第二十六話 エンカウント・プラトーンズ
空閑が率いる第一偵察小隊は、現地人であるファルシオン王国の王女アリシェスタの証言を経て、外界方面指定害獣『魔物』と定義されたモンスターの群れに向かって駆けていた。チヌークに残った四名を除いた総勢二十八名の隊員達が、89式小銃やミニミ軽機関銃(持ち運び可能な歩兵用機関銃)を抱えて、防弾チョッキと鉄帽を着用した完全武装で荒地を走り抜けていく。
前方では護衛として随伴していた多用途ヘリコプター二機により、ドアガン(ヘリの扉に備え付けられた銃器)から12.7mm弾を使用する重機関銃で機銃掃射を行っていた。
「護送任務の筈が戦闘になるなんて。小隊長がフラグなんか立てるからっすよ!」
「うるせぇ! 無駄口叩いてないで足を動かせ!」
本井陸士長のボヤキに、空閑が激昂して答えた。
やがて、目の前に魔物達の姿が見えてくる。地面を黒く塗りつぶすようにして、城塞都市に雪崩れ込んでいた。
「小銃手、機関銃手! 射撃用意!」
目の前に群れを成す魔物達を有効射程内に捉えると、第一偵察小隊の隊員達が膝を折って射撃態勢になる。中には地面に腹ばいになり、銃器についた二脚を立てて構えた。
「射撃開始! 撃てー!!」
空閑の号令と共に、隊員達が射撃を開始する。小銃と機関銃から発射炎が瞬き、放たれる5.56mmライフル弾が魔物達の身体を貫いていく。UH-1JAの重機関銃であたふたしていた魔物達の前に、更なる銃弾の嵐が巻き起こった。
「ブラックドッグには注意しろ! 白兵戦の距離まで絶対に近づけさせるな!」
四足で襲ってくるブラックドッグは、地球世界でいう所のチーターと背格好が似ており、当然のことながら走る速度も並み大抵ではない。何よりも彼らは群れを行動する為、大群で襲われたりしたら人間等ひとたまりもない。
アリシェスタが出会った時は、ブラックドッグの数が少なかった事で対処できたが、もしも数十体もいたら恐らく空閑とアリシェスタは、ブラックドッグに喰われていただろう。
UH-1JAによる重機関銃掃射と小隊の銃撃もあり、都市を襲っていた魔物達の数が減ってきていた。
《ファルコンリード、こちらはオメガ1。送れ》
掃討の為に前進の命令を掛けようとした空閑に、突如として先行偵察に出ていたOH-1から無線が入った。空閑は胸に装着してある無線機のボタンを押した。
「こちらファルコンリード、送れ」
《そちらから南側の森で、木々が立て続けに揺れ動いているのを視認した。一直線に都市の方向へ向かって動いている》
「……何だって!」
木が揺れ動いているという事は、何らかが移動しているという意味になる。しかもあれほど高い木々が動いているのが上空のヘリから見えるとなれば、かなりの巨体だと推測できる。
《オメガ1より、ファルコンリード! 森から何かの出てきた。こ、こいつは……!》
「オメガ1、どうした! 送れ!」
OH-1のパイロットの慌てる声が聞こえて、空閑は無線機に語り掛けた。
《馬鹿でかい黒色の獣を視認! だが、何だこいつは⁉ 頭が一つじゃないぞ!》
「オメガ1、どうした⁉ 状況を報告せ——」
ウオォォォォォォォ……
空閑が確認を取ろうとした瞬間、周りの空気を震わせるような獣の遠吠えが響き渡った。
目の前のブラックドッグやコボルトとは違う、大きな黒い影が戦場に現れた。
「小隊長、あれを!?」
双眼鏡で見ていた本井陸士長が叫んだ。空閑も双眼鏡を取り出して、出現した黒い影の方向を見る。
「あいつは……!」
双眼鏡の先で見えたのは、頭が三つ持っていた黒い犬のような獣であった。
