第2-31話 大バカ
桐生亜衣「何で…私たちはあなたのこともう覚えてあげられていないのに、何で…?」
桐生や坂縞は悪魔という存在をまだ知っていないためこの場に異形となった七次の参加者がいることに理解を示すことはできない。そのうえもう存在しないものとなったはずなのに目の前に存在しているという矛盾に頭は理解を拒んでしまう。困惑なのか彼女だったものが異形と化した存在になってしまった残酷の事実に対する悲哀なのか、そんな筆舌に尽くしがたい表情と声で尋ねるも白崎は全くの曇りがない状態で答えが返ってきた。
白崎糊塗「あー、そっか。そこから説明しないといけないんだ。だっる。あんたら冥界で二回死ぬことが存在を忘れることだって決めつけているでしょ。」
坂縞樹「それ以外に何がある?」
白崎糊塗「悪魔ってなはさ、死ぬギリギリにまで痛めつけられた参加者に他の種性核の数値を送ることで身体を暴走させた成れの果て。他の種性核が混ざると身体が拒絶反応を起こして身体の節々が異様な姿へ変化するの。」
淡々と告げられたその答えに桐生も坂縞もまた悪魔という存在どころか存在云々かんぬんの話も曖昧な理解で済んでいる喜村や迦楼羅でさえ目を見開き固まった。
桐生亜衣「いえ、…え?ほんとに、何言ってるの?」
白崎糊塗「あーもしかして種性核のことも知らないわけ?」
種性核のことは知っているとなんとか口を開いて否定しようと思ったのもつかの間、彼女から話された事実は初めて知る知りたくもない内容だった。
白崎糊塗「種性核は私らの身体にチップみたいなのが埋め込まれててそのチップは【ライン】ていうの。それは身体の【重要な】機能を肩代わりしていて、そのチップと私らがつけられているこの時計、この2つが相互のアクセス関係にある。時計の数値が0になると時計の機能は一度停止しリセットされる。そうなると、その時計の機能が止まるとチップの機能も止まる。言いたいことわかった?」
突如として現れた謎の少女がいうにはあまりに信じがたく残酷な事実。彼女の言葉が本当なら幸奪戦争の参加者はチップを身体に埋め込まれそのチップに命を握られている状態なのだ。一言ファーストと発するだけで武器が出てくる、身体強化が施される、種性核によっては他の参加者の治療が可能だったり、兵器にも近い威力を持つ光線を打てた謎の現象。幸奪戦争においての当たり前となってしまった突如として現れた異能。その正体を知らされた桐生ら4名は顔を青くする。そんな4人の表情に微塵も構わず彼女は答えのまとめを答える。
白崎糊塗「【私ら、いったら改造人間なんだよ。】」
人間を悪魔にすることは不可能だろう。しかし、あらかじめ下準備がされた人間なら悪魔になる可能性はある。武召喚ができる理由、種性核という存在のカラクリを知った4人は自身の体に不純物が混ざった事実に気付き、不快感を覚える。桐生は自身の両手で頭を抑えうつむきながら言葉を失う。喜村や迦楼羅もまた表情の変わり具合はいうまでもなく、そんな3人に変わって坂縞が無理をして疑問を投げた。
坂縞樹「悪魔についてはわかった。それで、お前は何しにきた?」
白崎糊塗「柳原~~オーナーの仲介人からの伝言。坂縞樹と桐生亜衣を消すのは許可しない。生け捕りのままにしろ。だって~。」
柳原敬太「え~しょうがないなぁ~。じゃあ消すのはこの2人だけだね。」
ここまでずっと黙って話を聞いていた少年はその伝言に文句を垂れながらも応じて抹消の向きを喜村と迦楼羅へ向けた。慌てて桐生はそれを止めようとして足を進めるもその足の進みは白崎によって阻まれる。
白崎糊塗「行かせないよ。というか別にいいよね。地獄での配置先が同じとはいえ、坂縞樹や榎宮愷に比べたらどうでもいいでしょ。」
桐生亜衣「それが助けない理由にはならない!」
