第2-33話 自棄
我殺狂助「…神楽士郎、これ以上俺たちを愚弄するなら相手になるが?」
我殺は神楽の自分は味方で、悪いのは他のやつらだと責任を擦り付けるその姿勢にそろそろ怒りを抑えるのも限界になり始めていた。
神楽士郎「まぁ、そう思われても仕方がない。しかし、今言ったことは事実だ。」
我殺狂助「…言い分はきいてやる。だがその言い分に綻びがあれば容赦はしない。」
神楽士郎「無論だ。まぁ気になるのは参加者を増やしたことと私が引き起こした失格者の数の停滞だろう。これは管理者からできるだけ獄人を隔離するために行った。」
2人は歩きながら神楽士郎が集めた大量の参加者を横切りながら会話する。通りすぎる参加者は互いに険悪な雰囲気は作らず、各々がカードゲームや麻雀、怪我しない程度のチャンバラなどで楽しそうに遊んでいた。それを不思議そうにしか見れない我殺はせめて神楽の言葉に注意を最大限払う。
神楽士郎「私がわざわざここにいるのは極楽のものを滅ぼすためだ。」
我殺狂助「滅ぼす?」
神楽士郎「楽人は獄人のことを果てしないほどに恨んでいる。だから幸奪戦争というシステムを作り、存在を消すことでその獄人の被害者であった楽人に幸福と愉悦を運ばせた。そしてその対象は近いうちに全獄人へと変わるそうだ。」
幸奪戦争のシステムが獄人に対する復讐であり、いずれ全獄人を抹消させようとしている。我殺から考えてもあり得ない話ではない。まだ嘘や詭弁は盛られていないと判断し、神楽の言葉を再度聞き始めた。
神楽士郎「私は長いこと監視者をやっていて、楽人や管理者からある程度の信頼は得られるようになった。だから私は幸奪戦争の取り決めを行う際に発言権を取得している。」
神楽士郎「だが私も獄人の身だ。楽人や管理者の言いなりになるつもりはない。だから取り決めの際に罠を張った。」
我殺狂助「罠?」
これ以降の神楽の言葉に必ず何かがあると確信した我殺は注意を最大限以上に引き上げる。
神楽士郎「悪魔だよ。」
その言葉に我殺は一瞬理性を忘れ、ファーストと唱えようとする。だが、まだ戦うには早いとギリギリ復活した理性が判断し神楽が続ける言葉をきき続けた。
神楽士郎「七次の脱落となるものを私は他の種性核の数値を混ぜることで身体に拒絶反応を起こし、消滅ギリギリの状態まで追い込んだ生命体を作り上げることに成功した。」
我殺狂助「だから悪魔となった七次の参加者の存在も俺たちは忘れていたと?」
神楽士郎「あぁ、悪魔はもともとの参加者とは別次元の力を持つ。1体ずつなら管理者の上層部には勝ち目はないがそれが何百、何千ともなれば話は違う。」
我殺狂助「ファースト」
その瞬間、我殺は神楽に急接近し、巨剣を首もとまで持っていきわずかに剣先を触れさせた。彼はもう我慢ならなかった。
我殺狂助「要するに、俺たちを悪魔にしてお前の楽人の嫌悪感を発散させるためだけの道具になれってことか?」
神楽士郎「…すまない。言葉に誤りがあった。私が悪魔にするのは七次のものたちだけでいい。あれだけで十分だ。」
我殺狂助「そもそも俺は大事な仲間が悪魔にされてんだよな。そのことを知ったうえで尚、お前は何が言いたいんだ?あ!?」
神楽士郎「私は極楽を滅ぼしたい。そうしなければ地獄に未来はないからだ。だから悪魔という存在を使って戦力を増やした。だがそれはあまりに非人道的であったことを今さらながら後悔している。だから今私が行っているのは【参加者の育成だ。】」
我殺狂助「…は?」
