第15場 祇園祭り
山口には京都の八坂神社から分院された八坂神社がある。
西の京として町を作る時に京都から取り入れた祭り。疫病退散や祖霊の供養などが目的であった。
「…今年は祇園祭りはないのかと思っておりましたが。」千鶴は父 清孝に言う。
「町並もかなり修復が進んできたし、こう言う時だからこそ必要だと殿もお考えらしい。元々が祖霊供養や疫病退散を祈念する祀りだからな。」清孝が答える。
一緒にいた斎藤も「腕が鳴りますな。」と笑う。合点がいった顔で千鶴は斎藤を見る。
「斎藤殿は毎年、山車に乗って楽を担当されるんでしたね?」
「はい。箏を担当しております。」
「文官の面目躍如と言うところですね。」
「…千鶴殿も是非見に…」斎藤が言いかけたところで、「ミゲル様、トーレス様、それにアンジロウ様もお誘いしてみましょう。」
「彼らは日本の夏の祭りを知らないでしょうから。きっと驚かれるでしょう。」我ながら良い思いつきと言わんばかりに笑顔になる千鶴。
「そうと決まれば、早速お知らせに…」
立ち上がって下駄を履こうとする千鶴に
「まだ何も決めてないし、祭りはまだ先だぞ!」と声をかける、父。
声が耳に入らないのか、駆け出して行く千鶴。
「やれやれ。」ため息をつきながら
斎藤の顔を見て「そなたも難儀だな…。」と声をかける。
「いつも、千鶴殿には元気をいただいています。」駆けてゆく千鶴を見ながら斎藤は答える。
千鶴の祭りの誘いに喜んで応じた3人。
祭りの意味を説明すると、トーレス神父は
何か思う事があるようだった。
そうして祇園祭り当日がやって来た。
千鶴は着物をミゲル達の丈に合うように作り直していた。
「浴衣と呼ばれる夏の着物を直してみました。…3枚ありますが、これを着て祭りに行きませんか?」
「おお、日本のキモノね。」ミゲルが目を輝かせる。
「…これはかたじけない。私の分まで」アンジロウが礼を言う。
トーレス神父様は「…千鶴殿、ありがとうございます。ただ、私は神に仕える身ですので、公の場に出るときはやはりこの格好で。帰ってきたら着てみたいです。」
「わかりました。」
「アンジロウ殿はご自分で着替えて下さい。」
「ミゲル様は、着方が分からないでしょうから。こちらへ。」千鶴は衝立の奥へミゲルを誘導する。
衝立の向こうでミゲルが言う。
「おお、ガウンの様な感じですね。」
「羽織るんです。」
「はおる…?」「こうして、袖に手を入れて」
「前がビラビラしますし、全部見えてしまうけど」
「帯で締めます(笑)」
「おび…しめる?千鶴殿?なぜぐるぐる巻に?!」
外から聞いているアンジロウは大笑いしている。
「よし、出来ました。」
衝立の奥からミゲルが出てきた。
ミゲルの金髪が藍色の浴衣によく映えていた。
「…お似合いです。」顔を赤らめながら千鶴が言う。
「ありがとうございます。日本のキモノ、
着てみたかった。嬉しいね。」
千鶴を見て微笑むミゲル。
「さっ。いきましょう。…アンジロウ殿
早く着替えて下さい!」
浴衣をきた南蛮人が珍しいのか皆がミゲルを振り返って見る。
「浴衣を着ると日本の夏、と言う気がしますねぇ。」アンジロウが辺りを見渡しながら言う。
久々の祭りに町の民の顔もほころんで楽しそうだった。
「皆さん、嬉しそう。やはり戦のない世でなくてはね。」トーレス神父が言う。
山車のお囃子が聞こえてきた。
「あれは?」
「山車といいます。神様がお乗りになるお車です。」千鶴が答えます。
「神さま?」ミゲルが聞き返す
「ええ。町を巡って災いや病を払い、亡くなった方々の魂を慰めるためのお祭りです。今年は特に、戦で亡くなった方への祈りも込められています。」
するとトーレス神父が静かに足を止め、
「……亡くなった方のために、皆で祈る。」
「それは、とても尊いことです。」
ミゲルも、
「日本もポルトガルも、大切な人を思う気持ちは同じですね。」と続ける。
4人は、山車に乗って楽を奏でる斎藤に向かって皆で手を降ったり、祭りを楽しむ民達の嬉しそうな笑顔を眺めたりしながら、帰路についた。
大庭 清孝邸まで千鶴を送ると、出てきた清孝にトーレス神父が神妙な顔でいった。
「清孝どの」
「トーレス殿、日本の祭りはどうでしたか?」
「とても、考えさせられるお祭りでした。
神秘的ですし、神が車で移動するとか驚きました。」
「南蛮にはないのでしょうな。」少し誇らしげに清孝は答える。
「ひとつ、お願いがあります。」
「私たちも、亡くなられた方々の魂が安らかであるよう、お祈りを捧げたいのです。」
「ほう…」
「クリスマスミサを行いたいと考えています。」
皆、驚いていた。
「クリスマスとは我々の神、イエス様がお生まれになられた日。この日に生誕と、世の中の安寧を祈ります。…ここで昨年亡くなった全ての魂が安らかであらんことを祈らせてください。」
トーレス神父は決意を決めた顔で伝える。
千鶴を始め4人は清孝を見た。
「もし、お許しいただけるのなら…」
清孝は口を開いた。
「私の裁量だけでは許可は出せぬ。しかし義長公は南蛮文化にも理解のある御方。書状をしたためられよ。私も力を尽くそう。」
「ありがとう、ございます。」
「…素敵な事です。西洋と日本が共に手を取り祈りを捧げましょう。」千鶴が言葉を続け、一同は誓いを新たにした。




