第7場 宴の夜
今宵は南蛮から来た、フランシスコ・ザビエル一行の歓迎の宴が大内氏館で執り行われていた。
京風の美しい料理が並び、酒も振る舞われ、賑やかな楽や舞なども披露され、宴は大いに盛り上がっていた。
その様子を苦々しい思いで見ている者がいた。
陶 隆房である。
「この混乱したご時世に、南蛮由来の品だ、京の文化を取り入れるが最上だ、など殿は一体何を考えておられる。」
「隆房殿…お声が大きいですぞ。」
他の家臣にたしなめられる。
酒の力もあってか、構わず隆房は続けた。
「先の戦で大敗して以降、殿は変わられた。最初は敵を油断させる為の策略かとも思ったが、今の様子をみるに、本当にやる気を失われたとしか思えん。」
隆房の視線は義隆と最近の義隆のお気に入り文治派の相良武任を捉えていた。
「ほお、これは時を刻むものか…。」
「なるほど、このゼンマイで動くのだな。」
楽しそうに南蛮品を次から次へ試す義隆を横目に、唇を噛む。
「…おおっ、これは!あのように遠くのものがまるで近くに見えるぞ。これは何じゃ?」
「望遠鏡にございます。」アンジロウが答える。
「これで覗けば、安芸国の毛利の様子もわかるのではあるまいか。」
「ハッハッハ。」
「これは面白い。」
側にいた家来も合わせて笑っていた。
「殿はあんなに喜ばれて。本当に新しい物がお好きなのですね、父上?」
父 清孝は困った顔をしていた。
何故ならば、隆房がすごい形相で殿や相良をみているからだ。
「隆房殿…」清孝は心配そうに呟く。
尚も南蛮の品定めを行なっている義隆を見ながら
「…この国は滅びる。」
小さく隆房は呟く。
「相良などの意見ばかりを聞き、国を立て直し、戦国の世を生き抜く策を考えもせず… もはやこの周防の国はどうなってもいいと?」
隆房はそっと宴を抜け出した。
長い廊下には月明かりが照らしていた。
月を見上げ隆房は言う。
「…今が、決心の時か…。」
遠くから宴席の声が聞こえる。
廊下では月明かりのもと、若い侍とアンジロウが酒を酌み交わしながら、話をしていた。
「アンジロウ殿は何故、ザビエル様ご一行と行動を共にしておられるのですか?」
手元の酒をぐいっと一息で飲み話を引き継いだ。
「私は…薩摩国の者です。飛び出して早、10年近くなりますか。 」
皆の顔を見渡す。
「その頃、好いたおなごがおりまして夫婦の誓いを立てておりました。良く気がつく気立ての優しいおなごでした。」アンジロウはどこか遠い目になる。
「そのようなおなごゆえ、横やりが入る事もありました。ある日、町の男からちょっかいを出され、あわやと言う時に私が助けに入って事なきを得た事がありました。…ただ、私も若気の至り、怒りで頭に血が昇り、刀で斬りつけてしまったのです。」話を聞いていた皆は、思わぬ話の展開にどう返したものか考えあぐねていた。
「幸いにも命を落とすような怪我ではなかった。ただ、腱をケガし刀を握れなくなってしまった。最初に仕掛けて来たのは奴の方で、証人もいた為双方に罰が与えられた。」
「その罰とは?」
「町から出る事…追放になったのですな。」
「おなごはどうしたのですか?」
「…狭い田舎町、悪い噂が流れて、縁談は破談になりました。」
顔を見合わす若者。
「それで私は、船で外国に行こうと思い立ち
ひとまず琉球を目指したのですが、途中で船が沈没し、もう駄目だと諦めかけた時、たまたま近くを通ったポルトガルの船に助けられたのです。」
いつの間にか、千鶴とミゲルも輪に加わり話を聞いていた。
「船の中で私は一生懸命働き、言葉を覚え、長い船旅の間にすっかり喋れるようになりました。」
誰ともなく、ほおっと息を吐く。
「縁あって、ザビエル様に出会い、洗礼を受けキリシタンとなりました。そして今、ここ山口にいます。」照れた様に笑い、酒の入った猪口を口元に持って行く。
「…その方に会いたくはないのですか?」
千鶴が尋ねる。
「千鶴殿…」
「会いたくないと言えば嘘になりますが…今はまだ神がお許しになっていない気がします。」
庭に一匹、蛍が迷い込んでいた。
皆、ものも言わずその蛍の様を見ていた。