その言葉に我殺は剣に入れていた力をかすかに弱めていた。そして我殺の後ろから声がする。
依東光木「本当なんです。神楽さんは俺たちに在り残る可能性を掴ませるために動いています。」
20代ほどの若い青年、金髪で首に銀のネックレスをかけた男が話しかけていた。その後ろには四人ほどの男女がいた。五人全員若いが金髪の男が代表して口を開く。
依東光木「俺は依東光木っていいます。種性核はエスケープで後ろの四人も同じです。」
我殺は目線を神楽から依東へ移し尋ねる。
我殺狂助「ここでの出来事を知っている範囲で教えろ。」
依東光木「僕たちエスケープはゲームが始まったすぐに白崎さんたちに連れていかれました。神楽さんから今ここにいる幸奪戦争のシステム、極楽側が地獄を滅ぼそうとしていることを教えてもらい、自分の身を守る技術と力を鍛えさせられました。」
我殺狂助「鍛える?今は遊んでいるようにしか見えないんだが?」
佐塚詩音「休憩時間なんです。ちょっと言ってきますね。」
次に声を発したのは依東の後ろにいた四人のうちの一人の女性だった。彼女は遊んでいる面々の方に近づき声を張り上げる。
佐塚詩音「ごめん休憩中、ちょっとだけ特訓しているところ見せてもらえなーい?」
そういわれた瞬間、各々が遊び道具から手を離し、すぐさま立ち上がった。彼らは一斉に武器を持たずに戦い始める。木の棒を使ったチャンバラはあれば武召喚は誰も行わず、誰かが失格となる危険性はあり得ないとわかるほど安全かつ互いに一歩も譲らない、そんな光景が繰り広げられた。
依東光木「種性核が同じもの同士でやることもあれば、違う種性核同士、ありとあらゆる状況に備えて鍛練しているんです。」
我殺狂助「ふーん、」
我殺は神楽に剣をかざすのをやめ、その剣を依東に向けて振り回した。依東はその剣をかわし続け近くにあるドラム缶や瓦礫を投げつけるなどして我殺の攻撃から身を守る。そんな攻防を数回繰り返したのち、我殺は手を止めた。
我殺狂助「鍛えているのはわかった。参加者がいつもより多かったのは極楽側に対抗するための戦力の確保。参加者の失格がほとんどなかったのは鍛練によるもの。仮にそうだとしてもまだ疑問は残るぞ。」
そうして我殺は目線を再度神楽へ向ける。
我殺狂助「不可抹のもの、あいつらはどう説明する?」
心音表魅の説明いわく、彼女自身を含めた不可抹のものは神楽士郎の雇われの身。神楽が彼らに依頼したのは邪魔物の排除や特定の種性核の捕獲。その依頼料代わりに参加者の抹消を認める。明らかにさっきの説明とは矛盾しているのだ。参加者を失格にしたいのなら邪魔物という存在自体いない。特定の種性核の捕獲もアナリストやスレイブリーは戦力になりやすいからともかく、エスケープもその対象であった理由は不可解だ。退屈しのぎに戦うのが不可抹のものの望みならそもそもaの会場ではなく極楽へ向かわすのが合理的。神楽士郎が不可抹のものと交わした取り引きは極楽へ対抗するためとはとても考えにくい。
神楽士郎「さっきも言ったはずだ。このままでは冥界は才原祐一と榎宮優によって滅ぼされると。」
我殺狂助「なに?」
神楽士郎「不可抹のものに依頼したのは私ではない。才原祐一だ。」
我殺狂助「意味がわからない。」
神楽士郎「才原祐一の正体は楽人の石井泰和という男だ。」
我殺狂助「根拠があるのか?」
神楽士郎「私は彼とその秘書に悪魔を貸し出している。」
その言葉に我殺は息をのむ。今のこの波乱の状況は地獄だけではなく極楽にも響いているのだと確かな恐れを感じる。
