21.権限
私の言葉に、ゴルドは目を丸くした。
「新兵器開発? 何を……」
正規の軍人。それも技術系トップであるゴルドからすれば、馬鹿だと思われて当然だ。
それでも、無駄なことに時間は割くなと、正式に中断指示を出されては困る。私は何も言わずに頭を下げた。
「……すみません、以後、問題は起こさないので」
何も言わないで、とレックスにも視線で伝え、退室してから今後の時間確保について考えようと思ったのだが。
「おい、それ、資料か?」
ゴルドが、念の為に持ってきていた資料に気付いた。どう答えよう、と迷っている間に、レックスが私の手から資料を取ってゴルドに差し出した。
「そうですよ。僕は詳細知りませんけど」
「は? これだけあってか?」
資料は、ベラやレックスに纏めてもらったメモと参考文献、そして私の実験用メモがそれぞれ纏められている。
ゴルドは初めの方を数ページ__二人が作ったメモを暫く読んでから、深々と溜息をついた。
「__現時点の計画、洗いざらい話せ」
資料から、私が本気であることは伝わったらしい。ゴルドの目線は鋭かった。だが、上手くいけば正式に開発を認めてもらえる機会だ。
深く息を吸い、口を開いた。
「以前、機体整備責任者だけが集められた際の話が含まれますが」
レックスには『ZONA粒子』について知らない。纏めた資料から、大まかな方向性は察しているだろうが、禁止技術なので伏せていた。
この場で説明するとなると、レックスに禁止技術について教えることになってしまう。が、ゴルドはあっさりと頷いた。
「良い。頭数に数えて良いんだろ、そいつ」
敵のビーム兵器と運動性の異常さは既に知れ渡っている。味方を安心させ、対策を取るためにも、『ZONA粒子』については追々公開されら予定だったらしい。
それならば、と気にせず、レックスにも詳細を伝えることにする。
「革命軍機体が利用していると予想される技術__『ZONA粒子』を無効化するための、兵器開発を考えています」
別の手法ではなく、直接、敵の主要技術を無効化する。既にある技術を強化するのではなく、敵の土俵に上がることになる。
ゴルドの視線が、厳しくなった。
「本来、兵器開発は膨大の時間を掛けてやるもんだ。それは理解しているな?」
既存技術を発展させるとしても、年単位。新技術となれば最低五年、十年単位で将来を見据えた計画を立てることは、理解している。
「はい。ですが……」
「わかってる。今のままじゃあ勝ち目はねぇ」
だから話聞くんだろうが。ゴルドは荒っぽく資料をめくり始めた。
「理論としては__、成る程な、“粒子”ってことに目をつけた訳か。確かに、可能性はある」
アクティブノイズキャンセリング自体は存在する技術だ。この世界より平和な__地球でも利用されていた技術。
イヤホンなどの小さなものや、野外ライブの騒音対策などの出力がある程度大きいものにも使われている。
だから、希望がないわけではない、と思っている。
「が、そう上手くいくもんでもねぇ。今の時点でも、課題は山ほどある。そうだろ?」
ゴルドの指摘に、素直に頷いた。新技術に挑むのだ。課題がないわけがない。
が、課題に心当たりがあると言うとは、研究を進める上ではメリットだ。今、思いついている限りの課題を、順に挙げていく。
「__耐久性の高い、振動測定と解析用の装置、そして、逆位相の振動発生源」
ここまでは、高出力の振動を打ち消すために必要な技術。敵機のビーム兵器の威力を考えると、相当な耐久性が必要になるが、敵機が利用しているのだから、探せば見つけられるだろう。
問題は、素材の選定結果を、どう評価するかだ。
「色々と検証することを考えると、敵機の鹵獲が必要になります」
どれだけ短期間で研究を進めたとしても、実戦で利用しようと思うと検証実験は必須だ。
敵に勝つことができないから、新兵器が必要なのに、新兵器を開発するために、敵機の鹵獲が必要。
卵が先か、鶏が先か。その問題に行き着いてしまうのである。
「まず、ある程度の見込みを示さねぇと、鹵獲なんぞ面倒な指示は出せない」
「わかって、います」
検証実験に使えるような状態で敵機を鹵獲する、というのは、撃墜する以上に難しい。損害を最小限にしながら無力化する。
パイロットの技量は正規軍である此方が上回っているとはいえ、余裕のない戦況下だ。鹵獲指示など出せるはずがない。そもそも、敵機体を翻弄するには機体のスペックが足りない。
堂々巡りになってしまう状態に俯くと、大きな手が肩に置かれた。ゴルドの手だ。
「だがな、逆を言えば、見込みを示せば、援助は受けられる可能性が高い」
現状が続けば、勝ち目はない。この艦だけでなく、正規軍全体が理解していることだ。だが、前線で戦っている正規軍には新兵器開発をする余裕はない。戦いに関与しない大学では、情報や資源のやり取りが間に合わない。
「叩き上げの技術屋だけじゃねぇ、お前たちみたいな研究に慣れた大学関係者を載せている、このティケオンが。今、一番、新兵器開発には適している」
士官学生と、付属大学生により、人的余裕が若干でも生まれているこの艦こそが。開発の最前線になるべきだと、ゴルドは言った。
「パイロットの技量は負けてねぇ。多少無理をさせることになるが、鹵獲はできる」
言いながら、ゴルドは私に一枚のカードを投げ渡した。受け取ったそれを確認して、目を見開いた。赤い、不死鳥が描かれた、そのカードは。
「大佐の……」
「それがあれば、禁止技術のデータも、ある程度の資材の発注もできる」
艦内での資料閲覧と購入に関する権限が付与された、新しいIDカードだった。名前の欄には、私の名前が記入されている。
「もしかして……」
あまりに、用意が良すぎる。これはもしかして、私たちを呼び出した時点で。ちらり、とゴルドの顔を見ると、当たり前だろと頷かれた。
「お前らが何を調べてるかなんて、履歴見ればわかるに決まってんだろうが。エンブレイが報告したうえで、俺が精査して権限渡すか決めろって指示だったんだよ」
ゴルド達の予想よりかは、資料や実験計画が整っていたこともあり、無事に権限を貰ったということらしい。禁止技術について、レックスに伝えていなかったことも、規律性があると認められたそうだ。
「人員は、此方からも出す。エンブレイの部下は特に実力主義が多い。この資料を見せれば黙って従うだろうさ」
コピー取って渡しとくが構わねぇな、との言葉に深く頷く。その資料だけで手伝ってくれる人がどれだけ増えるか分からないが、可能性があるならお願いしたい。
「お前__」
「シオリ先輩に言っても無駄です。僕も最近気づきました」
「おう……、そうか」
ゴルドとレックスが何か話しているが、視線を向けても溜息が返ってくるだけだった。
話は終わりだろうか、と首を傾げれば、ゴルドが一つ咳払いをした。
「当初の問題についてだが、俺の方から話はしておく」
レックスの物言いは問題だが、仕事を押し付けられていた分は、断っても構わないらしい。
「とはいえ、あいつらにも現場で働いてきた意地がある。それで、だ」
出撃も訓練も無い日、丸一日を使って、アルバートの機体を一人で好きなように整備しろ。
それが、尤も円満にいく方法だと、ゴルドは笑った。




