間章②
——ファルシオン王国、王都ヴァルディオールの王城——
ファルシオン王国の第一王女であるエリシアは、トルマレン城塞都市の首長へと嫁ついだ妹であるアリシェスタ第二王女の自室に居た。否、今まで元第二王女の自室となっていた。
アリスが王城から離れた後、エリシアが帰還した瞬間に妹が使っていた寝台や机等が全て破棄され、エリシアのドレスや宝飾品が所狭しに並べられていた。第二王女の自室は、今やエリシアの私物置き場に変貌していた。
大きな鏡が置かれた化粧台の前に、エリシアは侍女達から化粧を施されていた。王都内で行われるお茶会の準備の為だ。
「……このドレス、もう飽きたわね」
エリシアがそう呟くと、化粧をしていた一人の侍女に声を掛けた。
「ねぇ、貴女。このお茶会が終わったら、新しいドレスを新調しなさい。明日までにね」
問われた侍女が困惑した表情を浮かべた。
「あ、明日まで……ですか?」
「何? 出来ないって言うの?」
「か……かしこまりました。エリシア様……」
エリシアに睨まれた侍女は、震えながら頷いて応えた。対して、エリシアは侍女の対応に不満を感じていた。
(全く、アリスでさえわたくしの要望に従順だったというのに……)
妹のアリスは姉である自分の言う事を素直に従っていた。そうなるように、自分が育て上げたのだ。アリスを手足のように動かすことで、第一王女の威厳を保っていたのだ。
しかし、最近になってアリスの存在を疎ましく思っていた。
生まれつき魔力がない半端者でくせに、自分と同等の生活しているアリスに嫌悪感を抱いていた。
だからこそ、今回のトルマレンへの旅路に兄であり、騎士団団長であるラザフォードに頼み込んで、護衛していた騎士達にアリスを『未開拓地』に置き去りを命じたのだ。護衛の騎士達もアリスに与えられた宝飾品類を報酬にすると聞いて、喜んで応じた。
その後、帰って来た騎士達から、アリスを『未開拓地』の森の中の置いてきた事を聞き受けていた。
アリスは森に捨ててから既に五日も経過している。今頃、魔物達に喰われているか、”黒髪の悪魔”達の慰めものにでもなっているだろう。
そんな事を考えながらほくそ笑んでいると、部屋の扉を叩く音が聞こえて来た。
「エリシア、入るぞ」
入ってきたのは、王太子のラザフォードであった。
彼は侍女達に退出を命じると、部屋にいた侍女達は作業を止めて部屋から出て行った。
「あら、お兄様。どうされたのですか?」
「父上から言伝だ。しばらく城を空けるそうだ」
「お父様が? どちらに?」
「”聖地”だ。他の二ヶ国の諸王達と”黒髪の悪魔”の対策について、会談を行うとの事だ」
”聖地”とは、ファルシオン王国を含めた三ヶ国の王家の始まりの地とされる場所だ。詳細な場所については、一国の主のみに伝えられるとされ、王太子であるラザフォードにも知る由もなかった。
「それで、俺がしばらく留守をあずかる事になった。くれぐれも、次期国王としての品格を落とす事はするなよ?」
「勿論ですわ。わたくしはアリスと違って、才能はありますもの」
「まぁ、あいつよりはお前の方が貴族や大臣共にも受けは良いからな」
ラザフォードはエリシアの容姿を見るなり、納得した表情になった。
「そういえば、あいつの話で思い出したが、大臣共から妙な話を聞いたな」
「あら、どんな話なのですか?」
ラザフォードは顎に手を添えて考え込んだ。
「レガリス皇国とモルダニア神聖国のそれぞれの王家から、『未開拓地』に追放された者が出たと噂話があったらしい」
「……ふーん。そうなのですか」
エリシアは、さしても興味がなさそうに応えた。大して面白味のない話に関心を示す事等、無駄でしかないからだ。
そんなエリシアの様子を知らぬまま、ラザフォードは話を続けた。
「ああ、何でも『未開拓地』に追放されたのは、あいつと同じ『魔力なし』の姫君との話らしいぞ」