神楽士郎「彼は獄人を本気で滅ぼしたいと願っているものだ。だからこそ私が仮の提案で通した悪魔を使って獄人を消すという企画にも肯定的だった。当然、悪魔を生成するつもりはなかったから私は最終的に何かしらの理由をつけて悪魔の計画を失敗にしたと報告するつもりだった。だがそれを石井が許さなかった。」
~八次幸奪戦争が始まる前の会議のあと~
石井泰和「神楽士郎さん、悪魔をこちらに貸し出してもらえませんか?」
神楽士郎「ん?なぜですか?」
石井泰和「悪魔の扱い方くらいは覚えておいた方が良さそうと思いまして。それと研究室にもお邪魔させてもらいますね。」
神楽士郎「……」
石井泰和「よろしいですね?」
神楽士郎「無論、断れるわけもない。だが、悪魔を生成されその支配権を彼が握れば我々に勝ち目はなくなる。」
我殺狂助「だからせめて石井が地獄の研究室にいかず悪魔の支配権を握らせないために不可抹のものを動かして有耶無耶にしようとしたのか?」
神楽士郎「その通りだ。彼にどれだけの護衛がついているのかもわからん。彼を敵に回すのは早いと判断した。その結果、、どうしても参加者の減少は避けられなかった。」
神楽は悔しそうにそのことを語る。それが演技なのか本音なのか我殺はもう分からないでいた。
神楽士郎「結論を言う。私はこれから失格となったものたちを救うために一度bへ向かう。その間、十六夜たちを止めてくれ。この通りだ。」
頭を下げ、懇願する神楽に我殺は答えが出せないでいた。神楽の言葉は嘘のようにも本当のようにも見えてしまう。だからこの話がデタラメなのではないかどうしても勘ぐってしまう。神楽の話があり得なくはない話だと分かっていても。無言を続ける我殺に神楽は我殺の持つ剣を突如として奪った。
我殺狂助「!?」
神楽士郎「すまない、だが本当に時間がないんだ。私は失格となる選択肢しかない。選べ!!私の口車に乗るか、このまま消滅を選ぶか!」
そういって彼は剣を首に突き刺し、消滅した。
神楽士郎 失格
残された我殺は頭をかきむしり近くの空き缶を蹴りあげる。
依東光木「お願いします、俺たちも全力で協力するんで、力を貸してください。」
そういい五人で頭を下げた。それだけじゃない。周りにいた何百、何千人もの参加者が頭を下げ協力を依頼したのだ。
我殺狂助「参加者の減少のほとんどは十六夜が原因か?」
冷静さをどうにか取り戻し依東に質問する。
依東光木「存在欲しさに寝返ったものが600人います。最重要危険人物は十六夜鳳至。神楽さんは無理いって十六夜さんを十分だけ大人しくさせました。もう時間切れです。」
その瞬間、一人の男の存在が顕著に現れた。十六夜鳳至である。
十六夜鳳至「俺は神楽の奴隷でも召し使いでもねぇ。言いなりになるのはここまでだ。」
そういって十六夜は我殺に向かって近づく。それを何十人かの参加者が我殺を庇う形で止めに入った。彼らは鍛練で得た連携プレーや撹乱、攻撃のかわしかたを存分に使い、十六夜の攻撃を避ける。だがそれも長くは続かず失格者はどうしても出てしまった。それを補充するかたちでどんどん十六夜に向かうものが増える。
我殺狂助(くそが!!邪魔物の排除の説明とか何もしていないだろうが!勝手に消えやがって。)
そんな愚痴をあたまのなかで書き連ねながら諦めたように決意した。
我殺狂助「お前ら!!手伝え!こいつら倒さん限りは状況の打開もくそもねぇ!!」
やけくそ気味に叫んだその声に2.3千の参加者が叫びで呼応した。
ゲーム開始から22時間
残り参加者3800人




