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7.選別

 突然の放送に、集まっていた大学関係者に動揺が広がる。今の放送を聞く限り、艦内に残るのは士官学校の候補生だけでなく、大学の技術候補生も残ることになるからだ。


 私やベラを含めた付属大学の工学系で三年生までの授業を修了している生徒は、技術候補生の身分を既に得ている。当然、大学院生や教授、技術職員も該当するだろう。


「どうして技術候補生まで……」


 困惑するベラに、私は小さく息を吸ってから、答えた。


「多分、士官学校の機体を整備する人手が足りないからだと思う」


 戦艦ティケオンは、ラフィネ・フェニーチェ大佐率いる精鋭部隊である。本来、フェニーチェ大佐は戦艦一隻だけでなく、幾つかの艦隊を指揮できる立場だ。しかし、敢えて数を減らし、ティケオン一隻に戦力を集中させるより、迅速に行動することを可能にしているのである。


 一隻に集中することにより、他の艦との連携の必要性が無く、機動力は向上する。さらに、搭乗者が減れば、補給の手間も減り、指示系統の複雑化も防ぐことができる。


「だから、機体整備に関連する技術がない人は、安全区画で降ろしてもらえると思うけど……」


 在学中に技術候補生の資格を得ることがない文系学部の学生は勿論、農学系やデザイン、建築系の学生も非常員から外されるだろう。周囲から安堵のため息が漏れる。


 一方、ベラの表情は硬いままだ。


「それじゃ、私たち機械、化学に電気系は……」


 残される可能性が、極めて高い。頷くと、ベラは深く溜息を吐いた。


「……特に、シオリは残されるでしょうね」


 確かに、私の専門は機体開発系で、実家はトキタカ・インダストリー。整備補助の経験も多い。学生の中では、残される可能性が高いだろう。


 そもそも私は、アルバートを守るため、この艦に乗りたいと思っていた。残されるのは、都合が良いのだ。


 でも、ベラは違う。この艦に残る理由は無い。専門は機体制御に役立つ分野だ。が、ベラが目指しているのは医療補助系のロボット制御であって、兵器の駆動制御ではない。


「ベラ……」


 不安、なのだろう。当然だ。そんな中、私が残ると言ったら。ベラは何と、返事をするだろうか。


 じ、と掛ける言葉を考えていると、ベラは明るく笑った。


「附属大学に入った時点で、非常時の動員には同意してるもの。どこにいても同じなら、シオリと一緒がいいし、頑張るわ」


 私たち学生は艦から降りることになっても、教授が非常員として残れば授業どころではない。


 母星に最も近い学園区で襲われるなら、どこにいても危険は同じという考え方も理解できる。


 この艦、ティケオンが何度も主人公たちと戦うことは事実だ。しかし、他の場所が被害を受けないとは限らない。


 今日の襲撃のように。アニメで明かされていないだけで、革命軍は民間区への攻撃を繰り返すのかもしれない。


 ならば、最終回直前までは、この艦にいることが、逆に安全になるかもしれない。そう思って、私は小さく頷いた。


「まあ、私たちが決めることじゃないけどね。ほら、みんな並び始めてるから、行きましょう」


「うん」


 後方にいた私は気付かなかったが、反対側の通路に列ができていた。放送にあった上官が到着し、非常員の選別が始まったのだろう。


 大学関係者の人数に対して、列の進みはかなり早い。最後の方に並んでいた私たちが呼ばれるまで、10分も掛からなかった。


「次、所属と名前を」


 この艦の乗員だろう。軍服を着た二人組が通路の両脇に立っていた。ベラと一緒に一歩前に出て、それぞれ名乗る。


「附属大学工学部機械工学科、ベラ・シモンズ」

「同じく附属大学工学部機械工学科、シオリ・トキタカ」


「第二格納庫に向かうように」

「「はい」」


 示されたのは細い廊下を道なりに進めば、指定の場所に到着した。見知った顔が多い。怪我の心配をされながら、来た順に並んでいる列に加わった。


「全員、揃ったな」

 