白崎糊塗「じゃあ、こいつと戦って勝ったらいいよ。」
そういって白崎は悪魔に命令を施す。桐生を倒せと。悪魔はどす黒い獣のような手で桐生に向かって叩こうとする。桐生はその手をうしろにジャンプすることで回避し、渋くなった表情でボソッと武召喚を行う。
桐生亜衣「……ファー、スト」
ラインによって右手に槍が投影される。さっきの白崎の言葉を気にしながらも目の前の悪魔と説得を試みる。
桐生亜衣「我殺くんに会いたいんでしょ!目を覚まして!!」
再び悪魔の攻撃の手が上がる。それを槍で受け止めながら必死でこらえるもその手の重さはやはり人間のそれではなかった。
柳原敬太「さてと、、お兄ちゃんたちはここでお別れだね。」
少年もまた喜村と迦楼羅の目の前に立ちサッカーボールを足でとめている。消す準備は整ったといわんばかりに満面の笑みを浮かべていた。
喜村牟礼「…なんかもう疲れたな。」
迦楼羅雅「同感だ。勝手に人体改造されてこんな訳のわからないことをさせられているんだからな。」
今あるこの事実に辟易した2人は抵抗する気力はなくもう表情は死に等しかった。2人はそのまま流されるように少年のサッカーボールの攻撃によって消滅していった。
喜村牟礼 失格
迦楼羅雅 失格
白崎糊塗「あーあ、あんたの負けだね。」
桐生亜衣「くっ!?あぁっ!!」
2人を助けることが叶わなかったことに動揺し隙を見せた桐生は悪魔の攻撃を一発受け全身が吹き飛ばされる。床に大きく身体が打ち付けられ立つことが一時困難となる。
白崎糊塗「そこまでにしといて。こいつ消したら私もヤバいから。」
悪魔を制止させたのち、白崎は桐生のもとへ近づき坂縞と対面の柱に身体をくくりつけ捕らえることに成功した。2人が捕らえられた10分後、少しだけ状況の変化が生じた。
柳原敬太「ねぇお姉ちゃん、もっと遊びたーい。他に誰かいないのー?」
白崎糊塗「ワガママいうなガキ。そんなに遊びたいんだったら心音のところへ行ってな。何かしら用意してくれるでしょ。」
ギャルっぽい少女は少年に心音という存在を提示し、そのもののもとへ行かせた。坂縞はその心音という言葉に反応する。
坂縞樹「心音表魅のことか?」
白崎糊塗「あーあんたは知ってるんだっけ。」
桐生亜衣「誰のこと?」
桐生は心音表魅という存在を知っておらず、その存在の詳細を尋ねる。坂縞が答えようとしたが、それは制止させ黙らせる。なぜと聞こうにも白崎は誰もいないところに警戒の目線を送り黙れといわんばかりの雰囲気を作り上げていた。
白崎糊塗「教える前に片付けるものが増えたわ。」
白崎の目線の先には桐生も坂縞も知っている彼が立っていた。
我殺狂助「まるで同窓会だな。」
皮肉めいた愚痴を溢しながら右手に誰かの服の首の袖を掴み引きずっている状態で登場した我殺は真っ先に悪魔に目線を向けその悪魔が何であったかすぐに理解した。
桐生亜衣「我殺くん、だめ!入ったら…」
我殺狂助「久しぶりだな。」
優しい目で彼女を見つめ我殺は右手に引きずっているものから手を離し、少しずつ彼女へ近づいていった。
悪魔「が、さい、さん…」
彼女もまた我殺へ近づこうとする。しかし、それを白崎が許すはずがなかった。
白崎糊塗「そいつを消せ。今すぐに。」
白崎に命令された悪魔に抵抗する手段はなく、獣の手を我殺へ向ける。
坂縞樹「てめぇ!ふざけんなよ。」
桐生亜衣「ただ人を苦しめるためだけにここに来たの?ふざけないで!あんまりだよ!!」
白崎糊塗「うるさいなぁー。こういう余興が好きなんだよ。しょうがないでしょ。」
2人の激昂にも耳を貸さず悪魔と我殺の戦いを見物しようとする白崎。しかし、悪魔は一向に我殺に攻撃しようとしなかった。獣の手は寸前で止まり震わせながら堪えている。
悪魔「ぅ、ぅ、ぅぅぅ、、」
