22.調整
ゴルドの呼び出しから数日。エンブレイから直接部下を紹介され、全員から丁寧な挨拶を受けた。
私の作業量は減り、実験も技術に優れた補助をしてもらえるようになり、素材も融通してもらえたことから、研究は予想以上に進んだ。
問題の、アルバートの機体付きとなっている正規メカニック二人との関係は、平行線を辿っていた。ゴルドのからの話もあり、表立って問題は起こっていないものの、今後の事を考えると改善しておきたい。
そう思っていた矢先に、ゴルドから言われていた、単独での機体整備の日になった。
「事前に伝えた通り、今日は一日好きに機体を触ってもらう。とはいえ、基礎整備は終わってるから、チューニングだな」
普段とは違い、いつも以上に人気のない整備区画。代わりに、工具やパーツが、ふんだんに用意されていた。
「この辺にあるパーツは好きに使っていい。機械も好きなもん使え」
全ての区画に用意してあるクレーンだけでなく、特殊な作業をするための工具も、色々と用意してあった。
専用機にしか使えないような、珍しい武器も壁に並べてある。
「質問はあるか?」
これらを使って、正規メカニックに自分を認めさせるような整備を施す必要がある。普段の業務に影響が出ないよう、“整備”の範囲内で。
少し考えて、口を開いた。
「__一人、呼びたい人がいるのですが、良いですか?」
私に、出来ることの中で、最大の結果を残すには、その人がどうしても必要だった。
「手伝いか?」
「いえ、アルバート様です」
機体を駆る、パイロット本人。私の言葉に、ゴルドはあっさり頷いた。
「パイロットか。構わん、ただし、手は出させるなよ」
「はい」
呼んでくるから、始めておけ。そう言って出ていくゴルドを見送り、アルバートが来るまでに準備をしておく。
コックピット近くに道具を移動させ終わったところで、格納庫の入り口が開く。
「……シオリ一人?」
「はい。来てくれてありがとうございます、アルバート様」
「アルバートでいい」
「……わかりました」
調査任務以降、顔を合わせる機会がなくて忘れていたが、以後、呼び方はアルバートで統一した方が良さそうだ。
それこそ、小さい時から自分の中では呼び捨てていたが、改めて許可をもらうと、距離が近付いたようで擽ったかった。
「シオリ?」
「__それで、本題ですが」
いけない。今は集中しないと。ゴルドから最低限の話は聞いているだろうが、改めてアルバートに説明をする。
「__チューニングの希望を聞くために俺を呼んだってことでいい?」
その言葉に、小さく首を横に振る。
「それもありますが、もっと基本的な箇所から始めようかと思いまして」
コックピットを開け、アルバートに手を差し出す。
「座ってください」
「……もしかして」
言われるがまま、操縦席に座ったアルバートに、私は笑った。
「椅子の位置、高さ、操縦桿の角度__全部、アルバートの体型と癖に合わせて、調整します」
まずは、いつもの姿勢で座ってもらう。そこから、軽く操縦桿を握ったり、簡単な操作をしてもらい、動きを確認する。
途中、体を少し捻った時に、見えたものが気に掛かり、体を半分コックピットに入れて、手を伸ばした。
「失礼します」
「え」
体をしっかり固定するはずの、操縦席。しかし、アルバートの腰が、少し椅子から浮いていた。
「ここ、少し隙間が出来ています。旋回した時に体が揺れるのでは?」
腰部分を支えるクッションはある。元々、腰に沿って調整されていたのだと思う。しかし、今のアルバートの体には合っていなかった。
「あ〜〜、最近、少し痩せたから……」
戦場に立つ緊張感や、そもそもの資源温存もあり、体重が落ちているのだとアルバートは苦笑いした。
「今に合わせておきましょう。クッション詰めますね」
一度立ってもらい、クッションを詰め替え、再び確認。今度はしっかりと体が固定されたように見える。
