第12場 隆房の大義
時を、少し戻して、戦 当日
義隆は京より多くの公家を招いて山口に住まわせていた。
「殿、京より新しいお茶を取り寄せましたぞ。」
「これは三条様。さすれば早速闘茶など行いたいものですな。」
にこやかに話をする義隆の元に、家来が慌てて走って来ました。
「何事ぞ、騒々しい!」
叱責しようとする義隆に家来が告げる。
「む、謀反にございます!」
「な、何っ?」
驚きを隠せない義隆 。
屋敷の奥の方から、悲鳴や怒号が聞こえてきた。
「一体…誰が?」床の間にあった刀をもって様子を伺うと廊下の奥から一人の武将が大股で入ってくる。
「義隆!」
「我こそは陶 隆房。この周防の国を立て直す為、殿のお命頂戴致す。」
「隆房…お前が」
刀を構え、隆房を見つめる義隆。
「殿、あなたは変わられた。先の戦いでご養子の晴持様を失い、気落ちされているのはわかります。」義隆は目を見開く。
隆房は続ける。
「だが、あなたは一国の主 京文化にかぶれることより他にやるべき事があったはず…」
双方刀を構え、睨み合っている。今は文化に傾倒しているとはいえ、義隆とて戦国の世を生き抜いて来た武将。隆房相手に引くことはない。
「京より莫大な金を使い公家のもの達を住まわせたり、朝廷に寄進したり。その度、民に重い税を課し、民が疲弊していくのがわからないのですか?」
「貴様に…何がわかる。」
義隆は絞り出す様な声で言った。
「このままでは、この周防の国は滅びる。 私は貴様を打ち、新しい君主をすえ、大内を、この国を立て直す。」
緊迫した空気に耐えれなくなって、公家の者達は叫び声を上げ奥に逃げて行った。
隆房に刀を向けたまま、義隆も後ずさる。
逃げる際に灯明を倒し、あたりに火が回った。
隆房が一瞬怯んだ隙に、義隆は走り去った。
「後を追うんだ!追え〜。」
かろうじて外に出た義隆達。
内藤が義隆に告げる。
「殿…海が荒れ、海路で九州に渡るのは無理との事。」
義隆は静かに唇を噛んだ。
「…仕方あるまい。陸路にて長門を目指そう。波が静まるのを待つ。」
同行しているのは、ほんの数名の側近と親しくしていた公家たちだけだった。
一行は小高い山道から、山口の町を振り返る。
あちこちに火の手があがり、黒煙が秋空へと昇っていく。
人々は逃げ惑い、混乱に乗じて略奪も起きていた。
「…屋敷も燃えたか。」
義隆はしばらく黙って町を見つめていた。
そこには、京を夢見て築き上げた『西の京』があった。
やがて小さく息をついた。
「…さあ、参ろうか。」
誰も言葉を返さなかった。
戻る事の出来ぬ道を前に、一行は静かに歩き始めた。
一行は夜通し歩き、ようやくたどり着いた。
「大寧寺」--- 誰もいない無人の寺。
本堂の中に上がり、口を開く。
「ここで、しばらく休もう。」
皆、一様に安堵の表情を漏らした。
その時
ガチャガチャと甲冑がすれる音がした。
「ひいっ」公家の三条が悲鳴を上げる。
状況を察した内藤がいち早く刀を取る。
「殿、あなたと見た夢、実現しとうございました。」
内藤は刀を握り雄叫びを上げて本堂を飛び出した。
他の家臣達も後に続き、公家の者達は悲鳴を上げて逃げ出した。
外では激しい斬り結ぶ音が響く。
やがて、その音も静かに途絶えた。
覚悟を決めた義隆は、静かに居ずまいを正し
脇差しを手に持った。
「義隆!」
義隆を見つけ隆房は言う。
「…殿、もはや勝敗は決しました。」
義隆は答えない。
いつしか雷がなっていた。
稲光を背に隆房が立っている。
そして義隆は静かに話始める。
「隆房か…。私は、私なりにこの周防の国を盤石にせんと朝廷に寄進もし、従二位の位も授かった。それは全て周防の国のため。」
稲光が本堂を照らす。
「わしが望遠鏡で見るべきは安芸国の毛利ではなく」
隆房はどこか悲しい顔で義隆をみる。
「近くにおった家臣達の心であったか…」
隆房は答える 。
「いいえ。」隆房は静かに首を振った。
驚く義隆。
「あなた様が見つめるべきものは、京でも毛利でもございません。」
「この周防の国の行く末。そしてあなたを命懸けで支えた家臣達の心でございました。」
「…隆房」
義隆は遠くを見る。
あたりは静まりかえっていた。
「そなたは国を守ろうとした。」
「わしは文化を守る事でこの国を強くしようとした。」
「どちらが正しかったのか。…もはや分からぬ。」
隆房を見つめ微笑みを浮かべる義隆
雷鳴が轟いた。
義隆はゆっくり空を見上る。
「討つ人も、討たれる人も…命とは露のように儚く、稲妻のように一瞬で消えてゆく。
のう、隆房 この世とは、なんと無常なものよ。」
「 討つ人も 討たるる人も 諸ともに
如露亦如電 応作如是観」
「隆房…周防の国を、頼む。」
ひときわ強い稲光と雷鳴が辺りを包み
そして、しんと静まり返った。
義隆の亡骸を前に、隆房はしばらく立ち尽くしていた。
やがて隆房は静かに刀を納めた。
「……殿。」
一言つぶやき
隆房は背を向けて、歩き出した。