我殺狂助「別にやってもいいんだぞ。お前に消されるなら本望だ。今は何で存在しているのかわからなくなっているし。」
悪魔の攻撃の抵抗に対し、我殺は悪魔の自由意思に委ねると答え悪魔の目の前にまで近づいてゆく。
我殺狂助「…やるか?」
悪魔「うぅぅぅ!!!」
悪魔は自身の手を我殺にではなく柱に向けて殴った。正確にいうなら桐生を縛り付けていた縄の方へ。桐生の身は自由となり、慌てて白崎は我殺と悪魔に殺意を向ける。
悪魔「やら、せない。」
悪魔は我殺を庇おうとし、白崎の手首をそれぞれの手で掴み動きを封じた。桐生もまた坂縞のもとへ向かい拘束をほどこうとする。
白崎糊塗「くそ悪魔が。もういい、、自害しろ。」
そう告げられた悪魔は白崎の手首から手を離し、自身の手で首をかっ斬った。それと同時に坂縞も自由の身になるが悪魔が末路を迎えようとしている状態に身体が固まった。我殺は黙って倒れた彼女に近づきしゃがみこむ。彼女の右手を握りながら優しく質問する。
我殺狂助「俺が消えることは許されないか?」
悪魔「あたり、まえ、でしょう。バカ。」
完全に消滅するからか彼女の身体は段々と人間のかたちを取り戻し始めていた。
我殺狂助「お前がいないのにか?もう、覚えられないのに。」
悪魔「いい女だったでしょう、、そのことだけは、覚えられる。バカなあなたでも、、」
首をかっ切った状態のかすれ声に近い彼女の言葉を我殺は身体を少し震わしながらあくまで平静を装って尋ね続ける。
我殺狂助「お前は、、後悔してないか?俺と戦ってきて、一緒に過ごして。」
聞きたくても聞けなかったこと。それを必死に押し出して尋ねる。自分と行動したから彼女は脱落してしまったのではないか、そんな確証もないイフに対する後悔を我殺は一人で隠していた。彼女を失い、一人となった八次も彼女のお幸せにという言葉を守るために必死に存在し続けた。彼女の存在がいつの間にかとても重要なものになっていたこと。それを自覚しながら尋ねる。そして彼女から即答された。
飯島聡「してるわけないでしょ。大バカ。」
彼女は顔を我殺のもとへ0距離にまで近づけ口元がわずかに湿る。その直後、彼女は消滅を迎えた。
(やっぱ気付いてないんだな、本当にお馬鹿。私たち現界で会っているのに。)
そのことは絶対に教えてやらないと心のなかでベロを出し彼女は無へと還った。
脱落
白崎糊塗「んで、我殺狂助、あんたも後を追ったら?もう大好きな化け物はいないでしょ?」
辺りが一時静寂に包まれ我殺は彼女が消滅してから1ミリも動かずそのままでいた。白崎の言葉には無視しただ膠着していた。
白崎糊塗「ちっ、ちょっときいて…」
それに腹を立てた白崎は我殺へ近づく。それを阻止しようとした桐生や坂縞も動こうとする。だが、その必要は全くなかった。桐生と坂縞が白崎のもとへ向かおうとしたその瞬間、既に我殺は白崎の背後にいた。
白崎糊塗「え?」
白崎が振り向いた瞬間、彼女の全身は地面へ激突し地面へ半ば埋め込まれるようなかたちとなる。
我殺狂助「後を追う?俺にその権利はない。一番大事なやつからそう言われたからな。」
白崎糊塗「あっ、、が、ぐぅ、、」
我殺狂助「質問にだけ答えろ。監視者の居場所は?」
完全にリミッターとストッパーが切れている我殺は白崎を半殺し状態にし、尋問を始める。だが、その興奮状態が仇となった。
我殺狂助(そういえば、桐生と坂縞は…)
そういえば声がしないことに気がつき目線を下から徐々に上げる。するとそこにはうつ伏せで倒れている桐生と坂縞がいた。
我殺狂助「……はっ!?」
二秒ほどどういうことか理解に時間を要し、理解した瞬間、危機を悟る。その瞬間我殺の右足に突如飛来した剣が刺さり我殺は痛みに悶える。
心音表魅「やはり白崎は使えないか。」




