25.警鐘
第一格納庫にて、予備のアイゼルダートを緊急で整備し、発進準備を整えていく。
予想通り、予備機体のエネルギー残量は不十分で、完全な片道切符になるだろう。
「シオリ、本当に行くの?」
「心配掛けてごめんね、ベラ」
でも、もし、アニメ通りの展開になれば、危ないのは私だけではない。最悪の場合、戦艦ティケオンも堕とされる。
アニメでは何度か戦った戦艦リヴォルツィオーネとは、結局、ロヒュードル以来出会っていない。
その時点で原作からズレている上、アルバート専用機は改造の末、『ノクティア』になっている。他の機体も能力が底上げされているが、危険なことに変わりはない。
「……ちゃんと、帰ってきてね」
でも、それは、ベラは知らない__知らなくていい話だ。だから、私は自分を勇気付けるためにも、笑ってみせた。
「大丈夫。カフェじゃなくて、スイーツビュッフェ、予約しよっか」
「そうね」
カフェを奢る約束も、随分重ねてしまっている。ここは景気良く、スイーツビュッフェに格上げしてしまっても良いだろう。
ベラと手を握りあい、約束している合間に、他の準備も終わったらしい。レックスがコックピット横まで上がって来た。
「シオリ先輩、装置の準備できた。エネルギー管も繋いである」
「ありがとう、レックス」
「別に」
指示された通りにやっただけだから。そう言って視線を逸らすレックスにお礼をしたい気持ちもあって、冗談混じりに提案する。
「レックスも行く? ビュッフェ」
レックスは目を丸くして、少し考えてから、口を開いた。
「甘いものより、肉がいい」
「わかった。焼肉ね」
こくり、と頷くレックス。初対面の時はどうなるかと思ったが、良い関係を築けて良かった。
機体の動力炉から直接、管で繋がれた停止装置。取り付けはしっかりとされている。頼もしい後輩だなと微笑み、ヘルメットを被った。
「おい、座標はわかってんのか?」
「はい。位置情報は補足しています」
「気をつけろよ」
「ありがとうございます」
確認に来たゴルドと言葉を交わし、一礼してからコックピットに乗り込んだ。ハッチが閉まり、一瞬の闇に包まれた後、モニターが起動し周囲の景色が見えるようになる。
各部の状態に、異常なし。頭の中で手順をもう一度おさらいしてから、左手で操縦桿を握り、右手で通信装置をオンにする。
『シオリ・トキタカ。発進準備完了。許可を願います』
通信装置を、受信側に変更。操縦桿を握り直して、発進許可を待つ。ごくり、と喉が大きく鳴った。
『発進を許可します。第1射出レーン、待機完了』
指示されたレーンまで、機体を歩かせて移動。足を発進レーンに固定して、再び通信装置を発信側に変更。
『シオリ・トキタカ。発進します』
宣言の直後、凄まじい加速によって、背中から椅子に叩きつけられた。
「……いたた」
発進時の衝撃に痛む体を労る暇はない。唇を引き結び、モニターを確認する。
「予定ルート上に敵の反応なし。アルバートの座標は、もう、研究施設の方に……」
だが、敵の反応はない。原作では、戦艦とアイゼルダート、双方での戦いが始まった後、リヴォルツィオーネから飛び出した二人を追いかける形でアルバートは研究施設に向かったはずだ。
しかし、今は、アルバートが一人、先回りをしている形になる。今うちに、と期待を加速させ、研究施設へ向けて一直線に宇宙を駆ける。
「__距離、残り50、40、30、20」
しかし、今は、アルバートが一人、先回りをしている形になる。今うちに、と期待を加速させ、研究施設へ向けて一直線に宇宙を駆ける。
「__距離、残り50、40、30、20」
表示される、味方機の識別反応。距離を見ながら、正面の光景を確認する。残り、10キロメートル。
「……見えた!!」
いつでも動けるよう、大剣を構えたアルバート専用機『ノクティア』の輪郭を捉え、私は操縦桿を逆に倒した。
減速により前に放り出されそうになる体を、ベルトが悲鳴を上げながら支え、停止する。
正規パイロットでは__いや、士官学生でもありえない、ぎこちない動作を見て、対応に迷ったのだろう。
