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日輪の防人と精霊の姫君 第一章 王国と大地編  作者: Yudai


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第二話 心の拠り所

「ふう……」


 時刻は昼を過ぎた頃。

 アリシアは王城内の庭園の一角で、水の入った桶を置いてベンチに座った。

 兄であるラザフォードへの手紙を持って執務室に入ると、机で書類を睨み付けていたラザフォードから「そこに置け」と目を合わせず言った。ただ彼の机の上に山積みにされていた紙の束から、業務に勤しんでいることは理解できたアリシアは、邪魔にならないように木箱を置いてそそくさと退出した。


 その後、アリシアは庭園の植物に水やりを行っていた。本来は庭師の仕事であるが、アリシアは庭園での仕事だけは積極的に行っていた。

 ここはアリシアにとって憩いの場であった。周りに咲いている花の甘い香り、植物の色彩が彼女の心を癒していく。前に気に入った花を自室で飾っていたが、エリシアに花瓶ごと駄目された。それ以降、庭園で手入れをしながら観賞する事が日課となっていた。


「クウゥ~」


 その時、何かの鳴き声が聞こえた。

 アリシアが振り向くと、小さな動物が目の前に現れた。それは金色の毛並みに二本の尻尾をもつ子狐であった。


「フロル」


 アリシアが名前を呼ぶ。フロルは再び鳴き声を上げ、アリシアの元に駆け寄り、彼女の隣に並んだ。


「待っててね、いまおやつをあげるから」


 アリシアは持ち歩いてた小袋の包みを開けると、赤い実を取り出した。クラムと呼ばれる木の実で、主にジャム等に加工して使われている。これらは、庭園の片隅に自生していたのを摘み取ったものだ。

 数個を手のひらにとってフロルの前に差し出すと、フロルはクラムを食べ始めた。その姿にアリシアから笑みがこぼれた。


「フロル、美味しい?」


「クウゥ~!」


 アリシアは、フロルの喜ぶのを見ながら、クラムの実を頬張る。甘酸っぱい果汁を味わいながら、庭園を風景を眺めた。


 フロルと出会ったのは、アリシアが七歳になる頃だった。

 いつものようにエリシアから魔法を受け、庭園で泣いていたアリシアの前に現れた。その日から、アリシアに寄り添うようになった。辛い時や悲しい時も、片時も離れずに側にいてくれた。

 物心がつくようになった頃にはアリシアの自室にも訪れるようになり、現在まで一緒にいる仲であった。

 今食べているクラムの実も、元々フロルが見つけてくれたものだ。この子がいなければ、エリシアにわざと食事を捨てられても、空腹感に苛まれる事はなかっただろう。


 以前に、アリシアの衣服や自室にフロルの毛が付いていたのをエリシアが見つけ、「アリスが無断で動物を飼っている」と悟られた事があった。しかし、フロルはアリシア以外の人間の気配を察すると、いつの間にか何処かに逃げて行ってしまう。その為、これまでフロルの存在はアリシアだけが知らない。


 フロルだけが、アリシアが唯一心を許せる存在であった。


「……さてと、そろそろ続きをやらないと」


 アリシアは徐に立ち上がると、桶を持って庭園の水やりを再開した。




           ◇




 その日の夕方。

 一日の仕事を終えたアリシアは、自室のにある長椅子に座っていた。

 窓から見える王都の城下町は、夕日によって赤く照らされて、幻想的な風景となっていた。


 この時間帯になると大抵屋内いる者は照明をつける事になっているのだが、アリシアの自室には照明器具が全くなかった、

 魔力がないアリシアは、照明用の魔導具を使うことが出来ない。無論、ロウソクやランプといった従来の照明器具もあるが、そうした類は火の魔法を火種にして灯すのが定石だ。

 侍女達も嫌がらせのつもりかアリシアの自室には照明類は用意せず、持ってきたとしても火のついていないランプが置かれた事もあった。


 だからこそ、まだ明るい内にしなければならない事があった。

 すると、カンカンと自室の窓を叩く音が響いた。

 アリシアが振り向くと、窓にフロルがいた。


「いらっしゃい、フロル」


 アリシアは窓を開けて、両手を添えてフロルの前に差し出すと、フロルは両手の上に飛び乗った。

 フロルを抱えたまま椅子に座ると、膝上に乗せる。


「また読んであげるね」


 アリシアは、テーブルに置かれた一冊の絵本を手に取った。


 "精霊姫の伝説"


 それがこの絵本のタイトルだ。


 マルスティア大陸の国々がまだ名も付けられていなかった神代の時代。この大陸に、精霊の力を宿した三人の娘が天から降り立った。

 一人目は、あらゆる生命に活力を与える『恵み』の力を持つ者。

 二人目は、全てに等しく命の息吹きをもたらす『癒し』の力をを持つ者。

 三人目は、穢れなるものを浄化させる『安らぎ』の力を持つ者。

 彼女達は自らの力を持って人間と動物に加護を与え、自然を豊かにしていった。その神秘的な姿から、人々は彼女達を『精霊姫』と崇め称えた。

 そんな中、『精霊姫』達は瀕死となっていた人間の男性に遭遇、彼らを手厚く介抱した。

 男性らは、『精霊姫』に懇親の介抱によって元気を取り戻していった。

 やがて、『精霊姫』達は救った人間の男性達と共に暮らし、世界に平和と繫栄をもたらした。


 この絵本は幼い頃、エリシアによって古い倉庫に閉じ込められた時に見つけたものだった。

 一目見た瞬間、何故かは分からないが、アリシアは絵本に釘付けになっていた。時間さえあれば、一日中絵本を読んで過ごした事もある程だ。

 フロルも絵本の内容をきにいっており、アリシアの自室を訪れるたびに読み聞かせていた。

 アリシアは、世界を幸せにしたという『精霊姫』と呼ばれた者に、いつしか興味を持っていた。

 

 しかし、王城の図書室で調べてみても絵本以外で、『精霊姫』に関する本や文献は見つからなかった。侍女達や兵士達にそれとなく聞いたこともあったが、誰もがそんな者は存在せず、ただのおとぎ話だと鼻で笑った。


(そろそろ、夕食の時間……)


 アリシアは絵本を閉じて窓を見ると、夕日が丘に沈み込んでいた。

 今頃、家族達は王族用の食堂で夕食を食べている時間帯だ。

 アリシアは食堂ではなく、自室で食事をしていた。食堂にいてもは家族からいないものとして扱われ、あったとしてもエリシアの陰湿な言葉を言われるだけである。

 

 アリシアが夕食を取りに行こうとした時、


「第二王女、おられますか?」


 突然、無機質な男性の声と共に扉がノックされた。

 アリシアは立ち上がって、扉の前まで歩み寄る。扉を開けると、若い騎士がその場に立っていた。


「どうされました?」

「国王陛下がお話があるとのことです。今から食堂へ来るようにと」

「……お父様が?」


 アリシアに驚愕の表情が浮かぶ。

 これまで、父親である国王からは冷淡な態度を受け、必要最低限の関わりしかなかった筈であった。

 前触れもなく急な呼び出しに、アリシアは不安に駆られた。

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