第5場 隆房の苦悩
陶 隆房はイライラしていた。
先の戦で大敗して以降、主君 大内 義隆の気持ちは天下ではなく、文化の方に向いているから。
戦の戦略について各武将が意見を言っても
「ああ…」とか「ふーん。」とか生返事ばかり。莫大な金を朝廷に寄進し、京より公家の者達を招いて山口に住まわせた。隆房の目には、彼らは遊興に明け暮れるだけの者達に映った。一の坂川を鴨川に見立て川遊びや流し雛をしたり、歌会を行ったり…。
また、文治派の相良 武任を側に置き重用している。最近では相良も大きな顔をして政にまで口を挟むようになった。
「殿、文化を知り知恵をつけてこそ、敵を破る方法もわかると言うもの。これからの時代、文化の強い国が本当の意味で強き国となるのです。」
相良はしたり顔で義隆に進言する。
「武力なき勝利が得、と言うではないですか。すぐに刀を振りかざし、武力こそ全てと言うような阿呆では国を統治する事は出来ません。」
義隆はポンと膝を打ち「まこと。武力なき勝利。それこそ一国の君主として目指すべき道だな。」
義隆を囲んで、文治派の文官と公家の者達が笑い合っている。その様子を横目で見ながら
「…そんな事は理想にすぎない。今の世にそれは通じないのだ。今は、多くの国が我こそはこの日本を1つに統一せんと動いているのに、話し合いで解決出来ればこんな事になってはおらんわ!」
と、陶 隆房は苦々しげに呟く。
「文官の全てが文治派と言うわけではない。
例えば、大庭 清孝殿の様に、遠巻きに殿に進言する文官もいる。」
またさらに頭を抱えるのは、殿の南蛮かぶれだ。近々ポルトガルなる国からバテレンがくると言う。「キリスト教」とか言う活動を支援するなど…一国の君主がバテレンに傾倒するなど…。
「先の敗戦以降、殿は変わられた。」苦しそうに隆房は言う。
「このままでは大内は破られます。」一の家臣である内藤が意を決して言う。
「黙れ。」
「しかし、事実にございます。」
内藤は食い下がる。
「だが、殿は我らの主君だ。」
内藤は周囲を確かめるように視線を巡らせ、声を落とした。
「良い機会ではありませんか。殿が南蛮やら京やらに心奪われている間に…」
「…」隆房は答えず、ただ宙を見つめていた。
一人佇む隆房
われらの国は
このままでは滅ぶ
未来を示すべき主君は
もう、いない
この国のため
この民のため
立ち上がらなければ
誰が守ると言うのだ
この周防の国を
誰もいないならば
この私が、守る
「…国あってこその文化よ。」
一人呟く隆房であった。
遠くで義隆達の笑い声が聞こえた。




