第14場 桜
戦場になった山口の町は、皆の協力もあり、かなり復興が進んでいた。
陶 隆房は陶 晴賢と名を変え、
民の反発を回避するために、義隆の姉の子 大友 晴英を豊後国から新しい当主 大内 義長として迎えていた。
戦後の混乱も落ち着いた、1552年春
大道寺にて。
ミゲルは剣の練習を、アンジロウはあぐらを組んで廊下から様子を見ていた。
千鶴は箒を持ち庭を掃いている。
唐突にミゲルが言った。
「この山口には美しい花が咲く木があると聞きました。案内してはくれませんか?」
「美しい花をつけた木?ああ…桜のことか。」
アンジロウが答える。
「サクラ…」
「今であれば一の坂ぞいの桜が見ごろだと思うな。…では参りますか?」 千鶴が答える。
「アンジロウ殿はどうされますか?」
「ん〜私は遠慮しておこう。」
ニヤニヤしながらアンジロウは答える。
「…そうですか。ではミゲル殿、参りましょう。」
町を歩きながら2人は無言だった。 時折物珍しそうにミゲルが「あれは?」 と千鶴に尋ねる。
「前から思ってました、あれは城?」
「あれは五重塔 」
「五重塔…」
「百年前から建っているらしい。」と千鶴。
「おー!百年。面白い形…。しかも石ではなく
木?木で出来ているのですか?!」
そんなミゲルを見て「まあ、あんなに目をキラキラさせて。南蛮の方から見たら珍しいものばかりなのかしら?」と微笑ましく見ていた。
そうこうするうちに一の坂川の橋の上に来た。
「ここからの景色が私はいっとう好きです。」
両脇に桜が咲き、まるで薄桃色の花の中に浮かんでいるよう。
「…美しい。」 桜の花を仰ぎ見る様子を見て千鶴は思った。
「ミゲル殿の金色の髪がキラキラと光って…なんと美しい。まるでトーレス様に見せていただいた天の使いのミカエル様のよう…」
桜の花の中に浮かんでいるように見える。
ミゲルが千鶴に向かって微笑みかけた。
その姿にドキっとした千鶴。
「何じゃ?今の胸の痛みは…?」
慌てて胸に手をやる千鶴。
桜の花を背に佇む千鶴を見てミゲルは思った。
「なんと美しい…まるでサクラの精のよう。
凛としていて、千鶴殿にぴったりだ…」
その時、一陣の風が吹いてサクラの花びらが舞い散る。
視界を奪われ千鶴がふらついた。
思わず抱き寄せるミゲル。
2人は見つめ合い、すぐに離れる。
「…ありがとう。どうじゃ。桜は?ミゲル殿の国にはないのですか?」
「私の国にはありません。桜…美しい。」
ミゲルは少し考える。
「でも千鶴様の方が美しいと思います。」 ミゲルは素直に伝える。
「…なっ?!」
「南蛮の男とは女子にそのような言葉を、いつも言うのか?」
半ば怒ったように言う千鶴
「イツモ?」
ミゲルは何故怒られているのかわからない。 「…帰ります!」
踵を返して屋敷にかえる千鶴の後を追うミゲル。
早足で屋敷に戻って来た2人を見て
「おやおや、桜見物は楽しかったようだな。」と声をかける。
「楽しくなどない。」赤い顔で千鶴が言う。
「楽しかったです。美しかった。」
慌てて本堂にあがる千鶴。
ミゲルは「わけがわからない」と言う顔をしてアンジロウを見る。
その様子にアンジロウは楽しそうに笑う。




