第20場 クリスマスミサ
クリスマスミサ当日がやって来た。
大道寺には多くの人が集まっていた。
あの戦火のおり、助けた少年と母
父 清孝
部下の斎藤
大内義長公や陶 晴賢の姿もあった。
皆、序列関係なく一同本堂に正座していた。
祭壇にはトーレス神父が立っていた。
「皆様、イエス様の降誕祭にたくさんの人に集まって頂き本当に嬉しく思います。 この降誕祭は、おそらく日本で初めてこの山口の地で行なわれます。」
皆の顔を見渡し告げる。
「昨年は悲しい事がたくさん、ありました。
たくさんの方が亡くなりました。
町も焼かれました。
敵、味方いろいろな考え方があると思います。
ですがイエス様は、皆平等に愛して下さいます。皆平等に赦しを与えて下さいます。今日はそんなイエス様に愛と感謝を捧げる日です。それぞれのやり方でいいのです。 皆が集まって一緒に祈りを捧げている事が大事なのです。」
トーレス神父は祈祷文を読み始めた。
皆、神妙な面持ちで手を合わせている。
それぞれの想いを胸に。
「義隆殿、謀反を起こし、主君を殺めた裏切り者とそしりを受けようとも、私は悔いてはおりませぬ。 あなたとは違った方法でこの周防の国を守ってみせます。」陶 晴賢は誓った。
「愛しいお前、私は国を追われた時、お前の気持ちを確かめる事もせず国を出た。だがお前を助けたい一心とはいえ、人を傷つけた事にかわりはない。
この罪は一生消えぬ。私は、薩摩国に戻り贖罪の旅を続けていく。いつか…また会う事が出来たら…」
目を瞑りアンジロウは祈った。
「ミゲル様…私はあなたをお慕いしています。
私はあなた様にお会いして、愛する事、愛する者を守る事を知りました。」
千鶴はミゲルを見つめ思った。
「千鶴殿、私はあなたを愛している。 あなたに出会い、あなたの明るさに救われ、愛する者を守れる強さが欲しいと再び思う事が出来るようになった。」
千鶴を見つめミゲルは思った。
それぞれの想いを胸にクリスマスミサは続いていく。
民達の中からクロスをかけた者達が立ち上がり、
ラテン語でグレゴリオ聖歌が歌われた。
初めて聞く言葉、美しい歌声にミサに参加した民達は感嘆のため息を漏らした。
「何と綺麗な音色」
「天の音とはこう言うものかも知れん」
「あまりに尊くて涙が…」
静かに歌声が終わり、厳かにトーレス神父が言う。
「我々の祈りは続きますが、お知らせする事があります。昨年、帰国されたザビエル神父が志し
半ばにして病に倒れ亡くならました。」
突然の話に驚く、町の民達。
「ザビエル神父の志であったキリスト教の活動を、この山口で私が引き続き行う事となりました。お許し頂いた、大内義長公には感謝しかありません。」
トーレス神父はつづける。
「また、ここにいますアンジロウとミゲルはそれぞれの国に帰ることになりました。」
「えっ」民達は驚き、ざわめいた。
「国っちゃあ、南蛮に帰るんか?」
「何と、残念な」
「帰っちゃ嫌だよ!」
「また遊んでくれるって約束したじゃん」
子供達が口々に叫ぶ。
「今までありがとうございました。」
トーレス神父が二人を呼ぶ。
少し照れた様に祭壇前に来た2人
「ありがとうございました。 日本の事、山口の事、山口のみんなの事、美しいサクラ、
蛍、雪、そして今日のクリスマスを私は一生忘れません。日本に来て、良かった…心から思います。」
ミゲルがお辞儀をした。アンジロウは涙を拭い頭を下げた。
「ここで私から皆さんに、お礼がしたいです。感謝の気持ち込めて歌を歌います。」
リュートを取り出したミゲル
イスに座りリュートを抱える。
「これは、リュート言ってポルトガルの楽器です。今から歌うのはポルトガルの歌で懐かしい故郷を思って歌う歌です。」
あたりは静まり返った。
リュートの音だけが響いた
…ポロン
遠く遠く離れた土地で
空にかかる月を見ている
愛しい者達は、今どうしているか
同じ月を見上げているか
同じ月を見上げているか
忘れた事はない
忘れるはずがない
愛しい人
いつの日にかまた
2人一緒に 月を見上げよう…
本堂の後ろから、1本の横笛がリュートの音色に重なる。
皆が振り返る
そこには横笛を手にした千鶴が立っていた。
「私も…ご一緒してよろしいですか。」
ミゲルは驚き
そして静かに微笑み
小さくうなづく
横笛でメロディを紡いでから
千鶴が歌う
ミゲルの弾くリュートの音がかすかに聞こえる。
遠く遠く離れた土地で
輝く星を見ている。
愛しい君は今どうしているか
同じ星を見ているかしら
同じ星を見ているかしら
忘れる事など出来ない
忘れられるはずがない
愛しいあなた
いつの日かまた
2人一緒に
空の星を見ましょう
歌い終わると、万雷の拍手が起きた。
2人は静かに一礼する
本堂からはトーレス神父の説教が続いていた。
千鶴はそっと本堂を出て
星を飾った木の下に立っていた。
ミゲルも後を追う
「千鶴殿…」
「ミゲル様…」
しっかりと見つめ合ったまま、
千鶴が意を決したように口を開く
「私は、私はあなたをお慕いしています。
…ミゲル様はもうじき国に帰られる。
どうするつもりもありません。…ただ、
日本の、西の果ての国に、大庭 千鶴と言う
あなたを好いたおなごがいたことを、
覚えていて欲しい。」
まっすぐにミゲルを見つめて千鶴は言った
「私も、あなたを愛しています。 出来ることなら、あなたを故郷へ連れて帰りたい。 ですが、私を待つのは再び戦の地。 愛する人を、その場所へ連れて行くことは出来ません。」
いつしか千鶴を抱きしめるミゲル
2人は見つめ合い、そっと口づけをかわす
「いつ、お立ちに?」
「明日の朝」
「そんなに早く?」
「泣かないで…千鶴」
「どこにいても、私の心は千鶴と共にある」
「離れていても同じ月をいつまでも見よう」
二人は言葉なく寄り添い、同じ月を見上げる。
星を飾った木の枝が、夜風に静かに揺れていた。




