第13場 新たな時代
山口の町に燃え広がった火事もようやく収まった。 町のあちこちから、焼け落ち崩れた家々を 片付ける音が響く。
ここ 清孝邸は延焼こそ免れたが、家を失った民が助けを求めてやって来ていた。
清孝も千鶴も、忙しく立ち回っていた。
そこへ、伝令が駆け込んで来た。
「申し上げます。」
緊張した面持ちでゴクリと唾を飲む。
「何事か?」
清孝が問い返す。
「ただいま、早馬が参り、大内 義隆様が長門 大寧寺にて、 御自害なされたとの知らせにございます。」
「…そうか。」
清孝は静かに目を閉じた。
「…殿。」
「南蛮品を嬉しそうに手に取っておられたお姿が、昨日の事のように思い出されます。」
千鶴も目元を押さえながら言う。
そして2人は、遠い長門 大寧寺の方角へ
そっと手をあわせた。
「……戦とは、こんなにも多くのものを失わせるのですね。」
千鶴は小さく呟いた。
そこへ、トーレス、ミゲル、アンジロウがやって来た。
「清孝どの」
心配そうな顔のトーレス神父に清孝が尋ねる
「トーレス様、如何されましたか?」
「…義隆さまの事、聞きました。
とても悲しい事。町もやかれ、民も亡くなりました。…戦争、どこの国も同じ。」
皆、一様に押し黙った。
「ところで私達、義隆さまのゆるしでここにいる。義隆さま亡き後は、ここにいても大丈夫なのか?
それが心配です。」
清孝の顔を、じっと見つめる。
「…隆房殿も、そんな無体な事はされないでしょう。」
トーレス神父の方をしっかり見て伝える。
「それに、あなた方はあの後、逃げ惑うたくさんの民を大道寺で介抱し、食事をさせ、寝る場所を提供しておられるとか…」
「寺は広いですからね。皆雑魚寝ですが。」アンジロウが言う。
「食べ物、近所の人も持って来てくれる。
みなさん、やさしいね。」
ミゲルが笑顔で言う。
「その様に奉仕されている方に無体な事は言われまい。もし何かあるようなら、私が隆房殿に口添えしましょう。」
「清孝様、ありがとうございます。」
3人が頭を下げる。
「…私も手伝いに参ります。こちらは斎藤殿や動ける者がおりますので」千鶴が言う。
「うむ。千鶴はそちらのてごを頼む。」
「テゴ?」ミゲルが聞き返す。
笑いながら
「山口弁で準備、手伝いの意味です。」
千鶴が答える。
清孝とトーレス神父、アンジロウは場所を
変え、話を始めた。
残ったミゲルと千鶴は少し気まずそうに佇んでいる。
「ミゲル様、あの…腕の傷は大丈夫ですか?」
心配そうに千鶴が聞く。
腕を見ながらミゲルが答える。
「ああ…平気です。戦場に出ていた際はしょっちゅうケガしてました。」
意を決したように千鶴が早口で言う。
「あの…私。ミゲル様に『腰抜け』などと…
失礼な事、本当にすみませんでした。」
ミゲルは笑いながら、
「本当に腰抜けでしたから。」
千鶴は首を大きく降って
「…アンジロウ殿から聞きました。」
遠くを見ながら静かにミゲルは口を開く。
「…私のした事は消えませんが、私は彼を一生忘れず、彼の為に祈ろうと思っています。」
「…そうですか。」
千鶴はミゲルに微笑む。
「では、私も祈ります。
戦で亡くなったたくさんの人の為に。」
「千鶴殿…」
ミゲルは続けた。
「…それにアンジロウ殿が言った。
愛する者を守る為に剣が必要な事があると。
私は、あなたを守れて良かった。」
ミゲルの言葉に千鶴は返事が出来なかった。
ミゲルが照れた様に微笑む。
その笑顔がなぜか眩しくて―
「…ミゲル様」千鶴は呟き
そっと顔を上げ、2人は見つめ合った。
「千鶴!」
清孝に呼ばれて、千鶴は駆けていった。




