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日輪の防人と精霊の姫君 第一章 王国と大地編  作者: Yudai


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第十四話 新たな日常①

 熟睡していたアリスに、突如として軽快な音楽が鳴り響いた。


「な、何⁉」


 慌ててベッドから飛び起きて辺りを見回す。窓から日の光が差し込み、部屋の中は明るくなっていた。

 ベッドから降りて窓の外を見ると、斑模様の隊員達が外へ駆け出していた。隊員らが隊列を組んで並らび、叫びに似た掛け声がガラス窓を通して耳に響いてくる。

 その凄まじい隊員達の奇声に慄きながら見ていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「アリシェスタさん、起きていますか?」


 扉の外から空閑の声がした。

 アリスは簡単に身支度を整えから扉を開けると、服と同じ斑模様の帽子を被った空閑が目の前に立っていた。


 「おはようございます。すみません、昨夜に説明していませんでした。突然こんな大きい音が鳴って驚きましたよね」

 「い、いえ。驚きはしましたけど、大丈夫です」


 アリスは、空閑を困らせていないと感じて咄嗟に答えた。


 「それと、昨夜は延灯許可を申請出来なくて、本当にすみません。もしかしたら、眠れなかったんじゃないかって思いまして」

「そんな、わたしの方こそ無理をさせてしまい、申し訳ございません」

「いえ、アリシェスタさんが謝る必要はありません。俺の配慮が至らないせいで……」

「違います。元々はわたしがクガ様にご迷惑をお掛けして——」

「ストップ!」


 空閑は右手のひらをアリスの前にかざした。


 「……止めましょうか。これじゃ、昨日と同じになってしまいます」

 「……そう、ですね……」


 昨晩、空閑が残念そうな顔をしながら、灯りを付ける事ができなかった事をアリスに何度も詫びた。

 アリスは、こんなに相手から謝罪される事に慣れていなかった為、反射的に空閑に謝ってしまった。

 お互いに謝罪を行うという押し問答は、消灯時にもかかわらず部屋の灯りが付いているのに気づいた巡回の隊員が来るまで続いてしまった。


 アリスは暗くなった部屋に寝る事に不安があったが、駐屯地内の外灯の光の一部が窓から注がれていた。何よりも、空閑がくれたケミカルライトが思いのほか明るかった。そのおかげで、普段フロルに照らして貰う必要もなく眠りにつく事ができた。


 気まずい空気が流れる中、自分達の名を呼ぶ声が聞こえて来た。振り向くと、安里三曹がこちらにやって来ていた。


 「おう来たか、安里三曹。それじゃあ、アリシェスタさん。着替え終わったら教えてください」

 

 空閑は、そう言って隣の部屋に入っていった。残されたアリスに、安里三曹が『みじたくをてつだいますね』と書かれた紙を見せた。


 アリスは返答して、安里三曹と共に身支度を整える為に部屋へ戻った。





     ◇






 アリスはフロルと共に食堂で朝食を済ませた後、午前中は空閑と安里三曹に連れられて駐屯地内を散策して過ごした。


 アリスは、安里三曹と共に選んだ白いブラウスと茶色のロングスカート、そしてすにーかーと呼ばれる靴を履いていた。

 駐屯地内では、時々すれ違う隊員達と会話する事もあった。主に筆談によるやり取りであったが、皆が笑顔で優しい言葉で自分に語り掛けてくれた。


 王城で過ごしていた時は冷めた目で見られ、陰口を聞かされていた。

 だが、ここでは空閑を始め、誰一人として敵対している筈の自分の事を見下す事も蔑む事もしない。ファルシオン王国やマルスティア大陸の人間達が恐れおののく”黒髪の悪魔”と呼ばれるニホン人は、アリスが抱いていた風貌や印象とは全く異なっていた。


 午前中の散策を終え、アリスは食堂で昼食を食べていた。おむらいすと呼ばれる卵とこめというニホンの主食を合わせた食べ物の美味しさが口に広がっていく。その横では、フロルが自身に用意された魚の切り身を頬張っていた。


 空閑は、アリス達と向かい合うようにして昼食を取っていた。

おむらいすの感想等といったたわいのない談笑をしていると、一人の隊員が空閑に声を掛けて来た。隊員が紙の束が貼り付けてある黒い板状の物を空閑に渡すと、敬礼をして去っていった。


 空閑は、渡された紙束を一枚ずつ目を通していく。


「クガ様、どうされたのですか?」

「ああ、今日の午後に本国からやって来る輸送艦の荷物の確認です」

「ゆそうかん?」

「我々が保有している船の事です」

「船、ですか?」

「ええ、この駐屯地は海辺近くに建ってますから」

「……海」


 マルスティア大陸の内陸部で暮らしていたアリスにとって、今まで海を見たことがなかった。よくエリシアから、大陸で唯一海に面している隣国のレガリス皇国での旅行の自慢話を何度も聞かされた。


 王族の恥として疎んじられたアリスは、周囲からその存在を隠す為に王宮から出る事は許されていなかった。それ故、外の世界に憧れていた。今回、政略結婚でトルマレンのコルベ家に嫁ぐ事を受け入れたのも城での生活から抜け出せる事に加え、これまで見たことがなかった外の世界に憧れてを抱いていた事もあった。


(海……見てみたい)


 いつの間にか、アリスはスプーンを持つ手を止めていた。


「見てみますか?」


 不意に、空閑の声が聞こえて来た。


「えっ?」

「ここの浜辺の海、かなり透き通っているんですよ。俺も最初に見たときは、沖縄以外でこんな綺麗な海を見たことがなかったので、暇な時はよく浜辺で過ごしているんですよ」


 アリスは、自分の心が読まれていたと思って焦ったが、空閑の話からそれが勘違いだったと分かって安堵した。


「……良いのですか?」

「ええ、駐屯地内を見ているのも気が滅入りますし、少しばかり気分転換しましょうか」


 こうして、アリスの願望は図らずも叶ってしまった。

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