9.残留
私を引き留めたり理由が、トキタカ・インダストリーの娘である時点で。私の成績ではない観点で評価されているので、当然である。
「私たちのような一般学生が動員されると言うのに、彼が選ばれない理由がないので」
そして、大学生を動員する理由が、士官学校の機体整備を行う人員確保なら。士官学校の機体の中に、アルバートの専用機が入っていないはずがない。
「そうだね。彼含め、士官学校の機体も頭数に入れたいのが現状だ」
当然、優秀ならば、という頭言葉がつくのだろう。だが、下手な正規軍人よりも士官学生の方が優秀である可能性は高い。
エメリオス軌道第1学園区にある教育機関は、宇宙連合機関内でも最高峰のものだ。言い方は悪いが、辺境惑星出身の軍人よりもレベルが高い者が多いだろう。
「この艦には“カスタム機”はあっても、“専用機”は無いからね。正直、グリュードラー上級候補生の機体は魅力的だ」
カスタム機、とは量産機を改造し、専門性を高めたものを言う。長距離射撃なら機動性よりも精密性を、近接戦なら探査能力よりも反応速度を、と極端に能力を選択したものだ。
つまり、特定の状況下において、著しく能力を発揮するものの、汎用性は低い。
一方、アルバートのもの含め、専用機は基本的に5本指だ。他の機体に比べ、装備の交換が楽でなんでもできる。つまり、戦闘以外の宇宙活動でも使い勝手がいい。
そんな積極的に運用したい情報を、都合よく持っている人物。それが私だ。
「あとは、君が徴兵された方が、トキタカ・インダストリーも焦って武器供与してくれないかな、とか、色々理由はあるけど」
「供与は変わらないでしょうね。現時点では私が会社を継ぐ予定ですが、別に私でなくてはいけない理由もないので」
幼少期からの教育もあり、現時点で最も会社を継ぐに相応しいから、後継なだけだ。会社に不利益をもたらしてまで助けはしない。
家族仲はいいし、今の父からも愛されているとは思う。だが、従業員を路頭に迷わせるような事はしないだろう。別の理由で私が艦から降りる方法を取ると思う。
「謙虚だね」
「……それは、違います」
事実を並べただけだ。一度死んだ記憶があるから、少しだけ、外から自分を見れているだけだ。
「腕も中々良いけれど、何よりいいのは、その慎重さだ。今だって、返事一つに気を遣っているし、常に俺の顔色を見てる」
他三人の作業も気にして、随分疲れてるんじゃないかな。そう言うエンブレイに、微笑み返す余裕はなかった。
「__シオリ、最終確認、お願い」
「時間切れだね。確認しなくても大丈夫、できてるよ」
タイミング良く、ベラを含めた3人の作業が終わったらしい。視線を向けると、ひらひらとエンブレイが手を振り大丈夫だと言うが、その言葉を鵜呑みにはできない。
「いえ、念のため、確認させてください」
「いいよ」
固定すべき箇所、掛けるべき力。補充された燃料の量。基本動作も問題なし。
「最終確認、よし。作業を完了しました」
報告をすれば、よくできました、と目を細められ。小さく会釈をすれば、他の班も続々と作業が終わった声が上げられる。
全班、大きな問題なし。整備完了。ゴルドから、そのお墨付きが与えられた。
「シュタール主任」
「文句はねぇよ」
ゴルドも私たちの技術を少しは認めてくれたらしい。これで、正式に艦に残ることができるだろう。
「では、シオリ・トキタカ技術候補生」
「はい」
エンブレイに名を呼ばれたので、背筋を伸ばし、一歩前に出る。一人だけ呼ばれたと言うことは、上級技術候補生への格上げだろうか。
わかりきった作業を確認する暇はない、と言うことなら納得できる。静かに息を吐き、エンブレイの言葉の続きを聞くべく、顔を上げると。
「俺の権限で、臨時メカニックに任命する」
臨時、メカニック。上級技術候補生を一つ飛ばして、メカニック。自己判断での整理だけでなく、他の候補生を動かせる立場である。
恐らく、アルバート専用機の整備を丸投げしたいのだとは、思う。
そうなると、一々整備工程の確認を取らなければならない上級技術候補生より、臨時とはいえ独立性のあるメカニックにした方が早いと思ったのだろう。
だが、これは、絶対に、火種になる。でも、断ることはできない。既に、エンブレイは上官なのだから。
それに、アルバートを助けるために、頑張ると決めたのだから。
震えそうになる声を、精一杯押さえつけて。指先までしっかり伸ばして、敬礼。
「……拝受しました。期待に応えるべく、力を尽くします」
「主な仕事はグリュードラー上級候補生の専用機体整備。勿論、正規メカニックからも人員をつける。人選はシュタール主任に一任する」
「……おい、それは」
ゴルドがエンブレイを睨みつけた。今のは、言い方が大変良くない。
専用機体整備の丸投げは予想通りだが、その言い方では、正規メカニックが私の下につくように聞こえる。
私だけに任せられない、という言い方ならば角は立たないが、この言い方では。
案の定、数人のメカニックから鋭い視線が私に向けられる。
軍属メカニックの多くは士官学校技術科出身だ。歳が同じくらいでも、私たちが大学で学ぶ時間を現場で働いている。
そのことに誇りを持っているだろうに、ただ専用機を作った家の娘だからと優遇されれば、気に食わないに決まっている。
「仕事は明日から。他の学生は、上級技術候補生に格上げが四名。仕事は士官学校所属機体の基礎整備。後の二名は技術候補生として整備補助を命じる」
ベラと同じ班だった同級生男子は上級技術候補生に格上げ。同じく、後輩も技術候補生として残るようだ。
なるべく、この3人、特にベラと同じ配属だといいのだが。明日からの仕事に不安しかない。
「じゃあ、期待してるよ」
それだけ言い残し、エンブレイは格納庫から出て行った。少し遅れて、艦から降りるよう指示された学生たちが、反対側の扉から出ていく。
艦に残る私たちは、学生からはじっとりとした目で、メカニックからは鋭い目で見られながら。
ゴルドが居住区へ案内してくれるまで、ただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。




