白崎糊塗「あんたのことはなめているよ。」
そうして村重と白崎の二つの剣がぶつかり合う。戦闘スキルでは白崎が一歩リードしていたからか、村重は白崎との戦闘において劣勢となっていた。桐生が助けにいこうとするが、柳原のボールの攻撃は止まらない。それをよけ槍をバット代わりにして弾き返そうとするもボールの威力は槍の強度を越えており、槍は粉々に砕け散ってしまった。
桐生亜衣(この子の攻撃がどうしても厄介…)
柳原の攻撃の威力、範囲、そして彼自身の性質が異常なほど理不尽であり対処法に頭を悩ませていた。
白崎糊塗「ほら、やっぱ弱いじゃん。」
村重飯嶌「くっ!!」
村重もまた戦闘経験が豊富なわけでも種性核や武召喚の扱いに長けていたわけでもなかったため白崎には敵わず、武器を弾きとられ王手をかけられた。村重の左手と右足は断ち切られ数値でその修復に手間取っている状態だった。
桐生亜衣(どうせ戦っても勝てないなら…)
そう考え桐生はいちかばちか村重のもとへ近づき救援に向かう。
柳原敬太「うーん、村重っていう人に当たるかなー?」
柳原もまた新たにサッカーボールを投影し、ゲーム感覚で村重に狙いを定めボールを蹴りあげる。
白崎糊塗(当たっても困るし、離れとこ。)
白崎は村重と桐生から距離をおき柳原の攻撃から避難する。サッカーボールは蹴りあげられその軌道は自由にただある程度の狙いは定まった状態で宙を舞う。桐生はボールなど一切見ずに村重を助けるために一直線に向かった。ボールは桐生のもとへ近づいて行く。
???「それでいいんだよ。亜衣。」
ボールは桐生の近くのところで突如動きを失い、やがて形さえ失った。桐生は村重のもとへたどり着き肩を貸すことに成功する。そして視線をボールが向かってきた方に向けてみた。それは桐生にとってとても懐かしく、愛しく思えるような存在だった。
榎宮愷「ごめん。遅くなった。」
ゲーム開始から23時間
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