『……こちら、アルバート・グリュードラー。ティケオン所属機、応答求む』
通信回線越しでも分かる、困惑した声だった。苦笑しながら、通信回線を操作し、答えた。
『こちら、シオリ・トキタカ。アルバート・グリュードラー上級候補生に、敵機エネルギー増幅機構の停止装置を引き渡しに来ました』
『__シオリ?』
はい、と答えながら、『ノクティア』にライフル型の停止装置を見せる。
しかし、その装置と私の乗る機体が繋がっていることに気が付いたのだろう。アルバートが声を上げる。
『シオリ、何を考えて……』
『こうする必要が、あったので』
口頭で簡単に、敵機体の無尽蔵のエネルギー源と、停止装置についての説明をする。
停止装置の使い方は、敵の『ZONA粒子』を使用している装置に向けてトリガーを引くだけ。とても、簡単だ。
『__そうか。そんな、技術が』
だが、莫大なエネルギーが必要となるため、運搬を兼ねて予備のアイゼルダートをエネルギーパック代わりにしようと考えたことも、全て説明した。
『だが、君が無理をする必要は……』
『私の開発した装置です。説明役には、最も適しています』
『確かにそうだが……、わかった、取り敢えず、俺の機体から離れないでくれ』
そう言いながら、アルバートが停止装置を受け取ろうとした瞬間。
『えっ、な、なんで……!!』
『待ち伏せ!? こんな所に……!!」
距離が近いことにより、混線したのだろう。通信機から、ヴェンとユミトの__敵の、困惑した声が聞こえた。
『この声、ロヒュードルの__!!』
アルバートが、私の機体を背に庇い、大剣を持たない左手で腰の小銃を取り、威嚇射撃を行う。
瞬時に、敵の方角を察知したのか。まだ豆粒程度にしか見えない敵機に反応したアルバートに驚く私とは違い、ヴェンとユミトは威嚇射撃を難なく交わす。
回避した勢いを殺さず、ユミトの『ホープレイ』が近付いてきて、その輪郭が視認できるようになった、その時。
『ユミト、どうしよう、機体の制御が……!!』
ガクン、と『ホープレイ』の隣の機体__ヴェンの機体が、突然、動きを変えた。
『子供とはいえ、容赦はしない!!』
迎撃体制をとるアルバートに対し、ユミトも武器を構えていたものの。此方__旧研究施設に近付くほど、ヴェンの機体は蛇行を始める。
『ヴェン!!』
『ユミト、行って!!』
『駄目だ!!』
ユミトの『ホープレイ』がその手を掴み、軌道を修正を試みる。しかし、あまりの力に、その手は離れ、ヴェンの機体は金の光を発しながら、此方に突っ込んでくる。
『あの機体、突っ込んで来て__!!』
ぎゅ、と心臓が“何か”に握りつぶされるような、心地がした。
胸が痛い。息が詰まる。喉はカラカラで、頭に警鐘が響き渡る。背筋は凍りつきそうだ。
駄目だ。このままでは、同じことが起こる。
__原作通り、アルバートが、死ぬ。
『う、ぐ、__わぁぁあああ!!』
ヴェンの悲鳴。迫り来る金色の光。剣を構え直し、迎撃体制を取るアルバート。
このままでは、原作通りの展開になる。アルバートに、停止装置を使って貰わなくては。
球が詰まったような喉から、なんとか、声を絞り出す。
『この一帯の粒子のせいで、暴走してます!!』
だから、停止装置を使ってほしい。しかし、アルバートは少しの迷いを見せた後、私の機体を振り返り、はっきりとした声で言った。
『悪いが、やられる訳にはいかない__!!』
背に、私の機体がいるから。確実に撃墜する方を選ぼうと、している。その判断は、パイロットとして正しい。でも。
『敵機を撃墜すれば、一帯の粒子濃度が上昇し、もう一機が暴走する可能性があります……!!』
嘘では、ない。偶然『ホープレイ』は周辺一帯の『ZONA粒子』を制御し力に変えただけで、普通の機体なら暴走している。
だから。祈るように言う私に、アルバートは剣を手放し、右手でライフル型の停止装置を構えた。
金色の輝きは、もう、眼前にある。がしゃん、と音がして、体が横向きに叩きつけられた。
『俺は、今度こそ守ると、決めているんだ……!!』
青い、真っ直ぐな光が、銃口から放たれた。




