26.祈り
青い光が、真っ直ぐに旧研究施設に吸い込まれていく。ガクンと急速に勢いをなくしたヴェンの機体が、私の機体の真横をすり抜ける。
『ヴェン!!』
『止まっ、た……?』
呆然としたヴェンの声。
旧研究施設から放出されていた『ZONA粒子』によるエネルギー増幅が止まり、暴走も終わったのだ。
『制御、戻ってる……』
金色の光が、周囲に散っていく中。追いついたユミトの『ホープレイ』が、ヴェンの機体を掴む。
『どうにか、間に合ったか……』
『私は、何が起こったのか、理解できていないのですが……』
ああ、とアルバートが説明を始める。敵機を撃墜できないと聞いたアルバートは、咄嗟に身を翻し、研究施設に向けて停止装置を起動。ヴェンの機体と接触しないよう、停止装置と繋がっていたエネルギー菅を引っ張り、私の機体を無理矢理引き寄せたらしい。
『手荒な真似をしてすまなかった』
確かに、突然の動きに体は椅子に叩きつけられ、背中は痛みを訴えているが、今はそんなこと、どうでも良かった。
『いいえ、助けてくださり、ありがとうございます』
私の事も、ユミトとヴェンの事も。ヴェンの機体を支えながら、距離を取る『ホープレイ』に敵意は無いように感じる。
アルバートが大剣を振り、リヴォルツィオーネを指し示すと、少しの間の後、『ホープレイ』は相棒と共に母艦に向けて、退いて行った。
ほっと息を吐くと、全身から力が抜けていくような気がした。
『__助けて貰うのは、三度目ですね』
『貴女の整備した機体のお陰ですね』
母艦同士の戦いも、どうやら決着がついたらしい。リヴォルツィオーネから放たれた緑色の光__降伏信号を見て、『ノクティア』が動き出す。
『戻ろう』
そうして、先導しようとするアルバートに対して、私は、物凄く気まずさに耐えながら、言った。
『ごめんなさい……、エネルギーが、残ってなくて』
深々とした溜息。無言で機体を支えられ、呆れられたか、と内心焦っていると。
『シオリは、意外と、無茶をする……』
ぽつり、と零れ落ちた言葉に、私は再び、ごめんなさいと言ったのだった。
◇
惑星オークニス近郊での戦いから三ヵ月。様々な手続きや事情聴取などを終え、私たちは、やっと大学に戻ってきていた。
昼休みの研究室には、宇宙機関連合によるニュース音声が流れている。
「星侯の一族が『ZONA粒子』開発で事故を起こして、更に隠蔽してるなんてね……」
「おい、その顔、シオリ先輩知ってただろ」
他に誰もいないことをいいことに、両側から詰め寄ってくるベラとレックスを引きはがしながら、私はパンを一口かじった。
「いや、二人に言うわけにはいかなかったから……」
あの後。革命軍は。切り札である旧研究施設が無力化された時点で、『ZONA粒子』によるエネルギー有利は失われたと判断し、降伏した。
「『金鷲』様、よく咄嗟に研究施設を撃てたわね」
「……元々オークニスの出身で、良い印象が無かったって言ってた」
ロヒュードルの星侯一族は、『ZONA粒子』の実験失敗後、研究の中止を言い渡されたが、成功すれば莫大な利益を生む技術を捨てられなかったらしい。
秘密裏に研究を進めていたものの、宇宙連合機関に気付かれそうになった時。丁度良く立ち上がったセラディア居住区群の撤廃反対派と手を組み、革命軍を立ち上げたらしい。
元共同研究相手で、実験を受け入れたものの失敗され、挙句に隠蔽された被害者である惑星オークニス側は、今度こそ正式にロヒュードルの星侯一族を訴えた。
結果、多額の賠償金が支払われることになり、観光惑星としての復活も早まるのではと言われている。
「結果的な仇討ちか。お陰で勝てたし、良かったんじゃない」
「そんな軽く言う?」
ユミトやヴェン、居住区群の住民に関しては、反乱行為ではあるものの唆された面もある為、監視付きでの労働が課されるという。
とはいえ、宇宙連合機関も思う所があったらしい。その労働内容は、セラディア居住区群の建て直し作業となる予定だ。
停止されていた『ZONA粒子』の研究は、宇宙連合機関の監視のもと、安全化を目指すらしい。そのこともあり、事情聴取が長くなってしまった。
「で、シオリ先輩、この後は呼ばれてるんだろ?」
「フェニーチェ大佐からの呼び出しって、もしかして、正式に軍属に?」
「それは断ったよ……」
「え、勿体ない!!」
「いや、実家があるだろ」
じゃあ、何をしに行くの、と首を傾げたベラに対し、人差し指を一本立てて返事をする。そろそろ、迎えが来るはずだ。
「シオリ? そろそろ時間に……」
自信なさげに研究室に入って来たアルバートに、ベラが椅子から立ち上がる。
「え、『金鷲』様!?」
「ごめん、ベラ、レックス、ちょっと行ってくる!!」
「おい、戻りの時間は!?」
「一時間くらい!! すぐ戻るから!!」
二人で向かうのは、大学の奥、研究区域の中でも立ち入りが制限されている場所だ。カードキーをかざし、中に入り、複雑な建物内を左右に何度も曲がりエレベーターに乗る。
再びカードをかざせば、階を指定せずとも動き出すエレベーター。そうして辿り着いたのは、学園区の地下となる部分だ。扉を開いた瞬間、無機質な扉の並ぶ廊下が目の前に広がった。
「来たか」
コツコツとハイヒールを鳴らし、ラフィネ・フェニーチェ大佐が奥から現れた。無言で踵を返す彼女について行った先にあるのは、一つの扉。
扉の先にあるのは、革命軍の主力機体『ホープレイ』だ。
「お前たちの功績もある。結論は、聞かせることになった」
『ホープレイ』は他の機体と違い、鹵獲した機体に『ZONA粒子』を利用した動力炉を載せたものではなく、一から革命軍に開発された機体だ。その性能は、現在、宇宙連合機関連合主力機体に比べ、圧倒的に高い。
一方で、あの時のヴェンの機体のように、暴走する可能性もある。
「安全性が担保されるまで、この機体は秘密裏に保管されることとなった」
この保管場所を知るのは、宇宙連合機関内でも一握り、直接対峙した戦艦ティケオンの中でも、エンブレイやシャランド艦長にしか伝えられていないらしい。
「何かあれば、お前たちが対処することになる」
アルバートに手渡されたのは、『ホープレイ』の制御キーだ。一本しかないキーが無ければ、起動はできないが、技術を盗むことはできる。
「シオリ・トキタカ臨時メカニック」
「はい」
「これを」
そして、私には、一丁の拳銃。正規軍で用いられているものに、不死鳥の飾りが彫られているものだ。所有の許可は、当然、下りているのだろう。
「使わずに済むのが一番だが、練習しておけ」
「……ありがとう、ございます」
それだけ告げると、大佐は部屋の外に出た。私たちも続くと、後ろから重厚なロック音が響き渡る。
片手に持った拳銃は、冷たく、私の手には重いけれど。けれど、これは必要な重さだと、しっかり握り直す。
背後の扉が二度と、開かれないことを、静かに祈る。たとえ、無意味な祈りだとしても。
「シオリ」
手を差し伸べてくれる、アルバートがいるなら。きっと大丈夫だと、そう思えるから。
差し出された手を取り、冷たい廊下を歩き出した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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