続いて、座席の高さ、モニターの角度、操縦桿やペダル類の位置を少しずつ調整していき、アルバートが操作しやすいようにする。
今迄、不便を感じていない程度のことだ。だが、問題なく操作できていたものを、手足の延長のように操作できるようにする。
小さなストレスを減らすことで、咄嗟の判断に差が出ると、そう思うから、妥協はしない。
「配置はこのくらい?」
ベルトの長さや角度の調整が終わったところで、アルバートが尋ねてきた。私は少し考え、小さく頷いた。
これで、椅子など、コックピット内の配置は終わりだ。
「後は、モニターの視野と、反応速度、各部位の出力を調整して__」
実際に搭乗している際に感じていることを聞き、違和感や操作のズレを修正していく。
左右で微妙に異なっていたスラスター出力を同じになるよう微調整したり、重量を合わせたり、そういった小さなことでも、積み重ねれば大きな影響となる。
逆に、全てきっちり調整すれば。
「凄い、格段に動かしやすくなったよ」
パイロットの思い通りに動かせるようになるのだ。
「最大限滑らかに動くようにしましたので」
だが、ここまでの調整を終えた時点で、既に時刻は正午を過ぎていた。
「これで終わり?」
アルバートの質問に、首を横に振る。機体の調整は終わったが、まだ終わりではない。
「いえ、今からは、武器ですね」
専用機の特権は、武器の換装が手軽なことと、人間の手と同様に複雑な操作ができることだ。
基本的な操縦が楽になった分、武器の扱いに意識を割く余裕が生まれる。より合った武器に変えることも、機能を増やすこともできるだろう。
「アルバートは、あの大剣をよく使いますが……」
アルバートの代名詞といえる、青い光を纏う、黒い剣。金に縁取られた機体から放たれる、鋭い剣撃が『金鷲』の異名の元となっている。
本人に拘りがあり、最も使いやすい武器が大剣ならば、剣を最大限活かす方向で考えたい。
そう思っての質問だったが、アルバートの反応は意外なものだった。
「あー、あれか……」
「拘りがありますか?」
言い淀むとは思っていなかったので、特別な理由があるのかと思いきや。アルバートは頬を掻きながら、へらりと笑った。
「いや、俺は拘りがないけど。君が、よく見ていたから。ああいう武器が好きなのかと思って……」
俺としては、大きな剣は遠目だと量産機と見間違えやすいから、油断を誘えるかなってだけだったんだよ。
防御にも使えるし、突くことも斬ることもできるから、使いやすいとは思ってるけど。
ただ、飛行訓練の時より、戦闘訓練の時の方が、君が長く見ていたから。変える理由もないし、大剣を使い続けていただけで。
その言葉に、私は、目を丸くした。
「そんなに、見てました……?」
「多分、探しやすいだけとは、思ってたけど……」
直接的ではないが、肯定の言葉に、私は視線を下に逸らした。確かに、あの大剣は、実家の武器の中でも一際デザインが気に入っているものだ。
だから、つい、視線で追っていたかもしれない。でも、それを気付かれているとは思ってもいなかった。
「__ともかく、武器は、変更なしでいいですか?」
「うん。慣れた武器が一番だから」
「わかりました」
元々、エネルギーを纏わせることを前提としている大剣だ。調整で浮いたエネルギーを回せば、エネルギー刃のリーチを伸ばすことができるだろう。
全体のエネルギー流路を確認して、無駄をなくせば大幅な強化が期待できる。使用可能パーツを見ると、剣に使われているものと同じ、エネルギー管があった。
この調整には時間が掛かるので、一度、アルバートには休憩に行ってもらう。その間、自分はゼリー飲料を流し込み、手を動かし続けた。
その結果。
「専用機__名付けるなら、『ノクティア』です」
構造はそのまま、換えたのはエネルギー管だけだったのだが。それでも、管が黒から金に変わったことで、見違えるほど印象が変わった機体が、そこに佇んでいた。




