23.未完
アルバート専用機『ノクティア』の名称は、本人が気に入ったこともあり、正式に採用された。
パーツ性能の向上により、大幅に改善したエネルギー効率の影響は凄まじかった。
移動中の突発戦闘ではアルバートが敵機3機を撃墜、一機を鹵獲という大活躍を遂げた。
整備規格から外れない、細かな調整の痕跡は、正規メカニックにも伝わったらしい。
まだ態度はぎこちないものの、技術は認めてくれたらしい。仕事も円滑になり、新兵器開発の時間を取りやすくなった。
しかし、新兵器開発のための時間は、幾らあっても足りないのが現実で。
「惑星オークニスまで、あと三日……?」
試作品第一号がようやく完成した日には、残された時間は、数日もなかった。
「おい先輩!! 次の指示!!」
「ごめん、ひとまず、小規模実験から……」
「シオリ、次の試作品準備って始めていい?」
「お願い。多分、一号は失敗すると思う」
失敗のないようにと進めていても、最初の試作品はどこか欠陥があるものだ。あまり考え過ぎずに実験してみないとわからない。
すぐに同じものを作れるように、材料と人員は準備して、実験中の動画も撮影してもらう。
「鹵獲した敵機から、対象技術が利用されたパーツを取り出せました!!」
「コンヴォルフ中佐とシュタール主任に報告をお願い」
『ZONA粒子』が使用された動力炉や武器の報告書の雛形を作って、次の計画を立てようと椅子に腰掛ける。
深く息を吐き、眠気覚ましのコーヒーを一口飲んだところで、他のメカニックから声が掛かる。
「トキタカさん、他機体も機体調整して欲しいって__」
「ごめーん、シオリさん、オレの機体もやって〜〜!!」
「……暇な時に、頼みたい」
ラヴィテスとスィランス、他、直接頼みに来たパイロット達の機体調整も行い、決戦に備える。
他のパイロットがより動けるようになれば、戦艦ティケオン全体の、ひいてはアルバートの生存確率が上がると信じて。
「おい、報告書を……って、やばい顔だな。仮眠しろ」
「あちこちから仕事が降ってきてるだろうからね。仕方ない。ラフィちゃんには俺が報告しておくよ」
指示書は配っておいてやる、とゴルドから気を遣われつつ、やってもやっても終わらない作業と戦うこと、二日。
「ようやく、鹵獲機の動力炉を使って実験ができる……!!」
短期間、同時並行で試作・実験・改修を繰り返し、なんとか実践投入前の実験まで漕ぎ着けることができたのである。
だが、推定・最終決戦の地、惑星オークニス到着まで残り一日。厳密に言えば二十時間しか残っていなかった。
実験を重ねた結果、おそらく、敵の『ZONA粒子』を利用した兵器を打ち消すことはできる。
鹵獲した機体を分析しているから、パーツが出力に耐えきれないということもない。が、問題は動力炉、エネルギー源だ。
既存機体の動力源では、『ZONA粒子』停止装置は出力が足りない。しかし、既存機体の動力を丸ごと入れ替えるようなことはできない。
戦闘の邪魔にならない、外付けのエネルギーパックなどが必要になってくる。
とはいえ、一番難しい技術的な部分は殆ど完成しているのだ。外付け部品に関しては、実験が終わってから選定すれば間に合うはず。
そう思った、矢先。すっかり聞き慣れてしまった放送音が、艦内に響き渡った。
『__全艦に通達。当艦航行ルート上に、革命軍の反応を確認。戦艦2隻、想定保有機体数15。これより第一種戦闘態勢へ移行する。繰り返す』
完成を前に、遂に、最終決戦が始まってしまったのだ。敵戦艦は単独ではない。つまり、戦線に参加していると考えた方がいい。
本格的な戦いが、始まる。
『__整備班に通達。各機発進準備完了後、ブリッジに集合すること。繰り返す』
新兵器開発には、整備班の殆どが参加してくれている。ブリッジに集められた理由は、完成間近の試作品をどうするかだろう。
「どうしよう……」
間に合わないのか。ここまで、頑張ったのに。状況を考えると、アルバートが出撃しない、なんてことはないだろう。
革命軍が戦況を覆すため、研究施設を改造した巨大兵器のもとへ向かう時。それが、タイムリミットだ。
それまでは少し時間があっても、アルバートの『ノクティア』に装備させる時間がなければ意味がない。
不安を抱えたまま、まずは指示された通り出撃準備に取り掛かる。
黙々と作業に向き合うことで不安を振り払おうとしていると、しゃがんでいた私に影がかかった。
「シオリ」
「……アルバート」
見上げると、ヘルメットを片手に抱えたアルバートが立っていた。固定アームを外し、工具を置くと、手を差し出されたので素直に借りて立ち上がる。
「大丈夫? 最近、忙しかったって聞いたけど」
顔色が良くない、と言われ、冷え切った指先を隠すように自分の手を握り込んだ。
「少し、不安なだけ。大丈夫」
体調は悪くない。忙しいけど、ベラやレックスが休憩時間を作ってくれていた。
ただ、常に、焦燥感に襲われているだけで。そう伝えることはできないので誤魔化すと、アルバートは真剣な顔で、私の手を包み込んだ。
「……俺が、革命軍機から艦を守るから。シオリは安心して、此処で待ってて」
シオリのお陰で絶好調だから、とアルバートは笑う。確かに、アルバートも、他のパイロットも調子はいいと聞いている。
脳裏にチラつく彼の死に様が、伝わる体温で少しだけ、薄れた気がした。
「じゃあ、俺は待機だから。シオリはブリッジ?」
こくり、と頷けば、アルバートはそっかと笑って、床に置いていたヘルメットを抱え直し、コックピットに足を掛けた。
「また後で」
「__気を付けて」
専用機『ノクティア』が起動する。原作にはなかった、黄金の光を纏う機体をじっと見て、踵を返した。
そして、集められたブリッジにて、シャランド艦長は穏やかな表情を崩さずに、整備班全員に言った。
「皆、お疲れ様。今から本格的に戦闘が始まる訳だけど__、開発中の新兵器について、方針を話し合っておこうと思ってね」
視線が自分に集まるのを、はっきりと感じた。本格的に戦闘が始まれば、整備班も機体の緊急整備や補給で慌ただしく動くことになる。
正直、実験に割ける人手は無くなるだろう。
シャランド艦長は、私たちが提出していた実験レポートをモニターに映し出し、にこりと笑った。
「__ここまで、開発が進んだんだ。君たちが希望するなら、最後の実験を試す時間は設けよう」
ただし、各整備班に最低限の人数を残す必要がある。人手が必要な実験を早めに終わらせ、残りは少人数でできるように。
時間は少ないから、やるなら早めにね。その言葉に、私は頭を下げて、ベラ、レックスと顔を見合わせた。
「……最後の実験を始めます。手伝ってくれる方は、第四格納庫にお願いします」
実験準備に手間取れば。失敗したら。選定に時間が掛かれば。手に入らなければ。
不安はある。だが、原作よりも調子のいいパイロット達が、ティケオンにはいる。
そもそも、ユミト達と戦わずに済むかもしれない。少しずつ、原作からズレている状況が、どう転ぶかはわからない。
だから、一つ一つ、目の前の状況に向き合っていくしかない。
「試作装置、起動確認。準備完了。『ZONA粒子』発生装置、起動してください」
合図を皮切りに、『ZONA粒子』発生装置が金色の光を帯びていく。
金の輝きが収束するより前に、銃のような形の、停止装置から青い光が放たれた。