 少しひび割れた、低い声が格納庫に響いた。声の主は、裾が黒ずみ、関節部が擦り切れて薄くなった作業着を着ている、筋肉質な男。


「ゴルド・シュタール。主任技術士官だ」


 整備だけでなく、戦艦ティケオン全体で、技術分野の頂点に立つ人物ということだ。


 ゴルドは鋭い眼光で私たちを端から順に見て、小さくため息をつく。そして、自身の後ろ、格納庫に並ぶアイゼルダート達を指し、言った。


「指示は聞いたな? お前らは学生じゃない。この艦の“メカニック”になる。主な仕事はアレらの整備だ」


 整備といっても、基本的な損傷チェックや燃料補給、センサー類の動作確認といった日常点検の範囲が任される。

 当然ながら、戦闘で損傷した機体を扱う、などマニュアルにない作業をすることはない。


 良かった、と誰かが呟いた。その時。


 ダァン、と派手な音が立つ。ゴルドが足を踏み鳴らしたのだ。ビリ、と緩みかけていた空気が張り詰めた。


「とはいえ、実力が無い奴に任せる仕事はねぇ」


 ならば、どうするのか。尋ねる必要はなかった。


「__今から、選別を始める」


ゴルドが言うと同時に、20名程度の正規メカニック達が整列した。乱れのない動き。メカニックとはいえ、軍人であることが、よくわかった。


「後ろにいるのは見ての通り、正規のメカニックだ。こいつらの前で、基本的な整備作業をしてもらう」


 集められた機械科の学生は80人。大学は一学年40人ずつなので、2学年の人数。よく見ると、教授や院生はいない気がする。


「試験官は俺を含めて21人だ。3人から4人で班を作れ」


 学生達が顔を見合わせる。ゴルドの態度からして、時間が掛かりすぎたら、全員足手纏い扱い間違い無しだ。


 危険な艦内に残りたくなくても、役立たず扱いされるのは自尊心が許さない。正規軍からの心象を悪くして、将来にケチを付けたくない。


 様々な思いが混じり合い、みるみる班ができていく。が、しかし。


「__予想通りだけど」

「私たち、避けられてるわね」


 近未来であるゾナ・フロンティアの世界でも、機械系に進む女子は少ない。この場にいる女子は、私とベラだけ。


 自由に班を組めと言われると、なんとなく男子だけで組みたくなるもので。


 私とベラは、声を掛けようにも目を逸らされ。結局、ぽつんと一人取り残された同学年のと、大グループで余って不貞腐れた後輩男子と組むことになった。


「お前達の試験官は俺だ」


 試験官はゴルド。後輩ほどわかりやすく顔を顰めはしないものの、ベラも少し苦い表情だ。


「よろしくお願いします」


 代表して挨拶をすると、ずい、と目の前に紙を差し出された。しっかりとした一枚紙だ。


「作業手順書だ。まずは質問を受け付けない。できるところまでやってみろ」


 読もうと思った矢先、勝気な表情の後輩が私の手から手順書を取った。


「……ふーん、結構簡単じゃん」


 彼は手順書をざっと確認すると、気弱そうなもう一人の男子に手順書を押し付ける。


「作業内容自体は、実習でやったものと同じ、かな?」


「かな。シオリ、合ってる?」


「うん。共通規格で作業手順と内容は決まってるから」


 順に手順書を読んで。共通規格に規定されている、最も基本的な作業だと確認した。


「先週やったのと同じか。余裕余裕」

「道具のチェックできたよ。……シオリ?」


 作業手順をもう一度頭から、一語一句見落とさないよう確認をする。変わった点はない。


 ベラが道具を準備してくれたが、作業は始められない。


「ちゃっちゃと終わらせようぜ」

「待って」


 後輩を止めるも、彼は怪訝そうに眉を顰めた。


「は? なんだよ、アンタ、主席って聞いてたけど、ンな簡単な作業もできねぇのか?」


「違う。指示は『できるところまでやってみろ』でしょう?」


 ちらり、とゴルドに視線を向ける。が、何も言わない。


 他の班は、既に作業を始めているところが多い。みんな纏めて不合格だな、と息を吐いた。


「だから今からやるんだろうが」


「私たちは、『できない』から、ここで終わるのが正しい」


「ハァ?」


 そういうと、ベラはすぐに気付いたらしい。手順書を見て、なるほどね、と小さく頷いた。


「……シオリの言う通り、できないというか、何もしないのが正しいよ。私も、忘れてたから人のこと言えないけど」


「あ、そうか。トキタカさんも、流石に上級技術候補生は取ってないから__」


 そう、私たちは技術候補生。許可されているのは整備補助までであり、上級技術候補生以上による具体的な作業指示がない場合は、整備を行ってはいけない立場なのである。


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