「小隊長、あいつって確か……」
「……ああ、あの時の三頭犬だ」
空閑は双眼鏡で下げて顔を歪めた。あの三頭犬には散々追い回された挙句、深手を負わさせたのだ。ある意味トラウマになったとでもいえるだろう。
三頭犬が都市に顔を向けると、それぞれ口を大きく開けた。
次の瞬間、口元に炎の玉が形成して、都市へと飛んで行った。火の玉が城壁に当り、赤い炎を燃え広がった。
「あ、あいつ、口から火を噴いたっすよ!」
本井陸士長が驚きの声を上げる。まさか、あの三頭犬が炎を出すとは思いもよらなかった。
空閑が双眼鏡で火の玉が当たった城壁の上を確認すると、炎が飛び火したのか所々燃えていた。先程まで弓を放っていた者達が、炎から逃げ回っていたり、消火作業をしたりしていた。
「ファルコンリードから上空のヘリに緊急要請! 新たに現れた黒色の三頭犬を敵対生物と認定! 援護射撃を求む! 送れ!」
《こちらガンナー1、了解した》
《こちらガンナー2、これより援護射撃を開始する》
空閑が無線機で伝えると、上空のUH-1JA二機が急旋回する。そして、三頭犬に向かって重機関銃による掃射を行った。
「ガオオオォォォォォォ!!」
三頭犬に50口径の銃弾が降り注いでいく。しかし、三頭犬は怯むだけで、決定打を与えられずにいた。
「小銃手と機関銃手は、そのまま都市部の魔物達を打ち続けろ! 対戦車手、あのイヌッコロを倒すぞ! 弾頭は対戦車榴弾だ!」
空閑の命令により、84㎜無反動砲(自衛隊が保有するロケットランチャー)を担いでいた隊員達が準備をし始める。本体を地面に置いて、弾頭を装填する為に後ろの閉鎖機を横にずらした。
《こちらガンナー1。ファルコンリード、三頭犬がそちらに向かったぞ!》
ヘリから無線に空閑が目を向けると、三頭犬がもの凄い速さでこちらに走って来ていた。六つの怪しく光る目が、第一偵察小隊を捉えていた。
「不味い! 小銃手と機関銃手は退避! 対戦車手! 装填急げ!!」
空閑が叫ぶと、銃撃していた隊員達が撃つのを止めて、その場から駆け足で後ろに下がり出す。だが、迫りくる三頭犬の威圧感と気迫に恐れたのか、無反動砲を扱う対戦車手の隊員達の手が震えて弾頭が砲身内に中々入っていかない。
「貸せ! 俺がやる!」
空閑は装填に戸惑っていた隊員の一人から弾頭をもぎ取る。砲身に弾を込めて再び後ろを閉じると、そのまま無反動砲を両手に抱えた。
「お前達も退避しろ! 奴は俺が仕留める!」
「小隊長!?」
部下の隊員が呼び止めようとするが、空閑は三頭犬に向かって駆け出した。
後方噴射炎(ランチャーを撃つときに発生する衝撃波)が隊員達に当たらない位置まで来ると、空閑は片膝をついた。84mm無反動砲を肩に担ぎ、照準器を覗き込んで狙いをさだめる。
目の前には、恐ろしい形相で空閑に迫って来ていた。
(ん?)
不意に、空閑は奇妙な感覚に陥った。
(何だ……あいつ、急に動きが遅くなってぞ……)
空閑の目には、三頭犬がまるでスローモーションのようにゆっくりと動いていた。初めて見た時と比べて、急激に速さが遅くなっていた。
(よく分からねーが、これなら……!)
空閑はすぐさま思考を切り替えると、口を大きく開けて食らいつこうとする三頭犬に向けて無反動砲の引き金を引く。
肩と手に衝撃が伝わると共に、砲身の前方から弾頭が放たれる。84㎜無反動砲の対戦車榴弾は、三頭犬の左側の頭に真っ直ぐ飛んで行く。
弾頭が左側の頭に接触すると同時に、閃光と爆炎が迸る。
その凄まじい衝撃によって、三頭犬の左側の頭が木っ端微塵となった。




