24.覚悟
「__成功、した」
停止装置の銃口から放たれた青い光は、金の光を覆い尽くすように光り、消えた。
その場には静寂と光の消えた装置だけが残っており、実験が成功したことを直感した。
遅れて、数値はどうなっているか、モニターを見ている協力者に視線を向ける。
「『ZONA粒子』発生装置、停止を確認。周囲に反応無し」
つまり。
「__成功です!!」
一拍遅れて、わっと歓声が湧き上がった。常であれば、そのまま胴上げでもしそうな雰囲気だが、全員疲弊し切っていることもあり、喜びより安堵の色が強い。
「良かった……」
そういう私も、深く息を吐き、無事の成功に胸を撫で下ろす。嬉しいが、喜ぶのは、もう少し後になってからだ。
「シオリ、次は?」
まだ、私には、やることがある。ベラの言葉に頷き、気合いを入れ直す。
「外付けエネルギーパックの選定。レックス、在庫は?」
艦内にあるエネルギーパックの確認は、レックスに頼んでおいたはずだ。声を掛けると、すぐにバインダーが差し出された。
「表は作ってるけど、付けられるのか?」
「規格は同じだから、大丈夫と思うけど……」
基本的に、エネルギー供給用の配線類は統一規格で作られている。余程特殊なものでない限り、停止装置には使えるはずだ。
必要なエネルギー量は、今の実験から予想できる。ある程度の余裕を持たせて選べば。
表の上から順に、目を通している途中で。
艦内放送が響き渡った。
『__全艦に通達。惑星オークニス近郊にて、革命軍の戦艦1隻を発見。惑星オークニス軌道上の旧研究施設に向けて移動中と推測。アイゼルダート部隊は出撃せよ。繰り返す』
「間に、合わな__」
刻限を告げる放送に、頭が真っ白になっていく。そんな私の肩を、ベラが掴んだ。
「シオリ、『金鷲』様を呼び止めて__」
「流石に無理だろ」
落ち着け、とレックスが言う。
どうしよう。ここまで来て、間に合わなかった。次に何をすればいいのか、私が指示を出さないと、他の人も困るのに。
何も言えない。纏まらない。まず、何から考えるべきだっけ。動かなきゃ。でも何を。頭の中が堂々巡りで、意味なく手を伸ばした時に。
「お、完成したのか?」
「そうみたいだね」
自分より決定権の強い存在__ゴルドとエンブレイが、姿を現した。二人は、私の横まで歩いてくると、無言で手を出した。
困惑しつつ、資料を差し出す。ゴルドが軽く頷き、パラパラと資料を捲る音が、やけに耳についた。
「相当、機能を絞ったみたいだな」
「現実的な判断だね」
複雑な機構だと間に合わなかっただろうから。エンブレイは出来の良い生徒を褒めるような笑みを浮かべながら、資料を返してきた。
「さて、トキタカ嬢。新兵器__というより、敵兵器の停止装置、と言った方が正しいかな? 取り敢えず、完成おめでとう」
「ありがとう、ございます」
確かに、新兵器とは言えない。絞った機能の中には、波形の取り込みなしに発射するためのものもある。
つまり、敵の『ZONA粒子』を利用した機構を止めること以外できないのだ。
新兵器ではないから認められない、と言われるだろうか。エンブレイを見るが、口の端を僅かに上げられるだけだ。
「君が何処まで戦局を見据えているのかはわからないが、大変実用的だと思うよ」
「……ですが」
問題点は、自分が一番理解している。資料を読んだだけとはいえ、技術者としての場数が違う二人が気付いていない訳がない。
「そうだね。既にパイロット達は出撃済み。その上、停止装置の起動には大量のエネルギーが必要だ」
当然だが、装置の特徴上、エネルギー源として『ZONA粒子』を利用することはできない。
そして、現在ティケオン艦内のエネルギーパックでは、実戦では到底足りないだろうとエンブレイは言った。
実験とは違い、照準が定まらない可能性もある。敵機の出力が向上している可能性もあるため、三発分は余裕を持たせるべきだと、彼は言う。
「さて、どうする?」
問われるが、私の考えは、変わらない。
「__停止装置は、必要になると、思います」
戦いの中で、必ず。アルバートを、戦艦ティケオンの皆を、生き残らせるには、停止装置が必要になる。
惑星ロヒュードルで感じた、原作の補正能力が立ち塞がるだろうと、確信めいた予感があった。
「うん。それで?」
問い続けるエンブレイに、ゴルドは呆れたように肩をすくめる。が、この問いからは、一切逃げてはいけないと、鈍色の瞳を正面から見つめ返す。
それで、どうするか。方法は殆ど残されていない。
「使用方法の説明、エネルギーの供給、装置の運搬……、予備の機体に乗って届けるしか、ありません」
それも、停止装置を理解している人間が、だ。予備の機体をエネルギーパック代わりにすれば、恐らく、エネルギーは足りるはず。
「幸い、予備の機体はある。けれど、エネルギーを供給したらどうなるか、開発した君ならわかっているだろう?」
小さく頷く。艦内エネルギーも無限ではない。予備の機体には整備や移動に必要は、最低限のエネルギーしか供給されていない。
今から供給しても、時間がない。普段使っている機体の半分にも満たないだろう。そんな機体で行けば、どうなるか。
「帰還は、難しいかと」
行って帰るだけなら、多分、問題はない。しかし、行く先は戦場だ。一直線に行けるものでもない。
その上で、停止装置を使用するためのエネルギーを全て供給すれば。状況によるが、無事に艦まで帰るほどのエネルギーは残っていないだろう。
運搬役の安全は、一切保証されない。
だから。
「……私が、届けます」
「シオリ!?」
「おい、本気か?」
ベラとレックスが声を上げる。本気じゃなかったら、こんなこと言えるはずがない。
荷物の中から一枚のカードを取り出し、エンブレイに渡す。
「作業用機体は免許も持っていますし、簡単な操縦訓練なら、受けたことがあります」
実家の関係上、他の人よりは、機体を扱えると思う。そんなことは、大した理由にはならないけれど。
「使用方法の説明も、私なら、問題ありません」
使用法は理解している。一番、停止装置が必要となるタイミングを知っている。その時に使いやすいよう、ずっと、何度も考えたのだから。
「それに、他の人には、頼みにくいですから」
皆、協力してくれたけれど、それは安全な艦内で実験していたからだ。
メカニックは艦で機体を整備して、待って、良い状態で戦場に送り出すことが仕事。新兵器の開発や調整はしても、全て、艦の中で完結する。
自分から戦場に行くなんて、メカニックの仕事じゃない。だから、こんなことを言う私は、多分、メカニックに向いてない。
「君は、それでいいのかな?」
研究者にも、なりきれない。本物の研究者なら、装置は間に合っただろうし、研究室から出て危険を犯すより、新しいものを研究すべきだ。
でも、私が、研究者になりたいと、思った理由は。
「__彼が、勝てるなら」
アルバートに死んで欲しくない。それだけだったのだから。いいのだ。
__2回目の人生。1回目は、予想外の場所で、事故のような死に方をしたんだ。覚悟を決められるだけ、前よりずっと良い。
この偶然、拾った命で。あの日、どんなに手を伸ばしても意味がなかった“もしも”が、見られるのなら。
「私が、行きます」
その宣言に、エンブレイは鈍色の瞳を緩めた。
「君がそう言ってくれて良かった。シャランド艦長とラフィちゃんは説得しておくよ」
だから、気にせず行ってきて良い。その言葉に、私は強く頷いた。




